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第1話 青年と少女と異世界と

地球でサバゲのアーマー勢だった俺が気が付けば異世界で変身ヒーローをやる羽目になった理由が知りたい

第1話 青年と少女と異世界と



「うがっ!いでぇ!」


突如、背中に衝撃が走り全身に痛みが響く。眠りと言う無防備な状態でベッドから落ちた時の様な目覚め、例えるならそんな感じだ。

視界には蒼天が広がり、そして黒髪の美少女が一人、寝転んでいる俺を顎に手を当てながら見下ろしている。

美しいウエーブがかかった長い髪が風に揺られ、黒い瞳が俺を見つめている。その姿は有名芸能人レベルの美少女だ。

少女は、所々に散らばる赤いラインが良く栄えた、黒いゴスロリとよばれる服を着ていて、スカートからでている白い御御足がさらにコンストラストを引き立てている。

もう少し角度が良ければ見えるかもしれない。見えるって、何がって?まぁそれは言わぬが花という物だ。


「そろそろ起き上がれるでしょう?粘った所で見えないわよ。そういう角度で立っているから」


そう言いながら少女は、顎に当てていた手を腰に置く。

どうやらバレているらしい。まぁ、どうしても見たいわけじゃないしな、取りあえず起きよう。十代半ばの可憐な美少女に見えるけれども、怒らすと偉く怖そうだ。


「ここは何処なんだ・・・?」


起き上がりながら少女に質問をする。青い空に広い草原、所々に細い木が生えていて少し先に林が見える。とんと見覚えのない場所だ。


「ここが何処かを知る前に、貴方が誰なのか?ここで起き上がる前に何をしていたか?先に確認した方がいいと思うわ。覚えてるかしら?」


なるほど、自分という指標が無いのに新しい物をただ聞いて、それを評価しようと言うのは確かに愚かな事だな。一理ある。


「俺の名前は、浪山(なみやま) 瑛次郎(えいじろうえーと、直近の記憶は、確か・・・」


そう言いながら思いだしてみる。

確か俺は、そう、爆裂祭に参加していたんだ。サバゲのアーマー勢として。その帰り道、高速道路を走っていると突然、前のタンクローリーがひっくり返って・・・

記憶を辿りそれを言葉にしていくと自分でも血の気が引いていくのが分かる。


「爆裂祭・・・?ああ、コスプレしてサバイバルゲームをする大きなイベントだったかしら?つまり、家から出て帰るまでがサバゲだったけれど、最後の最後で生還(サバイバル)出来なかったってことね」


爆裂祭に関しては少し違う気がするけれども、それを突っ込んでいるどころじゃない。そしてその言い回しはサバゲーマー的にぐうの音もでない言い方だ。・・・つまり俺は・・・。


「な、なぁ・・・俺は死んでしまったのか?」


「さぁ?今、この場にいるのは確かに貴方なのだし、死をどう定義するかによるわね。貴方のいた世界だけを考えて、そこに貴方がいないという事実を死と言うならば貴方は間違いなく死んでるわね」


つまり、俺は死んでいる?でも俺はここにいるから・・・どういう事なんだ?


「ここは死後の世界とかそういう事なのか?」


「それも定義次第ね。貴方があっちの世界で死んで、この世界で生きているなら死後の世界と言ってもあながち間違いではないけれど、ここでも死はあるわよ。というか普通に死ぬわ。多分貴方がここで死んだら本当に全ての情報が消えてあらゆる意味で死ぬわね」


淡々と語る彼女の言葉は真実を語っているように思えるが、何処か言葉遊びをしているようで把握しきれない。


「うーん・・・つまりどういう事なんだ?」


「アーマー勢だっけ?所謂、向うのサブカルチャーが好きなんでしょう?なら異世界転生とか異世界転移ってわかるわよね?」


「え・・・?ああ。それは分かる」


「なら話が早くて助かるわ。つまりそういう事よ。ただ管理者(エロジジィ)がミスって何の説明もレクチャーも出来ずに現地に飛ばしてしまったのだけれど・・・。ようこそファボールの世界へ」


ようこそ、とは言っているモノの余り歓迎されている感じがしない。


「ファボール・・・この世界の名前なのか?」


「そ、貴方がこれから生きていく、生きていけるか(サバイバルできるか)を試される世界。良かったじゃない、この世界じゃ魔物やモンスターをソフトエアーガンでいくら撃っても誰も文句は言わないわ」


魔物やモンスター?確かに異世界物なら定番だけど、ソフトエアーガンだぞ?あくまで玩具だぞ?


