第8話 魔術
第8話 魔術
夜になり、食事をした後、部屋に戻って来た。
さて、あの変身した時のスペックを知らなければいけないと思い変身しようと思うのだが中々変身する気になれない。
変身解除後の疲れもあるが、性格がかなり攻撃的になるからというのもある。とは言え、放置もまずいだろう。
既に、真っ当でない強さの悪党が目の前に存在しているのだ。覚悟を決め無ければいけない。
確か、左手で右手首の腕輪を握り、左手を肘の方に引きながら変身をイメージする。
「 変 身 !」
前回と同じように何処からか声がして、腕輪は輝き、光と闇を纏うと新たな姿に変わって、部屋に備え付けられている全身鏡で姿を確認する。
全身の色は黒をベースに青い白く光るラインで統一されている。
全体的に地球のロボットアニメで流行りそうな流線形のデザインに鋭くエッジを効かせたシャープな縁取が近未来感を出していて、複数の装甲が細かい凹凸を作っている。
頭のパーツもかなり複雑ではあるが一番のポイントは額からでた2本ツノが流線形を描きながら頭部の丸みにそって後ろに反り返り、先端の方で逆に反り返っている所だろう。
腕や、足は人体の筋肉を沿う様な装甲が何枚も重なり複雑な造りではあるが、スピーディーなイメージを崩さない。
手首には先日24マルチホーミングレーザーを放った大型のドームパーツ。その手甲側に2本のスパイクがついた厚い装甲、肘側には小型のスラスターが左右対称についている。
また、肘と足首には鋭く尖ったブレードが一対づつついてい刃物のようだ。
背中は、背骨をイメージしたような頑丈な装甲を中心に、各部が動きやすい様パズルがはまったような装甲が噛み合わさっていて、その背中には左右対称のスラスターが変化したような翼が小さく生えている。
腰にも小型のスラスターの様なものと、肘や足首についてる物を長くしたようなブレードが2枚づつ左右についている。
軽く宙に浮けば、背中の羽と各種スラスターから青白い粒子が放たれて身体に纏っている複数のブレードも青白く輝きだす。
なるほど、最上級天使であり、神の敵対者の王である、ルシフェルを模した姿と言っても過言ではない姿だ。
しかし、解せないのは瞬間装備型といっているが、どうにも装備していると言う感じがしない。
まず第一に、これほどの物を装備してしまうと、殆どの日本人はずんぐりむっくりになるだろう。芸能人やモデルなどの別次元の人間は別とだが・・・。
この手のコスプレをしていたので分かるのだが、ここまで色々くっついているにも関わらず鏡に映った姿が、バランスのいい8等身に俺がなるなんてあり得ない。
そもそも元がそんなにいい体系でないのに、いくら足の装備で身長が若干上がってるとは無理があるだろう。
さらに言うと、顔面を全部覆っているのに頭でっかちになってないところも大きい。これは、装備といいながら実は身体を再編成しているのではないだろうか?
