天使が恋愛成就のために派遣されてきたんですが!?
「彼女欲しいなぁ」
いつものように仕事から帰ってきて、一人で飯を食い、布団に潜る。友人が彼女と同棲を始めたことを知り、一人でいることに寂しさを覚えてきた。
顔は……まあ、普通。性格もそこまで酷くはないと思う。でも友達くらいがちょうどいい。そんな風に周りから言われる俺は、未だに彼女が出来たことがない。
「そんなに彼女が欲しいんですか?」
「ああ、欲しい……って誰だ!」
後ろから声をかけられて振り向くと……頭の上に光の輪を浮かべて、背中に純白の翼を持つ天使がいた。……その手にタブレット端末を持って。
「天使!?それになんでタブレット!?」
「はい、天使です。タブレットのことは、気にしないでください、天界にもIT化の波が来ただけです。今では天使もスマホを自由自在に操れます!」
「そうか……それはまあ、いいや。あんたは天使なんだよな?」
「そうですよ?どこにでもいる普通の天使です」
「天使がそこらじゅうにいたら大混乱だよ!」
「まあ、気にしないでください」
「いや、気にするよ!」
久しぶりに叫んだから喉が乾いたので冷蔵庫にお茶を取りに行く。
台所から戻ると天使がちょこんとちゃぶ台の前に座っていた。なぜ違和感がないのだろうか……
「はい。普通のお茶で悪いけど」
そう言ってお茶を出す。
「いえ、ありがとうございます」
適当にお菓子も出して食べてもらう。余程嬉しかったのか、頬にお菓子を詰め込みリスのようになっていた。
「ご馳走さまでした」
……最終的に爆食天使は家にあるお菓子を全て食べ尽くした。気にするまい。
「……なんで俺のところに来たんだ?」
「日本で少子高齢化が進んでいるからどうにかしろって上から言われて来ました。つまり、仕事ですね。これのタブレットがあなたの運命の人を教えてくれます」
「それを見れば俺の運命の人が分かるわけか……見せてくれよ」
「あー、駄目です。天使以外が見ると……」
「見ると?」
「頭がポンッてなります」
「頭がポンッ!?」
触らないでおこう。見ないでおこう。視界にも入れないようにしないと……俺は、そう心に決めた。
「とにかく!私が運命の人に出会えるように精一杯協力します」
こうして俺と天使の生活が始まった。
◇◇◇
彼女が来てから一年が経ち、友達も増えて気になる子も出来た。
「いい加減彼女作って下さいよ。私もきついんですよ」
「やっぱ、なかなか勇気が出なくてさ」
それなのに情けないことに俺は告白に踏み切れていなかった。
「はあ、情けないですね」
もっともな言葉が俺の胸に突き刺さる。
「それに同じ会社の同僚の子。絶対にあなたに気があるのに、なんでなにも言ってあげないんですか?この間も二人きりで飲みに行ってたじゃないですか」
「な、なぜそれを!」
「それが……仕事だからです」
彼女は疲れたかのように言う。
「やっぱり好きなら好きって伝えるべきかな?」
「それはもちろんそうですよ。というかそうしてもらわないと私の仕事が終わりません」
「そうか……勇気を出して言ってみるよ」
◇◇◇
「なにが告白の時はついてこないでくれですか」
今日は彼がなかなか帰ってこない。もう十時を過ぎている。きっとよろしくやっているのだろう。タブレットに出ていたのだから。
運命の人の人と結ばれてきっと彼は幸せに暮らすだろう。私はそのために来たんだから。
「でも、こんな仕事受けたくなかったな」
私は一人涙を流す。
天使は人間に恋をしてはいけない。
そんな法が天界にはある。天使は人々に平等に接しなければいけないから、恋をしてはいけないのだ。
でも、私は彼を好きになってしまった。明るくて、真っ直ぐで、いつも必死な彼の姿を見て、好きになった。あと女の子に優しいところ?まあ、そのせいで女の子にも面と向かって『友達くらいがちょうどいい』なんて言われるんだけど。
少しぐらい強引なところがあったほうが女の子はひかれるのになぁ~と思う。
まあとにかく、天使は恋を……してしまった。
だからこれは私への罰なんだ。好きですって伝えられない。だから私は泣く。一人寂しく彼の部屋で涙を流す。
カチャ。扉が開く音が聞こえる。
「ただいま」
「おかえり」
彼が帰ってきた。今日は帰ってこないと思ったのに……
「告白は上手くいった?」
これが私の最後の仕事。最後まで明るく振舞おう。
彼が首を横に振る。
「え?」
確かに運命の人と出ていたのに……タブレットに目を向けると空欄になっている。
「どういうこと?」
呆然としているところで、いきなり彼が私に私に何かを手渡した。
少し小さめだけど、可愛らしくて綺麗な花束。私が前、彼に一言『綺麗な花』と言葉を漏らしていた花だ。
「好きだ」
「ふぇ?」
「好きだ。ずっと一緒にいて欲しい」
突然の彼の告白にもうわずった声を上げるだけだ。この予想外の出来事の連続に私は対応しきれない。
「君の笑った顔が好き。困った時の顔が好き。いつも美味しそうに俺のご飯を食べてくれる君が好き」
「でも、私、天使だよ?」
「関係ない」
彼が私の腰に手を回し、抱き寄せてくる。
「俺のことは嫌いか?」
「嫌いじゃない。でも、でも……」
なにか言い訳をしようとした私の口を彼が塞ぐ。少し乱暴で、そして優しい口付けだった。
「あ」
少しして彼が私を離す。それを残念に思ってしまう私がいた。だから私は……彼の首に手を回し、今度は私からキスをした。
私がタブレットに目を向けるとそこには私の名前が書かれていた。
神様の......イジワル
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