「いやいや、サバイバルっていってもただの玩具での射撃ゲームに過ぎないんだぞ?魔物とかモンスターどころか野生の小動物ですら仕留めるのは無理だ」


それを聞いて少女は困った様に腰に置いた手を頬にやる。


「そこよねぇ。まぁ流石にあの管理者(エロジジィ)でも最低限の仕事していると思うんだけれど」


そう言うと少女は、顎に置いた手を俺の方に伸ばし腰ついていた巾着袋をするりと手に取る。見慣れない巾着だ。茶色い革製のようだが、俺はあんな物もってはいなかったはずだが・・・?


「それは・・・?」


「これがあるって事はそれなりの仕事はしているはずなんだけれど。この中に貴方が向こうで使っていて此方でも必要な物が入っていると思うわ。まぁ見た目だけ同じで内容はトンデモナイ物に変わっているかも知れないけれど、中身見させてもらうわね」


「え?ああ、どうぞ?」


許可したものの、そもそも俺の物なのか?それ以前に何も入っていない様に見えるが・・・。もしかして転生モノで言う便利なあれか?そう思いながら少女を見ると袋を開けている。そこから魔法陣みたいなものが周辺に現れだした。

少女が指を動かす度に魔法陣が増えたり減ったり動いたりしている。まるでSF映画で空中に投影されたパネルを操作しているシーンのようだ。そうして少女が大きく魔法陣をこちら側に弾指ではじくと魔法陣が俺の目の前までに飛んでくる。


「その魔法陣の中に映っているのが貴方の所持品だけれど、貴方の記憶にある物で良いかしら?」


魔法陣の中にはゲームの様に縮小された絵と文字が枠内に収められて映っている。それは確かに自分が所持している物で間違いなかった。


「ああ、それっぽいけれど」


しかし凄いな。本当にこんな事あるのか。異世界物でよくある異次元収納とかいう奴だ。サイズも重さも関係なく袋に入る、青い猫型ロボットが持っているアレのようなものだ。


「へぇ、貴方中々趣味がいいのね。M1911(ガバメント)系のハンドガンは私も好きよ。グロッグやベレッタ、大きさや知名度などでデザートイーグルを好む連中も多いけど、私はM1911(ガバメント)系がいいわ」


そう言うと少女は魔法陣を一つ展開させて見慣れたハンドガンを取り出す。エアーソフトガンメーカー、カクイのM1911ハイキャパDDRガスブローバックだ。

少女は、興味深そうにそして何処か楽しそうにショートリコイルやスライド引いたりしながら弄ると、慣れた手つきでスライドリリースレバーを外しスライドも外してしまう。


「それは、パッと見わからないけれど、別メーカーのスライドで軽量タイプのやつなんだ」


ついサバゲーマーあるあるの一つ、自分の銃を聞かれてもいないのにマニアックな改造部分を説明してしまう、そんな癖がでてしまう。

少女はひとしきり弄ると銃を元の状態に戻して、ハイキャパ用の弾倉(マガジンを取り出してソレを銃に差し込んでマガジンキャッチボタンを押してこう言う。


弾倉(マガジン)は自重で落下するわね」


見ていてこっちも楽しくなってくる。ハイキャパにゴスロリ服の少女かぁ。あれ?そう言えばそのエアーソフトガンは18禁なんだけど・・・あ、まぁここは地球ですらなかったか。

そんなどうでもいい事を考えていると手に取っているエアーソフトガンの動力源である、ガスが入った缶を袋から取り出し弾倉(マガジン)にガスを入れていく。そしてそのままBB弾も詰めていく。

BB弾ローダーも使わずに慣れた手つきで頭から一発づつ入れていく姿はどう見ても素人ではない。彼女は一体・・・?

