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第11話 本日は、焼き畑日和でゾンビ時々スケルトン!

第11話 本日は、焼き畑日和でゾンビ時々スケルトン!


時計台は街の東西南北に4つそして中央に1つあり大概の場所から見える様、高い場所に大きく設置されている。

中央に限れば、時計塔と言った方がいいくらいの高さだ。因みにこの世界では時計の一周が13時まで数字がある。つまり一日26時間だ。

午前と午後の時間が分かれてるのは地球と一緒である。スマートホンのカウントしている時間と比べると本当に2時間きっかり多い。

何処かの几帳面な人物の様に毎日決まった時間に時計のゼンマイを巻く感じで、スマートフォンの時間と日にちを合わせる几帳面さが俺にあればスマートフォンの機能を頼れるが残念ながらそんな性格ではない。

故にスマートフォンの時計機能とカレンダー機能は死んでいると言っていい。ついでに言うとここの一年は13ヵ月で、一カ月は統一されていて全部の月が30日の固定だ。

そんな時計台の時間を確認し、少し早めに西門で待機する。この世界では目立つ格好なのでスキルを意識して隠れる様に待機する。

小脇に抱えた、ヘルメットにはアームがついていてそこからナイトビジョンが装備されている。カブトムシモードだ。

気配を消しながらしゃがんでいると、ハーネア先生がやって来てキョロキョロしている。おや?こんな時間になんだろうと思うと、横から突然声がする。


「これで全員そろったな」


誰もいない筈の隣から声と気配が突然するものだから、腰につけたハイキャパを即座に抜いて銃口を向けてしまう。

黒と灰色の服を着た細身の男で、髪の毛はロンゲで首辺りでゆるく縛っている。マフラーの様な物で口が隠されていて表情は読めない。


「ふむ、この程度で驚くとは索敵能力は微妙と言ったところか。だが、その瞬時の戦闘態勢への切り替わりの速さは悪くない」


「相っ変わらず厳しいねぇ、キッシュ隊長は」


もう一人いたのかよ!確かにこれは・・・スキルを索敵に全振りした方がよかったか?


「アハハ、脅かしてゴメンね。俺達はチェイサーズギルドから派遣されてきた、タルト、そっちがキッシュで今回のパーティリーダーさ」


そう明るく言うのは、赤髪の横にツンツンした感じの髪型の男。キッシュとタルトって、コードネームだよな?きっと。


「チェイサーズギルド・・・?」


「ああ、もしかしたら馴染みが無いかもね。昔は、アサシンズギルドとか、ストーカズギルドって言われてた時代もあって、場所によってはまだそう言ってる場所があるかも。まぁ名前のイメージが悪いから変えたらしいんだけどさ」


アサシンって暗殺者とかの事を言うんだよな・・・。


「無駄口叩いてる暇が惜しい。しゃべるなとは言わん。移動中しながらしゃべれ」


そう言うと、走りだすキッシュ。それを追うタルト。って、置いてかれる!あいつら速えぞ・・・てか俺そんな長距離走れないかも。

そう思って立ち上がると、ハーネア先生が俺と自分に魔術を使う。


「これで、1、2時間ぐらいは走る事は余裕ですよ」


すっかりチェイサーの2人に気にしすぎて忘れてた。まさかハーネア先生が仲間だったとは。


「ありがとう。まさかハーネア先生が参加してたとは思わなかったな。それに今日はハーネア先生には、世話になりっぱなしだ」


「ふふふ、エイジロウさんは私の生徒ですから」


満面の笑みを浮かべながら答えが返って来る。ついでに揺れまくる素敵な谷間が見れるのは眼福である。


「追いついたか。走りながら今回の説明をする」


今回の任務内容は、ビーイルヴェンの西にあるスーデニオッソー村の状況確認、敵性存在の確認と調査、そして状況に応じての敵性存在への攻撃。

単純そうだが、初めてのパーティ戦での威力偵察任務なので何処までやっていいか不明な為、さじ加減が難しいかもしれない。

それを聞きながら俺はヘルメットを被りナイトビジョンの位置も調整する。


「エージロー、君は遠距離攻撃が得意と聞いているがどのくらいの距離から攻撃できる?」


「あー場所によるが、夜だとどうだろ?視えれば50mぐらいはいけるんじゃないか?昼間なら150mぐらいならいけなくはない。まぁ武器の性能で葉っぱとかで邪魔されてたらアウトだけどな」