≪おい、エルリード!この変身、瞬間装備などと言っているが実は身体の再編成だろう?≫
≪ルシフェル・システムノ変身ニ関係スル、データニハ、アクセス権限ガナイタメ不明デス≫
≪チッ、使えねぇ野郎だ≫
まぁいい、どちらにしても俺はカッコイイ。それが全てだ。そう思うと宿の窓から夜の空に向かって飛翔する。
ステルスモードで街の中心で浮かぶ。情報収集するにも無駄に飛べばエネルギーも消耗するからな。コイツを使うか。
スキル:アイソセレス・インセクター Lv-:消費100EN【半径1kmまでの偵察及び威力偵察を可能なブーメラン状の虫型ドローンを射出する。最大行動時間15分 最大2機まで】
「さぁ、虫共よ行け!」
そう命令を下すと、両方の肩の装甲であった一部が外れてドローンとなり青白い光の粒子を少しだけまき散らしながら高速で飛んで行く。意識をするとドローンからの映像が視界に映る。
5分ぐらいすると興味深い映像が映し出される。どうやら男が暴れている様だ。近くにいるメガネを掛けた女魔術師や戦士風の男、兵士が対応しているが手に負えないようだ。
既に何人かの兵士や戦闘職であろう人間が倒れている。虫に念を飛ばし詳細を見てみると、【魔薬暴走状態・呪狂状態】と出ている。良く分からないが文字のニュアンスから真っ当な状態でないのは確かなようだ。
急いで、ドローンの方へ向かう。もう1機もそちらに向かう様に支持をだしておく。
異変の起きている現場に付くと上空から男を確認する。男は全身から黒いオーラを放っていて目を真っ赤にして大暴れしている。
男は、既に人の声とは思えない謎の声も放っている。眼鏡を掛けた女魔術師が放たれた邪気に吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。そのまま男は黒いオーラを剣から女術師に向かって飛ばす。
スキル:神速跳躍 Lv1【消費250EN 半径10m以内の場所に超高速で移動する】
スキル:フォールン・パーティクル・フィールド Lv1【消費100EN 強力なアンチエネルギー粒子を局所に展開し、様々な属性エネルギーを一定量拡散・消失させる】
2つのスキルを併用し、一瞬で眼鏡女魔術師に立ち黒いオーラを無効化させる。
俺の突然の出現に、暴れている男は驚き動きを止め、生き残った者達は得体の知れない存在にさらに後ずさる。
攻撃対象として俺を捉えた男は大きく踏み込んで切りかかって来る。しかしその刃が俺を切る事はない。指2本で余裕で止まる。
「それだけか?」
そう言って動けなくなった男の無防備な腹を拳で殴りつけて吹き飛ばす。
「がぁぁぁぁ!!!!」
直ぐに立ち上がり咆哮を上げる男。
「威勢だけはいいな」
薄暗い夜の世界に一瞬、青白い光線が男の両足を貫く。
空中に待機させていた偵察機の虫のレーザーで足を貫き行動不能にすると虫をアーマーに収納する。
「うぎぎぎ・・がぁーーーー!」
すると、さらに咆哮を上げたと思うと背中がバキバキ盛り上がり、背骨が皮膚から突き出しはじめ、最後には身体を突き破ると黒い何かが這い出てくる。
周りの人間はその狂気に満ちたスプラッタの世界に逃げたいが恐ろしすぎて逃げられないと言った感じにじりじりと後ろずさる。
「人ですらなくなったか・・・。なら話が早い」
スキル:カタストロフィック・ファースト・ナックル Lv1【消費500EN 神速跳躍を応用した移動能力で最速の破滅をもたらす拳を打ち込む】
スキルをイメージすると一瞬で背中の翼が熱を持つのを感じると俺から放たれている光の粒子の濃度が上がり、右手首のドーム状のパーツについていたスパイク付の装甲が前に移動してナックルガードとなる。
手首の2つのスラスターは螺旋を描く様に強く光の粒子を放ち、直観的にスキルの準備が整ったことが伝わってくる。俺はその直感に従い地面を蹴り上げるとスキルを放つ。
「カタストロフィック・ファースト・ナックル!!!」
それは一瞬の一撃。黒い何かが完全に這い出てくる前に拳を直撃させて粉砕する。
黒い異形のモノは跡形もなく只の黒い粉と消えた。
「変身に時間を掛け過ぎだ。そんなんで戦場に出るから塵と消える事となるんだ」
周りの人間達はいきなりのスプラッタ劇場と一瞬の俺のスキルの凄さに誰も声がでないと見える。ぴくりとも動きやしない。
いや、一人だけ後ろから何とか近づいて来るのが背後センサーが捉え視界に映る。へぇ、一人だけ根性ある奴がいたか。
「あの、助けていただいて・・・ありがとうございます。貴方は一体・・・?」
そう声を掛けて来たのは、吹き飛ばされて殺されそうになってた眼鏡女魔術師だ。
「・・・ルシフェル。堕天神・ルシフェル」
そう顔だけ向けて答えると空高く飛翔してから空間転移で宿に戻る。
翌朝
宿屋のベットで目覚めた俺は、昨日の夜の事を思い出していた。
人が狂いだし、そこから黒い何かが出てくる、そんな恐ろしい光景。一体あれは何だったのか?この世界ではよくある事なのか?
