第3話 神々の思惑
第3話 神々の思惑
白一面の何もない世界。そこは、かつて神、或いは神にたどり着こうとした者達が作り上げた空間。名前を封神台という。
その中を黒と赤のアクセントがついたゴスロリ服を来た少女が一人歩いて行く。
「太公望出てきなさい。隠れたってここから貴方が出ないのは知っているわよ」
何もない白い空間に彼女の声は響いてるものの返事はない。
少女はウェーブの長い髪を右手でふわりと一度だけかき上げて返事を待つが静寂のみが返って来るだけである。
「ふぅうん。いい度胸ね、ならいいわ。この白い世界を一面の闇に変えてあげる」
そう言うと、彼女の足元から闇が現れ白い空間を漆黒の世界へとじわじわと浸食していく。強烈なプレッシャーを放ちながら。
そこにいるのが並みの人間ならばその圧力だけで気絶しているだろう。
「待った待った、ノアちゃん。ちゃんと出てくるから、その闇はしまってくれんかのぅ」
そう言うと髭を伸ばした老人が慌てて何処からともなく現れる。
「面倒かけないでくれるかしら」
「で、どうしたんじゃい?わしが恋しくなったのかのぅ」
「貴方、本気で消失したいの?誰のせいで私が初心者のレクチャーをする羽目になったと思ってるの?ここで最初の説明をするのが貴方の仕事でしょう!」
「そうじゃったのぅ。本当に助かったわい。お礼にその白磁のようなおみ足にスリスリを、ブッゲーーーーー!!」
喋りながら飛びつく老人を、少女は表情一つ変えずに不可視の波動で激しく吹き飛ばす。
「で、あの子、瑛次郎っていったかしら。あんな玩具じゃモンスターや魔物を倒せてもアレらの眷属に出会えば只の人、すぐに死ぬわ。それにサポート機能もかなり手抜きだったし」
何時もの事だと言う様に起き上がる太公望。
「うむ、あの玩具については表向きの生活用じゃよ。ちゃんと他に渾身の一品を用意してあるから大丈夫じゃ」
「渾身の一品ねぇ。それならば、まぁいいわ。それじゃ後は心ね。地球で戦うスキルを若干とはいえ手にしているわけだけど、必要に応じて生命を躊躇なく奪える心の強さが無ければどちらにしても死ぬだけよ。例えそれが人であったとしても」
「それについても渾身の一品が起動すれば大丈夫じゃよ。イケイケガンガンな性格に変身じゃ」
太公望は自信ありげにそう答える。
「その、切り札みたいな言い方してる渾身の一品って奴が逆に不安なのよねぇ。それに無理矢理、人の心を捻じ曲げるのは私はあまり好きではないわ」
「なに、我々も今までの観察結果をフィードバックして創意工夫をしているのじゃ。そこのところは信じて欲しいのぅ」
「創意工夫ねぇ・・・」
そうノアが呟くと腕を組む。そして、それに合わせる様に太公望は髭を触り考える。
「どちらにしても地球の命運がかかっておるんじゃ。もし仮にミスがあっても、それすら今は貴重なデータなのじゃよ」
「第五世代型半神育成計画、いえ最早、人工半神量産計画と言った方がいいわね。ピトスに選ばれてない人間ですら、心身が耐えうるなら神に近い力の持ち主に変える計画なのだから」
「うむ、アレらが封印されし様々な別世界。そこに送り込む事によって成長させ選別するシステム。まだまだ実験段階ではあるがのぅ」
「私の異世界転移と転生での覚醒、その成功例と狂科学者の技術、そしてピトスの力を利用した計画。全く冗談にも程があるシステムだわ」
「だが我々に、いや世界に猶予が無いのもまた事実。かつての神々が自らを犠牲にしてもアレは封印するのが精一杯だった。その封印もいつ破られるか分からぬ状況、アレをこのまま放置すれば地球は、いや異世界もろとも確実に滅びるだけじゃ」
「それは分かっているわ。遥か昔、地球の人間が歴史という物を綴りだした頃から既に始まっていた神々の計画。今更、私一人がどう出来る物でもないわ。そうね出来るとするなら、この封神台を破壊し、異世界の二つ三つ消失させるくらいかしら」
「まったく恐ろしい・・・。まぁお前さんは長きに渡る旅(転生)をし過ぎたせいで、かつての主神クラスまで格が上がっているからのぅ。全くそれで人としての精神が破綻せずにいるなんて奇跡じゃのぅ」
「本当ね。自分でも全てを破壊しまくる存在にならずにいられるのは驚きだわ。あ、でも一回なりかけたんだっけ?」
「ひぃぃぃーーーそんな恐ろしい事を思い出させないでぇーーー!!!」
突然怯えだす太公望
「私、その時の記憶があまりないのだけれど、貴方がトラウマになるほど恐ろしかったの?」
怯える太公望を楽しむかのように、瞳の色を深紅に変えて漆黒のオーラを纏いながら近づいていく。