「なるほど、ならば敵が複数いた場合、遠距離からのかく乱を頼む」


「了解」


「間違えても、俺っちには攻撃を当てないでくれよ」


キッシュは念を押してくる。


「善処しよう」


それから一時間程走ると、もう周りは真っ暗になる。俺はナイトビジョンを使い周りを警戒する。


「エージっち、その顔につけてる変なのはなんだ?」


「これは、まぁ分かりやすく言えば、夜でも明るく見える様になる魔道具だな。色の判断はできないけどね」


「へぇ。便利そうだな」


同じチェイサーでも、タルトは良くしゃべるがキッシュは必要な事しか喋らないな。キャラ的な問題かな。そう思ってると、遠くに妙な影が見える。


「なぁ、キッシュ、何か妙な影が見えるんだが」


「ああ、俺も確認した。一旦、道から外れて草むらに隠れるぞ」


「「「了解」」」」



謎の影から距離をとり、草むらに伏せる。俺はアサルトライフルのLVOA-Cについたナイトビジョンとマグニファイヤーで拡大された映像を確認する。

すると、驚くものが目に入って来る。


「あ・・・あれは骸骨!?先頭に沢山の骨が道を歩いてる・・・その後ろをなんか黒い人型がだらしなく歩いている」


骸骨とかファンタジーの定番だけど、リアルで見るのは怖いな・・・しかも夜だし・・・。


「何、アンデッドの集団だと・・・!?あの方向からだと村から来ていると考えていいな」


「キッシュ隊長、俺っち先行して村見に行った方がよくね?」


「ああ、そうだな。よし!俺とキッシュは先行して村の状況を確認しにいく。ハーネア、エージローは可能な限りあのアンデットの集団を叩いてくれ。ヤバくなったら俺達の帰りを待たず、逃げて情報を持ち帰る事を優先するんだ」


「「「了解!」」」


そう言うとキッシュ&タルトのオシャレ洋食コンビは、高速で走っていく。さっきの走りは全力でもなんでもなかったらしい。あっという間に闇に消えてった。


「さて攻撃しますか!」


草むらの草に弾が過剰反応して変な処で力を発揮しない様に、少し草むらから出て狙撃する。先頭の骸骨をヘッドショットして頭を吹っ飛ばす。

よし!一体撃破。と思ったんだが、何もなかったように骨の身体は動いていて進む。はぁ!?


「センセー・・・骸骨のヤツ、頭吹っ飛ばしても歩いてるですがー・・・。」


「スケルトンですからねー」


苦笑いしながら答えるハーネア先生。しかも、スケルトンだから手足が細くて当てにくいし、身体はあばら骨でスカスカ、お腹は背骨一本なので身体にヒットさせるのも運だのみだ。

なんだこれ、スケルトンとは相性最悪だな。仕方ないので後ろの黒い人型を狙う。近づいてきて若干色々見えて来たけど、あれってゾンビじゃないか?

まぁ、ゾンビなら倒せるかもしれない。そう思い狙撃する。しかし、スケルトン以上に何も起きない。おかしいなと思って何度も撃つんだが何も起きない。

もしかして壊れた?確認の為スケルトンを狙うと綺麗にヘッドショットが決まる。どういう事だろうか?ゾンビっぽい奴は・・・?

ゾンビだって・・・!?あー、あー、あー、あー、まさかと思うが・・・まーじーでーかー!!