いや、それにしては周りの人間は対処出来てたとは言えず、まるで初めて見る光景のようであった。うーむ。わからないな。
≪オハヨウゴザイマス。ルシフェル様≫
いやぁ・・・やめろぉぉぉぉぉぉ!!!意識して思い出さない様にしてたんだからぁーーー!
なんだよルシフェルって、いやまぁルシフェル・システムだけどよぉ!なんで、あんな名前名乗ったんだよぉー昨日の俺。完全に中二病じゃねーか!
もう、ベッドの上で悶えるしかない。ジタバタしながらエルリードに命令する。
≪いいか、お前は2度と、俺をルシフェルと呼ぶんじゃない。今まで通りマスターでいい≫
≪畏マリマシタ。堕天神様≫
≪やめろぉぉ!!!お前ワザとやってるだろうぉー!≫
全くを持って効果はないだろうがガンガンと腕輪を叩いてやる。
はぁはぁ・・・朝からなんか疲れた・・・。
そんな悪夢の様なドタバタ劇を終えて何とか気力を取り戻し朝食を取る、女将に更に宿の延長をお願いして料金を支払うと、ハンターズギルドへと向かう。
「お、エージロー君。いいところに来てくれた」
ギルドに入ると待ってましたとばかりに声を掛けてくる。
「ん?親父さんどうしたんだい」
「ちょっと特殊な仕事を頼みたくてな。丁度ギルドマスターも来ているから話を聞いてもらえないか?」
特に断る理由も無かったので、とりあえず話を聞く為にギルドマスターの部屋に案内してもらい話を聞く。
「やぁ。話は聞いているよ。エージロー君。僕はハンタギ・ルーマスーよろしくね」
名前を名乗ると細身の白髪で白い顎鬚を生やしたの年配ギルドマスターが手を出してくるので握手をする。
「それで、何か特殊なクエストをお願いしたいとか」
そう話を切りだすと顎鬚を触りながら何かを考えた後に言葉にする。
「ここだけの話、ここ数日近隣の村からの訪問者が途絶え、また村に向かった者達が返ってこない案件が多発している。最初は盗賊団でも居座ったのかと思ったが、どうも一つの村と言う話では無いらしい」
「それは、穏やかな話じゃないね」
「ああ、そして、その事態を重く受け止めた冒険者ギルドが冒険者を派遣するも行方不明。よって各ギルドからベテランランクの斥候ができそうな人物でパーティを組ませ、それぞれの場所で偵察、状況次第で威力偵察を行う事が決定したんだが、どうだい興味あるかね?」
「なるほど。でも何故俺が?俺はここに来てまだ日も浅くハンターズギルドの仕事は余りしてないのだが・・・」
そう言うと、ギルドマスターは目を閉じて首をふる。
「エージロー君、これは忠告でもあり君に対する教えだとも思ってほしい。各ギルドの情報収集、解析能力は甘く見ない方がいい。各ギルドはお互いの、そして政府との利害関係をはっきりさせる為に常に様々な情報を集めている」
確かに、食い物にされずに勢力をしっかり伸ばすには、裏と表の情報を手にしていなければ直ぐに足元をすくわれてしまう。いくら俺の装備が強くても大きな目に見えない力の前にはどうにもならないだろうな。
それに、何処まで俺の秘密を知っているのか不明だが、不明故に怖すぎるな。ルシフェルの事まで知っている可能性もないとはいえない。
「ええ、肝に銘じて置くよ」
「分かってくれて結構。で、どうするかね。この依頼を受ける受けないで特に君の不利益になるような事はしないさ。ただ今の話は他言無用にしてもらうがね。もちろんこの依頼は何が起きるか分からない危険な依頼で機密性も高い、なので報酬はそれなりに出る予定だ」
まぁやる事もないしお金になるのはありがたい。それに俺の秘密の件もあるし、ここでギルドに恩を売れればそれはそれで大きいからな。あとは他のギルドと言うのが、どんなギルドなのか個人的に気になる。
「分かった。受ける事にするよ」