そんな事を考えていると少女は射撃準備を終え、スライドを引いた。

目標は、10mほど先にある細い枝のようだ。片手で構えるとトリガーを引く。

バスンという音と共に装填されたBB弾は発射され、一瞬でスライドは後退し次のBB弾をチャンバーに送り込む。ここまでは普通だった。

一瞬だけだがBB弾が枝に当たる直前を目視で捉える事ができた。寧ろ片手で10mもある距離からあの細い枝に一発で命中させる技量は中々だと驚きたい気分だった。

だが次に目の前で起きたことは予想を越えていた。BB弾が当たった瞬間、バキリという激しい音を鳴らすと枝が折れたのだ。しかも木片をいくらかまき散らしながら。


「へぇ。なるほどねぇ。そう言うカラクリかぁ。確かに、.45ACP弾相当の威力はあるわね」


一体何なんだ?.45ACP弾相当?確かにM1911の実銃に使われる弾は.45ACP弾だ。速度こそ他の弾より遅いが確実に人間を行動不能にする為に開発された弾丸。ってそうじゃない。

確かにBB弾が発射されたはずだ。装填したのもBB弾だった。飛んでいた弾の速度も目視で確認できる何時もの速度だった。間違いない。なのになぜ?


「な・・・なにが・・・どういう事なんだ???」


驚きを隠せない俺とは真逆に、落ち着いて面白そうに銃を眺めている。


「まぁそういう事よ。BB弾は発射される。発射されてから何かに弾がぶつかるまでは、だいたいエアーソフトガンと一緒ね。ただ放たれた弾が何かに当たればその銃に適した威力で力を解放する。そんな感じかしら」


「ななな・・・そんな馬鹿な。それじゃもう、兵器じゃないか!」


「そうね。でも、そのくらいの物を持ってないと貴方はこの世界じゃ生きていけないわ。それに実銃じゃ、貴方はとても扱い切れないでしょうしね」


「お、俺はそんな兵器や武器を振りまわす為にサバゲをしてるんじゃないぞ!」


分けの分からない現状に少し苛立ちをぶつけるように言い放つ。


「まあ、どう使うかは貴方次第だからどうでもいいけど。でも、そんななまっちょろい事を言ってたら死ぬだけよ。日本ですら猟銃という物があるのだから。ほら、もうすぐ来るわよ。貴方は生きるの?死ぬの?」


そう言うと、少女は銃を俺に渡すと空を見上げる。

空から確かに何かが来る!?アレは・・・ファンタジーで定番のドラゴン?いやそれよりも格下のワイバーンとかいうタイプのヤツだろう。


「こっちに来る!?」


急降下してくるワイバーンらしきもの。翼の幅は5mは軽くある巨体が地面スレスレまでやって来る。

あわてて飛びのいて捕食されるのを回避したがアレは諦めていないようだ。


「どうするの?アレは貴方を狙ってるわよ。大人しくアレの餌になるのかしら?」


「んなわけないだろ!」


そう怒りを込めて返答すると2度目のワイバーンの急降下に合わせて回避し、ヤケクソでBB弾3発を後ろから土手腹にお見舞いする。BB弾がワイバーンに当たった瞬間エアーソフトガンではあり得ない音がする。だが相手は倒れる気配がない。


「クッソ!効いていないのか?どうすれば・・・」


「残りの弾は5発。弱い所に打ち込めばいいのよ。雄牛の目(ブルズアイ)は知ってるでしょう?そうね貴方の体力と弾数合わせたら丁度いいじゃない。2分間に5発よ」


2分間に5発という数字のところを指で表示する仕草は確かに見覚えがある。とあるネットの動画でよく見た仕草だ。

そして、それは雄牛の目(ブルズアイ)ターゲットと呼ばれる円が書かれた的に2分間のうちに5発、片手で射撃して得点を競う競技だ。


「だけど、あれは的も動かないし、5mの距離をエアーソフトガンで狙う競技だろ」


そう言い返しながら3回目の急降下を回避する。


「そうね、でもその競技と違って今回は両手で銃を構えても構わないわよ。それに点数云々でなく一発でも眼玉(10点圏内)当たれば貴方の勝ち。さしずめ飛竜の目(ワイバーンズアイ)って所かしら」


好き放題言ってくれる。でもあのワイバーン、直線行動しかしないから動きは読みやすい。速度の変化もあまりないから動きは予測できる。

気合をいれて旋回して再度降下してくるワイバーンをアイソセレススタンスという目標と完全に正面で対峙する射撃スタンスで迎え撃つ。

1発・・・2発・・・!引き金を引く度に使い慣れた愛銃はキレの良いブローバックの音を立てて弾を発射し、俺は素早く回避に移る。


「ハズレたわね。あと3発・・・弾、足りるかしら?」


「今のはタイミングと弾道を確認する為の2発。次ぎで命中させる!」


そう俺は自信満々に答える。最初からその予定だ。まぁあわよくば最初のの2発で当たったなら、それで万々歳なのだが。

次は当てる。そして着弾を確認せずに3発打ち切る。当てる自身はある。今まで散々色んな射撃練習をしてきたんだし、もっと難しい事もやってきた。

さぁこい!そう思い俺は気合を入れ直してアイソセレススタンスで構え直す。


「1発!・・・2発!!・・・3発!!!」


するとワイバーンはギャウンと何とも言えない声を上げバランスを崩しそのまま地面に転がっていく。

やったのか・・・?