整理して考えるとこうだ。俺の装備はサバイバルゲームで使ってた装備品が変な強化されて強くなっている。そしてそのサバイバルゲームにはゾンビと言う言葉が存在する。

ゾンビ行為、とかゾンビ状態だ。サバイバルゲームは、BB弾が当たってやられたかどうかは自己申告制の紳士のゲームだ。そしてどんなにBB弾が当たっても自己申告せずにゲーム続行するプレイヤーをゾンビと言う。

また、特殊ルールで死なないプレイヤー、審判、撮影のカメラマン、ゲーム外人物の事もゾンビやゾンビ状態という。つまりそういうルール違反や特殊ルールのゾンビが此方の世界にも適応されて、BB弾がゾンビには当たった事になってない。

マジかぁー。こんな時に、そうなっちゃうの???メッチャ役立たずやん。


「どうしました?もしかして攻撃が効かないほどの強い敵なのですか?」


心配して聞いて来るハーネア先生。


「えーとですねー。何というかですねー。自分の持ってる武器がですね、強い代わりに制限が掛かってましてね、ゾンビタイプの敵には一切のダメージが出ないようなんです」


「それは。不味いですね、撤退しますか?」


何も出来ずに撤退とかダメだろ、何かないのか?何か見落としてる点は・・・。いや、待てよ粉々に吹っ飛ばす事が出来ればスケルトンも倒せるし、あの様子からするとゾンビには着弾効果が無効なだけで二次的ダメージはいけるんじゃないか?

物は試しだ、やってみよう。なんだかこれにばっか頼ってる気もするが致し方ない。先ずはスマ―トフォンを取り出して、弾丸製造Lv2をONにして焼夷弾を自動製造させる。

次にAPS-DREIを取り出し、スケルトンをヘッドショットする。すると衝撃で周りのスケルトンも巻き込んでバラバラにしてくれる。骨だけの敵なので衝撃に弱い様だ

これならいけると、ガンガン狙っていく。時折、距離を調整する事も忘れない。だが素早さも索敵能力も、このスケルトンやゾンビには大して備わってないようだ。その場でウロウロ敵を探している。そして6発打ち切ったところで、焼夷弾属性に変える。

そして、だらだら歩くゾンビ共の足元の地面めがけて射撃する。地面に着弾した弾は見事に爆発しながら火炎をまき散らしてゾンビを炎で覆い燃やしていく。


「よし!これならいける」


「なるほど、アンデットには炎は有効ですね。ならば、この魔術で強化を・・・エンチャンテッド・フレイム・エレメンタル!」


俺と自分自身に強化魔術を掛けるハーネア先生。


「おお?」


「これで、炎属性の威力が大幅にあがりました」


試しに撃ってみると、さっきより、遥かに爆発と炎の広がり方が激しくデカい。

弾が続くがぎり打ち続け、ハーネア先生も、遠距離火炎魔術、エクステンデッドフレイムアローで燃やしていく。

後から気が付くのだが、この時、俺とハーネア先生はハッピートリガーになってたかもしれない。

派手に乱射して、ゾンビどころか、草むらに引火して周囲を焼き畑農場にしてしまったのだ。

気が付いた時には周囲は昼間の様に明るく、キッシュもタルトもこんがり焼きあがらない様に全力ダッシュで此方に逃げて来たのだ。

その後は後退しながら、途中の川の水を利用してハーネア先生の魔術で消防車のポンプの様に水をぶっかけて延焼を防いだのだった。いやー乾季じゃなくて良かった。葉っぱに水分が多くて朝帰りにならずに済んだ。

という訳で威力偵察で、ほぼ全てのアンデッドを退治してしまう結果となった。これは火事の件も含めて叱責された挙句、報酬なくなったりしちゃうのかなー・・・とか思ったがそんな事は無かった。