「そうか、それは助かる。それでは明日の日没前、時計台が5時を指す前に西門に集合してほしい」
「了解、あ、そうだ折角だから聞いておきたいんだが、魔術師ギルドって俺みたいな魔術がさっぱりな人間にも魔術を教えてくれるのかい?」
「え?ああ、基礎的な事なら有料で教えてくれるはずだ。私達もハンターの基礎知識ぐらいは教えてるからね」
「わかった。ありがとう」
そう言うと部屋を出てラウンジにいたマッチョスに挨拶をしてハンターズギルドを出る。目指すは魔術師ギルドだ。
出た時に、場所を聞くのを忘れた!と思ったが何のことはない、ハンターズギルドを出て道路の反対側の斜め左にあった。
魔術師ギルドに入ると入れ違いに10歳程の子供が2人去っていく。子供?いやこの世界見た目で判断しない方がいいな。
魔術師ギルドは、外見もそうだったが内装もハンターズギルドと基本的に同じ造りであった。ハンターズギルド同様、人が沢山いる気配はない。
取りあえず、依頼受付に向かう。
「こんにちは、えーと魔術師で無いようだけど、依頼の注文かな?」
受付の青年が声を掛けてくる。
「ああ、注文というよりは、魔術に関して有料で教えてもらえると言う話だったので来たんだが・・・」
「魔術講師の依頼か、ちっと今、講師が出来る魔術師がいなくてな、残念なんだが出来ないんだ」
「そうか、他に何処かで教えてくれる所とか知っているかい?」
「うーん、今は厳しいだろうなぁ。君も知ってるだろう?イッキリーノが暴れてるって話。なんでも今は、ひたすら魔術師を狙っているらしい」
「魔術師を?なんでまた」
「どうも、噂によると何処からか隠れてイッキリーノに魔術を連発した物好きがいるらしんだ。あの鎧があるから無駄なのにねぇ。一部では殺されそうになった親子を助けたって話もあるけどさ」
いやー、どっかで聞いた覚えあるなぁ。でも、アレに魔術連発するなんて骨のある奴なんていたんだねぇー。
≪ホボ100%ノ確率デ、マスターノ狙撃行為ノ事ダト思ワレマス≫
≪言うなぁーーー。俺は心の底でその可能性を排除しようとしてたんだー!≫
「そ、そうなんだ。それじゃあ仕方ない・・・」
すいませんソレ俺のせいです、と心の中で謝りながら諦めると女の声が割り込んでくる。
「どうしました?モッブーさん。あ、お客様ですか?」
「ハーネアさん!今日は休んだ方がいいって言ったじゃないですか」
振り返ると、何処かで見覚えのある中々素敵なボディの眼鏡女魔術師が立っている。
「何言ってるんですか、あの程度で休んでいたらランクBを返上しなければいけませんよ」
「しかし・・・」
「それに助けて貰いましたしね」
「あのルシフェルとか言う得体の知れない輩ですか?」
「そう言う、悪い言い方はやめて下さい。あの人は皆を助けたのですよ」
少し、怒り気味にハーネアと呼ばれた女性は言う。
「まぁ、そうなんですが・・・」
「で、どうしたんですか?」
「えっと、この方が魔術の勉強をしたいと」
漸くターンが回って来たので挨拶をする。
「俺はハンターズギルドメンバーのエイジロウだ。実は魔術を教えもらえるって聞いてきたんだけどさ」
そう言うと手で掛けている眼鏡を掴みながら値踏みするようにマジマジと俺を見る。
「うーん。エイジロウさんの場合、ハンターの能力が高いので、魔術を覚えて使ったとしても狩りで使うには威力不足と感じてしまうと思いますよ」
「狩で使うよりも、生活等ですごく便利になるぐらいの魔術があればそれでいいかな」
「分かりました。それでは問題は無いようです。それでは少々お待ちください」
おお!問題ないらしい。とうとう俺も魔術が使える様になるのか!素晴らしい・・・素晴らしいぞぉぉぉ!フハハハハ!
