絶叫による悲劇の朝
翌朝、私の目を覚ましたのは隣に眠る少女でも、窓から射し込む日の光でもなく、一人の慌ただしい宿屋の娘の悲壮な叫び声だった。
「あぁ~死ぬ~!忙しすぎて割と本気で死ぬ~!」
早朝から聴くに耐えないその絶叫は、長いこと耳にしていると気が滅入ってしまいそうだ。何てものを聴いてしまったのだろう、彼女は華奢な身体を震わせ耳を塞ぎ、その声が過ぎ去るのを心から願っていた。
暫くして静寂が戻ると、辺りを確認するようにして彼女は扉から廊下を見渡す。
良かった…。あのある意味で恐ろしい少女はこの辺りからは姿を消したようだ。
彼女が安堵の表情を浮かべ平常心を取り戻すと、時を同じくして髪が跳ねた少女がベッドから起き上がる。
「あれ? あ、おはようございます」
「ああ、おはよう。その様子だとよく眠れたみたいじゃないか」
目を擦りながら朝の挨拶を交わす少女は、青い寝間着から可愛らしいお臍がチラリと見えている事を気にも留めていないようだ。
これではいけないと堪らず指摘する。
しかし、
「男性の方は居ないんだからいいじゃないですか~。それより、着替えて朝食を摂りに食堂に行きましょう!」
意識が低い彼女にはそれも意味を為さない。何処で育て方を間違えてしまったのだろう。
これではナシアの御両親に対して申し訳ない、そう心内で思う彼女そっちのけで黙々と着替える少女は、簡単に支度を終えると彼女に駆け寄り、「早く着替えてください」と急かした。
彼女はやれやれとでも言いそうな顔を造りながらも、少女の訴えを行動に移す。賑やかで仲睦まじい二人の朝を祝福するように外では屋根の上で小鳥が囀ずっていた。
互いに支度を済ませ食堂に向かうと、思いの他混雑していて私達は奇跡的に空いていたテーブルに座る事が出来た。
食堂には野菜の香ばしい匂いが立ち籠めていて私達でも食事を摂る事が出来そうだ。
「御注文はお決まりですか?」
席について直ぐに白いカチューシャを頭に身に着けて、黒と白でスッキリとしたフリルの付いたメイド服?成る物を身に着けた女性に声を掛けられる。
給仕を雇う余裕がある所を見ると、評判通り繁盛しているらしい。
「オススメのものって何ですか?」
「女性の方にはコーンスープやサラダ等が人気で、注文されるお客様が多くいらっしゃいます」
「それじゃあ、コーンスープとサラダを二つずつお願いします!」
「了解しました。それではごゆるりとお過ごしください」
給仕はそう告げると颯爽と厨房に向かう。仕事が速いものだと感心している彼女の正面では、茶髪の少女が目を輝かせて何か言いたげな様子だったが、先程の仕返しとばかりに完全に素通り。それに対して少女は納得の往かない様子で、
「大人気ないですよ…」
と彼女に聴こえない程度の小声でそう呟いた。