そんなこんなで冒険者ギルドに戻って報告をする。冒険者ギルドには、今回の威力偵察専用の対策本部が出来ていて、そこへ皆で向かう。

そこにはハンターズギルドのギルドマスターとあと知らない4人がいる、恐らく残りの4人は何処かのギルドマスターなのだろう。

普段は無口なキッシュだがリーダーらしく、事細かく一人で説明をしてくれた。派手に火事をやらかして、敵を全滅させてしまった事も。あー聞きたくなーい!、怒られたくなーい!と心の中で思いながらただ立っていたが、本部お偉いさん達の反応は悪くなかった。

うーん、この様子だと他はもっとやばいのかねぇ?取りあえず、話によれば、明日の朝、まぁ時間的にはもう、今日なんだけど朝にでも各々のギルドに集まって報酬を貰ってくれと言う。まぁとりあえず今日は解散って事だな。有り難い。流石にもう眠い。

宿に帰ると、ラピスが寝ずに待っていて俺を確認するなり飛びついて来た。心配してくれたのだろうか?それとも寂しかったのだろか?或いはその両方か。

取りあえず、今日はもう寝ることにした。


翌朝、起きると俺は、普段着に着替えてラピスを連れてハンターズギルドに行く。勿論、腰の銃は忘れない。

なんだか、何時もより街の中が騒がしい様に思える。いや、騒がしいというか街全体が忙しそうにしている感じだ。

そんな街の様子を横目に取りあえず、ハンターズギルドに入る。


「おはよう。昨日は朝から晩まで色々あったみてーだな!ガハハハ」


今日も元気なマチョスが挨拶をしてくれる。大きな声と大きな体にびっくりしてラピスがしがみついて俺の後ろに隠れる。


「おはよう。マチョス、とりあえずカードを渡せばいいか?」


「おうよ!」


そう言って渡すといつもの如く魔石板に当てて確認する。


「ひゅぅー。相変わらず派手にやってるねぇ。あ、そうだギルドマスターがお待ちだ」


そうマチョスは、言いながらカードを返す。俺はそのまま了解すると、奥に進み2階のギルドマスターのドアをノックして部屋に入る。


「やぁ。待っていたよ。エージロー君。昨日は有難う。本当に助かったよ」


「それはよかった。色々やらかしてたからちょっと気になっていたんだ」


「それについては怪我の功名と言うか、その御蔭で此方も方針が出来た。そうだね、先ずは昨日の情報のまとめと今後の話をしようか」


ギルドマスターの話によれば、このビーイルヴェン付近の村はどこも全滅してるそうだ。なんでも調査の結果によると何処の村もゾンビとスケルトンだらけで、それらがビーイルヴェンに向かて侵攻しているとの事。

また、あのゾンビに襲われると感染してゾンビになってしまう可能性があるとの報告が来ているらしい。まるで、バイオな汚染のゲームの様だ。というか、普通にヤバいだろ。実はビーイルヴェンが最後の砦とか言う落ちはないだろうな?

ただ、スケルトンといいゾンビといい統制が取れてる事からどうやら死霊術師、ネクロマンサーと呼ばれる死体や死者の霊を操る魔術師が何処かにいるはずだという。兎にも角にも事件を終わらすにはその者を倒さなければいけない事。

そして、出来る事ならそれらの戦闘に参加してほしいと言われた。特に、昼間のうちに街の外でゾンビやスケルトンを見つけ出し掃討戦をしてほしいのだとか。

今回は、接近戦では感染してゾンビになってしまう可能性がある事から、可能な限り遠距離攻撃だけで戦い、敵の殲滅に努めたいとの事。

ただ、遠距離からの攻撃が出来る人間は少なく、100m以上も離れてエクステンデッドフレイムアロー級の威力を落とさずに当てるのは更に少ないらしい。それだけでなく魔術師の殆どは街に張る結界の人員に回されてしまうのだ。

それ故に俺のAPS-DREIの威力は完全に上級魔術の威力なので是非とも戦ってほしいのだとか。100m以上のも離れた場所から爆発を引き起こし火炎をまき散らす能力は国家兵器物だと言われてしまった。