そう感動に浸っているとハーネアに呼ばれていることに気が付く。
「あ、あのぉー。大丈夫ですか?」
なんだか、すごく心配されてる気がする。何故だろうか?
「え?ええ、大丈夫ですよ」
「それでは、私、臨時講師をしてます、ハーネア・ワイズデンです。よろしくお願いします」
おお、この人が教えてくれるのか。うんうんハーネア先生!眼鏡にお色気ボディになんともらしいな。
「よろしく」
握手をすると、まずは座学という事で部屋の一室に向かい勉強を開始する。
小一時間講義を聞いたが・・・。うん、さっぱり意味わからないね!
エルリードと言っていた事と全くかみ合わない。魔素とか活性魔素とか回路とかそんな単語は欠片も出てこなかった。魔力ってのはあったけれども。
ハーネア先生曰く、精霊の力を借りてそれを現象に起こすのだとか、精霊に愛されなければいけないとか、中身がおとぎ話だった。
講義の後に蝋燭に火をともすという実技をやったけどサッパリだった。魔法陣を使って炎を精霊を呼び込むのだとか・・・。しかし精霊って本当にいるのだろうか?
エルリードに聞いても、精霊ノ有無ハ、データベースニハ登録サレテマセン。と答えるだけだしな。
そんなこんなで1時間・・・なんと、蝋燭に火が付いた。火がついたよ!すげぇよ!でもさ、袋に入ってるメタルマッチ使えば数十秒で火をつけられる自身があるよ!
・・・魔術って便利かね?いやいや使える事に意味があるんだ!きっとそうだよな!
ちなみに巻物に描かれた魔法陣を使ったんだが、ヴァンがワイバーンを浮かした時はそんなモノ使用してなかったし、この世界の魔術師っぽい人って割と杖を持ってるよな?
そう思い聞いてみると、殆どがメモリーストーンという物に魔法陣を記憶させていて、それを展開する事で魔術を行使するのだとか。杖とか指輪とか装備品にその石が使われているらしい。
また、数が必要であったり価格を考えると本という形状が一番効率がいいのだが、とっさに使うのに任意のページを開けないと使えないというデメリットが多きく、研究者タイプの魔術師ぐらいしか使わないらしい。
なるほどねぇ。魔術師でも色々あるのか。でも、待てよ・・・魔法陣が記憶されているなら、何でもいいというならばスマートフォンで写真を取っておけばいいのでは?面白そうだ。帰ったら実験だ。
そんな期待を胸に、ハーネア先生の授業を終えて、魔術師ギルドの登録をしてから料金を支払って帰るのだが、その予想は斜め上の予想外の方向で幕を閉じる。
持ち帰った巻物をスマートフォンで写真に収めているとエルリードが話しかけてくる。
≪マスター、魔法陣ノ映像データ、ダケデヨロシケレバ、データベースニ便利ナ、アプリガ存在シマス≫
≪は?どういうことなんだ≫
≪トリアエズ使ッテミル事ヲ、オ進メシマス。マスターノデバイスニデータヲ転送開始・・・転送完了≫
そうエルリードが言うと、スマートフォンのホーム画面にアイコンが増えてインストール中と出ると、直ぐに完了し使用可能になる。
≪レゲメトン用魔術データベースver2.5?≫
≪元々ハ地球デ魔術ヲ行使スル為ニ開発サレマシタガ、マスターノ使用スル、スマートフォンハ市販ノ物ナノデ魔術ニ関スル資料ヲ閲覧スルダケノ機能デス≫
