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女の子の装備選びは時間がかかるらしい①

 あれから数日が経過した。サーヴァが加わった事で家事に割く時間がかなり減少して私としては物足りなく感じながらも楽になって助かっていた。食事を私とサーヴァで当番制にしようとしたのだが、そこは火花を散らしている間柄だ。私にやってほしいとナシアが燃え滾る目で訴えかけて来た。


「私は立場を判明させる良い機会だと思っていましたが……残念です」


「目が怖いぞ?」


 サーヴァとの間にそんな会話がありつつも、二人の権力に今だ上下は存在していなかった。二人は私を手伝ってポイントが入る云々と言っていたが、当の本人である私がポイントとやらを与えはしないので二人で少し不貞腐れている。ぜひこの調子で早く和解出来る日が来てほしい。


 まぁ、多少のゴタツキはあったものの思いの外円満な日々を謳歌している私たちは、賑わう人々でごった返す市場に買い出しに来ていた。


「ご主人様、こちらです」


 サーヴァが私の服の裾を引っ張って先導する。思えばここ数日で彼女は大分力加減が分かってきたように感じる。手伝いを始めた初日なんかは本当に大変だった。皿が何十枚と砕け散り、小突いてしまった家具は崩壊したりと、それはもうここ数日家中で破壊音が鳴り止まなかった。たちまちゴミの山が出来上がり、処分に苦労したものだ。


「ああ、すまない。私はそういう業界の事には疎いんだ」


 そんな事もあって、彼女の生活用品が揃っていない事にサーヴァの意図しない破壊活動が落ち着いた頃気付いて今に至る。流石に服が一着だけと言うのも不憫だし、これを機に何かに興味を持ってくれればと思う。


「サーヴァさんばっかり狡い……」


「そう拗ねてくれるな。手でも繋ぐか?」


「え、えっ、え――! で、でも……」


「嫌か?」


「嫌じゃ、ない、です……」


「? そうか、なら行こうか」


「はいっ!!」


 自棄にもじもじしてから恐る恐ると言った様子でゆっくりと私の手に手を伸ばすナシアに不信感を抱きつつも、さっと手を取って歩き出す。誰にとは言わないが、そうしなければ服を破砕されてしまう。


 私は少し早足でサーヴァとの距離を詰める。サーヴァは私を挟んだ向かい側にいるナシアを見て足を止めた後に私の空いている手に指を絡めて来た。手癖が悪い。これは矯正する必要があるな。


「ご主人様、目的地に到着しました。ナビゲートを一時終了します」


「ご苦労様。すまないが気に入った服を持って何着か持って来てくれないか?」


「ご主人様は見ないんですか?」


「私は……こういった店に入るのは抵抗があるからな」


 私はショーウィンドウ越しに店内を横目で見やる。ショピングモールという所に内蔵されているこの店には、爽やかなものから女性の私でさえも思わず目を背けたくなるような際どい服が一頻り揃えてあるらしい。サーヴァに事前に聞いていた情報通りだったが、いざ目の前にすると並々ならぬ思いが押し寄せて来る。正直想像以上だ。腰が引けてくる前にさっさと別の場所に移動するとしよう。


「しかし……」


「いらっしゃいませ~! 本日はどのようなお洋服をお探しですかぁ?」


 分かりやすい程に猫なで声の女性、もとい店員がこちらにすり寄って偽りの笑顔で接待を開始し始めた。やはり馴染めそうにない。ナシアとカフェにでも入っていた方がまだ気が楽だ。


「丁度良い。君にこの子に似合いそうな服を何着か見繕ってほしいんだが……」


「分っかりましたぁ! この私にドンとお任せを!!」


「あ、あぁ……、宜しく頼む」


 私が店員の女性の調子に気後れして退店しようとタイル床を踏み出した時、


「妹さんの晴れ姿を見届けないで何処に行く気ですか?」


 腕を掴まれて止められた。どうやら私とサーヴァは姉妹に見られているらしい。いや、義姉妹だろうか。どちらでも良いんだが、訂正を入れるのも面倒に思えてきた。慣れない場所に顔を出し過ぎたせいだろうか。少し体が重く感じる。


「妹さんもお姉ちゃんに見ててもらいたいですよね~?」


「はい。ご主人様に見て頂けると嬉しいです」


「えっ!? お二人ってどういう関係なんですか? もしかして……っ!?」


 女性店員がこちらをジロジロと不躾に見ては顔を幸せそうに破顔させる。大丈夫……、なのか? これは。


「多分君が考えてるような関係じゃないのだけは確かだ」


「……そうなんですか」


「……露骨に残念そうにしないでくれないか?」


「まあまあ、取り敢えずここで座って待ってて下さい」


 満面の笑みで店内に置かれている円形のソファに座らせられる。女性店員は私を無理矢理座らせるとサーヴァの手を引いて備え付けられている更衣室へそそくさと行ってしまった。それと同時に嵐が過ぎ去ったような安心感が生まれた。……やっと行ったか。


「なんか凄い人でしたね……」


 先程まで固く口を閉ざしていたナシアがここに来て漸く口を開いた。顔が少し疲れている。長い間二人だったせいだろうか。ナシアも人混みは苦手らしい。


「大丈夫か? 顔色が悪い気がするんだが……」


「いえいえ、お構いなく。私はフィアットさんと居れれば大丈夫です」


「なら良いんだが……。無理はするなよ?」


 ナシアは可愛らしく微笑むと私の目が届く範囲で服を物色し始めた。ナシアもやはり私とは住む世界が異なる住人だったようだ。


「……すいません。隣良いですか?」


「ええ、どうぞ」


 ナシアを暫く見守っていると女性が話しかけて来た。彼女も子連れのようで、娘さんの買い物に付き合っているらしい。


「お互い大変ですねぇ」


「ええ、本当に」


 ひょんな事から知り合った彼女と少し話してみると、通ずる所が意外にも多く、彼女とはすぐに仲良くなれた。


 シャーとカーテンの開かれる音が聴こえてきた。もう流石に終わったらしい。

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