残念な男は最後の方まで残念である
「有意義な時間をありがとうございました」
パッとしない彼は口早に感謝の念を伝え、なるべく不快感を与えないように柔らかに見えなくもない曖昧な(捉え方としては下品な感じに見える)笑顔を向ける。
「お時間をお取りしてすみませんでした。お詫びの品と言ってはなんですが、これを」
「ありがとう、助かるよ」
帽子をとってその悲しい頭をこちらに見せる男性と、彼の足らない言葉に付け加えるようにして舌を回す彼女から、この辺りではまず手に入らないであろう数種類の香辛料が内包された袋を受け取る。
社交辞令を弁えている彼女に感心しつつ、宿の入口に突っ立って動かない――と言うよりは動けないと言った方が正しいであろう彼を見やり、彼女の日頃の苦労を目に浮かべて一筋の涙が滴り落ちる。
「……これからも頑張ってくれ」
思わず口からこぼされた労いの言葉に、彼女は少し驚いたように、そして決意を新たにしたようにそのぱっちりと開いた意志の強い目を輝かせると顎を引き、微微笑を作って応える。
彼女の反応を受けて照れる私は馬車に視線を移すと待ちくたびれた様子のナシアと、出発の準備が整っていることを示しているのか御者が疲れた顔で台へと上がっていた。
状況から察するにあの天真爛漫な少女の相手をしてくれていたらしい。彼の顔からは「朝方からなんで疲れているんだ」という雰囲気が漏れ出している。
同情心から彼女らとの別れの挨拶を早々に終わらせると急いで馬車に駆け寄る。
「すまないな御仁。見込みでは早めに切り上げれると践んでいたのだが…」
「頼むぜ 、ほんと。嬢ちゃん朝っぱらから元気過ぎんだよ。おっさんにはそんな気力ねぇての」
面倒臭そうに言いつつもちゃんと見てくれていた彼に感謝すると気持ちを切り替えてもらい、走りはじめてもらうと凸凹コンビが住まう町を後にした。
ちなみに余談だが、料理長にレシピを教わった際に私が腕を認めた料理人にそれを伝えてほしいと頼まれたのだが、正直する気はないと答えた。
他人任せにするのではなく、自分なりに頑張ってどうしても無理そうならば手紙を書くように伝えたが彼女がいるので恐らく心配はないと思う。
私は馬車に揺られながら悲しい報せが来ない事を密かに願った。