「いぢめないでぇーーーー!」
そうして今日も封神台の愉快な時間は過ぎ去っていく。
一方、その頃。
青年が地球からファボールに転がり落ちた大陸とは別の遥か北西にある大陸、アクト大陸。
聖都と呼ばれる場所で、その大陸の女神は人々の前に顕現し信仰を集めていた。その聖都の中心、ファボール一の大きさと豪華さを誇るイシダンデーン神殿。
その最上階で、女神は落ち着かぬようにうろついていた。
「唯一神アクトキュルア様、如何いたしましたか?」
そう静寂に声を響かせるのは、長いく白い髪と髭を生やした顔に白に金縁の服をきた老人。総主教マーニア・ゴッデース。
「どうやら、姉う・・・いや堕神コートキュルアの大陸に異質な何かが落ちたようなのじゃ」
そう答えるのは、長い金髪の人を遥かに凌駕した完璧なスタイルの女神。
「コート大陸ですか。しかし堕神コートキュルアは、未だ大陸に加護を残してるとはいえ消失した身。アクトキュルア様が気にするような事は何もありますまい」
「そうではあるがのう。だが実際問題、ビュートキュルアの力を奪ったにもかかわらず、ビュート大陸の制圧は未だ半分のみではないか」
「それに関しては今しばらく時間がかかるかと。あの広大な大地を武力でなく、信仰と言う”信略”は間違いなく進んでおりますので焦らずお待ちいただければ、必ずやアクトキュルア様の願い通りになるでしょう」
「それで、ビュートキュルアの魂の行き先はわかったのか?」
「全くの不明であります。我々には魂を見る事が出来きませぬ故。ただ、上手く転生出来たとしても力を奪われ、アクトキュルア様の呪詛で魂を汚されていますので転生出来た処で何も出来はしないでしょう」
その総主教の答えに嘘偽りもなく、全ては計画通りで問題は無い筈である。何故ならこの世界に神と呼ばれる存在は彼女だけになり、彼女をどうこう出来る者はもうこの世界にはいないからだ。
だが事実はそうではなかった。今から100年以上も昔から神の力を持つ異世界人が出入りしているのを女神も総主教も未だ知らない。
このファボールには元々3柱の女神がいた。この女神達が何処から来たのか、或いはどう発生したのかは誰も知らない。
3柱の女神は、ファボールにある4つある大陸うち3つの大陸を各々で分けて管理する事を決めていた。南東にある大陸を長女のコートキュルア、北西にある大陸を次女のアクトキュルア、東にある大陸を末っ子のビュートキュルアと3柱がくじ引きで決めた。
4つ目の大陸は北東にある魔の大陸と呼ばれる場所で、女神達も手を出せないほど恐ろしい大陸であった為に3柱は力を合わせてこの大陸を封印した。
それから3柱は三姉妹として各々の大陸で影から神として、偉大なる存在として、人間達を導いてきた。
だが今から100年ほど前に突如、4つ目の大陸にいた邪神が封印を破り現れ、各大陸で瘴気を撒きちらし世界を混沌に陥れた。
邪神は強く、3柱の女神が力を合わせて戦ったが並みの方法では退ける事が出来なかった。それを重く見た長女のコートキュルアは、密かに外の世界の力をかり、最後は自らの存在と引き換えに邪神を消失させる事に成功した。
そうして世界に平和が戻った筈だった。だが、かつてからこの世界の全ての人間の寵愛を欲してきた次女アクトキュルアは、コートキュルアがいなくなったことをいい事に三女のビュートキュルアを騙し、力を奪いその存在を消そうとした。
それに気が付いたビュートキュルアは、どうにかこうにか自らの力と魂を2つに分け、その魂を人間界に飛ばし命からがら逃げだしたのだった。
そうしてビュートキュルアの力を手にしたアクトキュルアは、とうとう人々の前に姿を完全に表して唯一神を名乗り、全ての人間の信仰を集めるという行動にでた。
だがその計画の進み具合は彼女の予想以上に悪かった。それ故に神の力を使い世界を強制的に制圧する事も彼女は考えたが、結局はこの女神、人々に自らの意思で自分を愛するように求めたのだ。それこそが彼女の求める最上の喜びであり、快楽であった。
そんな中、突如現れた謎の存在、浪山 瑛次郎。ただ彼女が彼の事を何であるかは理解していない。ただ分かっているのはこの世界の外のナニかであるという事だけである。
もっと正確に言えば、彼女が唯一この世界に侵入してくる事をたまたま感知出来ただけ存在という表現が正しい。何故なら散々この世界に出入りしているプロテノアに一切気が付いていないのだから。
2020年の1月1日という事で、3話一気に新ストーリーを上げました。
次回は1月2日に4話を上げる予定です。
それでは、次回もどうぞよろしくお願い致します。