≪へぇーそうなのか。って、なんで地球で魔術が出てくるんだよ!?≫
≪地球ハ魔素ガ非常ニ少ナイ為、魔術ハ表ノ世界デハ廃レ失ワレマシタ、ソノ代ワリニ科学トイウ物ヲ中心ニ発達シマシタ。コノツールハ逆に科学ノ力デ魔術ヲ再現シヨウト試ミタ裏ノ世界ノ産物ノ一部デス≫
≪意外と地球でもアニメとか漫画っぽい事が俺らの知らない所で起きていたってことか?信じられないな。だが異世界転移を考えるとあり得ない話ではないか≫
≪ソノ通リデス≫
驚愕の事実である。それによくよく振り返れば、ノアの発言、袋の持ち物の状態を考えると、この世界の住人が俺を引き込んだというよりは、地球から送り込まれたようなニュアンスが大きい。
だが、俺の知っている地球の科学では異なる世界なんて存在を確かめる事すら出来ていない。という事は魔術の様な別の何かが存在してると考えたほうが自然だ。
もしかして、予想以上にややこしい事に俺は足を突っ込んでいるのだろうか?考えても答えは出てこないので、とりあえずアプリの魔法陣で魔術が使えるか試してみる。
巻物と比べると、アプリの魔法陣の方が色々と複雑な図形が追加されている。とりあえず、炎を出す魔法陣を調べて表示し使い魔術を行使してみる。
「うわっ!」
一気にバレーボール程の火球が現れて消えた。
びっくりした。マジで。蝋燭の火くらいが精いっぱいだったのに。
≪オ気ヲ付ケ下サイ。地球ノ魔法陣ハ、最小ノ魔素デ最大限ノ効果ガ出ル様ニ研究ニ研究ヲ重ネテ描カレテマス≫
なるほど。めっちゃエコに出来てるのか。それにこれは、きっとデジタルで書かれてるから魔法陣の精度が半端ないんだろうな。巻物の方は一部だが、僅かに線が歪んでたり、太さが違う部分もあって完璧な図形とはいい難い。
水の魔術を使いバレーボール程の水を空中に維持させながら、上手い事冷気、魔術を使えば、良質な氷が出来る。
しかし上手く出来たと思うのも束の間、気を抜けば水が氷に相転移しても水の魔術が途切れれば氷も消えてしまう。これでは、飲み水にはできないな。シャワーなどにはいいかもしれない。洗い流して一瞬で乾くはず。
通常で存在する水であれば冷気魔術で凍らせた後に魔術を解いても消えないし氷のままだ。もちろん冷気魔術の効果は消えているので気温に合わせて徐々に氷は溶けていく。
ふむふむ、興味深い。魔術で起こした現象そのものは魔術を解けば消えるが、そこから発生する2次的現象はあくまで科学的現象によって起こるから継続されるのか。
因みに色々試したが、どの魔術も俺の能力では最大でバレーボールサイズぐらいが限界だった。
かなり疲労を感じて外を見ればもう夜だった。それをみると余計にどっと疲れが押し寄せて来る。
例えるなら、ひたすらパソコンに向かって書類作成を丸一日していた疲労感だ。これがMPを消費して疲労するって事なんだろう。
よし、今日の魔術練習は止めて、飯くって風呂入って英気を養うか!
そして、美味しい飯に暖かい風呂で、たっぷり英気を養った俺は、夜の街に出る事にする。
俺の所為で町中の魔術師に迷惑を掛けているようだしな。アレを出来るならどうにかしたい。