報酬は皆と一律同じになってしまうが、1匹につき銅1枚、10匹で追加報酬銀1枚で100匹で追加金1枚だそうだ。つまり100匹で金3枚だ。討伐カウントはギルドカードのカウントでの支払いだそうだ。

念の為に、外に討伐に行ったものは街に入る時、聖水を被るそうだ。街でのゾンビの感染が起きないようにする為に感染者かどうか確認するらしい。

今は色々お金が必要だからな、色々厄介だが受けるとしよう。どの道それ以外出来る事はなさそうだ。依頼を了承し部屋を出る。

帰りがけ、忘れずにバーバリアンベアーと斥候の仕事の報酬を貰って帰る。合わせて金貨5枚近くあった。

それから取りあえず、準備をする為に宿に戻る。部屋に入ると突然ラピスが机から紙切れを取り出し、それを持って俺の服の裾を引っ張って呼びかけてくる。

何だろうと思ってみてみると、ラピスは紙切れを両手で広げて持っている。見ればそれは火を出す練習用の魔法陣であった。すると、そこから突然、巨大な火の玉が浮かび上がる。


「――――!?」


は???・・・なんだコレ。俺は、あの魔法陣で蝋燭の火を灯すのが精いっぱいだったのだが、今のはバランスボールくらいあったぞ・・・。すげえな。

つまり、彼女は俺に無言でこう訴えているのか、戦えるから私も連れてけと・・・。ふーむ・・・。取りあえず誰かの意見を聞こうと魔術師ギルドに向かう事にした。

魔術師ギルドに行くとラッキーな事に、ハーネア先生がいた。


「おはよう、先生」


「あら、エイジロウさんと・・・えっとー」


「ラピス。この子はラピスって名前になったんだ」


「ラピスちゃん。いい名前ね、ハーネアって言います。よろしくお願いしますね」


ハーネア先生はそう言い、しゃがんでラピスに挨拶する。


「あ、この子、聞こえるみたいなんだけど、喋れないみたいで・・・」


「そうですか・・・」


悲しそうな顔をするハーネア先生。


「あ、突然なんだけどちょっとハーネア先生に見てもらいたいものがあるんだ。ラピス、あれをハーネア先生に見せてあげて」


そう言うと、ラピスは魔法陣が書かれた紙を両手で広げて、巨大な火の玉を作り上げる。

それを、みたハーネア先生は一瞬、時が止まる。


「えー・・・と・・・。凄い才能を持ってるみたいですねぇ・・・ハハ・・・」


乾いた笑いが出てきていますよ先生!


「ええ、ちょっと判断が出来ないので相談に来た次第です・・・」


ハーネア先生は少しばかり考える。


「そうですね、ではエイジロウさんは、ラピスちゃんをどうしたいのですか?」


「どうしたいか・・・」


うーむ。


「ハッキリってしまえば、ラピスちゃんは貴方の奴隷です。このまま一生貴方の奴隷として、肉体労働や身の世話をさせるのか、或いは解放して貴方が面倒をみるのか」


そんなのもう、決まっている。


「ラピスは奴隷から解放する。そして・・・」


そして俺はどうしたいんだろうか?解放して、それから?施設に預ける?このまま育てる?そこまでは考えてなかった。様々な考えや感情が脳内で駆け巡る。彼女の事もそうだが、自分の事も。


「そして?」


この様子じゃ俺は少なくとも当分の間は、狩りという生き死にの中で生きるのだろう。ラピスを前線に出さないと言う意味だけでは、俺は簡単に彼女を守れるといえる。

だが、それは本当に守ったとは言えるだろうか?俺は俺が死なずに、この危険極まりない世界で誰かを守りながらいつまでも生きて続けれるなんて、これっぽっちも思っちゃいない。思い上がってもいない。