そう地面にへたり込んで考えていると拍手が聞こえてくる。


「初めてにしては上出来ね。まぁこの位はやれる事を見越してこの世界に飛ばされてはいるんだけどね」


「見越して・・・飛ばされる・・・?」


緊張とプレッシャーから解放され、大して動いてないのに肩で息をしながら聞き返す。


「ま、それよりも今、貴方、やったのか?とかお決まりの事を思い浮かべなかった?」


「え?そりゃ普通、思う、だ・・・ろ・・・う・・・?」


振り返ると、もがきながら起き上がるワイバーン。

あちゃー・・・フラグだったか。


「ちゃんと倒せたか分からない時は戦闘態勢を解いてはいけないわね。そして、しっかりと確実に止めを刺さなきゃ、ダ・メ・よ!」


そう言うと、突然、ワイバーンの方へ跳んでいき、日本刀を何処から取り出してワイバーンの脳天を突き刺して絶命させる。


一瞬の事で呆けていると、少女は、日本刀を何処かにしまいながら戻って来てカードの様な物を差し出してくる。


「これは・・・?」


「この袋の中に入ってた貴方の身分証みたいなものね。ハンターズカードよ」


手渡されたカードを見てみると意味不明な文字が並んでいるが、直ぐに半透明で日本語で訳された物であろう文字が浮き出てくる。


「ハンターズカード?うお・・・日本語が表示された・・・」


「取りあえずファンタジーな世界とは言え身分が証明できない人は街にも入れない事があるから。なくさない様にね。多分、なくせないのだろうけど」


「なくせない?それは便利だけど・・・うん?出身地・・・ウッキョ村?」


すごい発音の村だな。


「貴方のここでの仮の出身地ね。山奥の秘境のド田舎から出て来たって事にしておけば、貴方がこの世界の常識知らなくても何かと言い訳が可能でしょう。それにウッキョ村には謎の魔導技術あるって噂もあるから貴方の所持品に関しても誤魔化せるんじゃないかしら」


「なるほど。だけど、そんな単純に行くのか?」


「さぁ?それじゃ、この袋返すわね。使い方は袋を開けて少し念じれば魔法陣みたいなウインドウが空中に浮かぶから後はゲームみたくやればいいわ。さて、こんなもんかしら」


「ありがとう。助かったよ」


「じゃ、私はこの辺でお暇するわね」


そういって少女は両手を上げて伸びをすると去ろうとする。


「え?これでお別れなのかい?まだ色々教えて欲しい事があるんだけれど・・・」


「私もこう見えて暇じゃないしね。それに習うより慣れろよ。貴方の持つ知識、道具、技術を使ってこの世界で無双するもよし、ハーレムを作るもよし、のんびり畑仕事して平穏に暮らすもよし。自分の道は自分で切り開きなさい。折角、異世界に来たのだから」


「そっか、そうだな。この世界じゃきっと俺はいまチート級なんだろうな。だったらやるしかないか」


「そういう事ね」


「あ、そうだ、最後に一つ、君の名は?」


「私の名前は プロテノアよ。言いにくいからノアって呼ばれることが多いわ。それじゃーね瑛次郎、生きてたらまた会いましょう」


「ああ、また死なない様に頑張るよ。本当にありがとうな」


そう言うとノアは背を向け片手を上げて手を軽くふり、草原の向こうへと歩いて行く。すると不思議な事に霧に包まれるかのようにぼんやりと姿が消えた。

ノアか・・・一体何者なんだろう?地球の事にも詳しそうだったし、やっぱどう見ても見た目の以上の年齢はありそうだ。

また会えるといいな。


で・・・だ。どうするか。このワイバーンの死体。異世界物の定番だとこれを売ってお金に代えるんだよなぁ・・・。

だけども解体とかできねーしなぁ、これを運ぶ手立てがない・・・困ったな。




初めまして、そして、あけまして。2020年新規スタートします。

どうぞよろしく。

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