今だってそうだ、アンデッド共の襲来で街は恐れ、おののき、右へ左への大騒ぎ。その中で戦うと言うのだ生き延びれるなんて保証はどこにもない。

昨日だってチェイサーが味方だから良かったものの敵だったら死んだ事すら気が付かず頭は身体からおさらばしていただろう。

だから、出来る事と言えば生きているうちに彼女に生き残る術を教える事だ。いや、教えるなんて言えた物じゃない。俺自身この世界を理解してるわけじゃないし、それは胡散臭い物だ。

ならば、一緒に生きるすべを探しながら一緒に歩けるうちに共にこの世界を歩いていくしかないだろう。

だから俺は、ラピスに語り掛ける。彼女の両手を取って。


「俺は、情けない事にラピスを守り続けれるほど強くない。それどころか自分自身すら守れず死ぬかもしれない。だからラピスが俺の側を離れるその時まで、この世界で生き続ける方法を一緒に探してくれないか?」


そう言うと、ラピスは俺の目を見つめると大きく頷いて飛びついて来る。


「あらあら、まさかこんな時にプロポーズの言葉が出て来るなんて思いませんでした」


「え?ええ???いや、そういう訳じゃないんですが・・・!?」


そう慌てて否定するとラピスが服を強く引っ張り頬を膨らましている。怒っているのか!?


「ふふふ、冗談です。でもその言葉を絶対に忘れないでくださいね。そうと決まれば簡単です。ラピスちゃん、魔術を覚えましょう。この世界は、弱肉強食。力のない物は力ある物にねじ伏せられます。それは奴隷である貴方が一番知っているはず」


うんうんと強く頷くラピス。


≪御結婚オメデトウゴザイマス。異世界ニ渡タッテ数日デ結婚トハ最短記録更新カモシレマセン≫


≪いや、違うから!そんなんじゃないから!ほら、ラピスはまだ子供だしさ・・・≫


そんな念話をしてると、突然、手の甲に痛みが走る。見るとラピスが手の甲をつねっている。おい、ラピスの奴、絶対俺達の念話聞こえてるだろ。

そんなこんなで、ハーネア先生の魔術の講義が始まるかと思えば、始まらなかった・・・。

何故ならラピスの場合、魔法陣さえ開けば後は意識するだけで取りあえず魔術が発動する。ただ魔法陣がそこにあればいい!そんな感じだ。

もう滅茶苦茶である。これだから天才って奴はどこの世界でも困るんだ。常識が通じねぇ・・・。まぁそれが今、一番心強くもあるんだが。

そんな分けで魔法陣の巻物を買ったんだが、ありすぎても使えない。戦場で紙をばら撒くわけにはいかないしな。

足利の剣聖将軍の最期よろしく、刀を自分の周りに大量に刺して切れなくなったら即座にソレを抜いて数十人相手に戦い続けた様に、地面に魔法陣の紙をばら撒いて片っ端から魔術を乱発なんてする予定はない。

という訳で、噂のメモリーストーンも買う事にした。なんと一個で3個も覚えられる凄い奴を2個買った。使い方は記憶させたい魔法陣をのせて魔力を流せば記憶するとの事。

一個は攻撃魔術専用で、一個は支援魔術専用にしよう。攻撃魔法は、フレイムアローとアイスアロー。最後は試しにスマホのアプリにある火を出す魔法陣にしてみよう。

支援魔術は、エンチャンテッド・フレイム・エレメンタルと、走り続けられるハイスピードスタミナール、そして幅広いタイプの攻撃をカットするマルチシールドにしよう。

取りあえずアンデッド戦には、これでいいだろう。

俺達二人は、準備を終えると最も街に近づいているアンデット達を火葬する為に北門を出て草原を走る。

街に戻るタイムリミットは、アンデッド達がたどりつく予定時間の一時間前、午後の4時だ。それまでに戻らなければ全門が閉められ魔術結界も張られ街に入れなくなる。

命懸けで、時間に煩い仕事とは、まだ異世界に来て一週間も経ってないのにハードすぎやしませんかね?神様・・・。



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