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覇権争いinエルフ宅

「フィアットさんお帰りなさ――いっ!?」


 扉を開けるとその前にはナシアが待っていて、驚いている。わなわなと震える姿はまるで小鹿のようだ。


「ただいま。いきなりどうし――ああ、彼女はサーヴァだ。訳あって引き取る事になった」


「これからお世話になるサーヴァと申します。不束者ですが末長く宜しくお願いします」


 サーヴァが挨拶をすると固まっていたナシアが動き出す。ぎこちない所作が魔導人形よりも魔導人形みたいで少し可笑しい。しかし、それも仕方ないな、勝手に連れて来たのは私なのだから。


「え、えっと……、宜しくお願い、します……」


 狼狽えながらも挨拶を返すナシアの心情を察すると悪い事をしたとは思うが、私も連れて来たくて連れて来た訳ではない。だからそんな目で見られるのは些か不服というものだ。


「ご主人様。この方はどなたですか? ご主人様の血を継いでいる様でもないので親族の方ではないようですが」


「彼女はナシアだ。少々縁があってな、私と住んでいるんだ」


手の平をナシアに向けてサーヴァに紹介する。デリカシーを持ち合わせていないから、後々教えていかなければならないな。


「そのナシア様ですが、先程からこちらに射殺せそうなくらいに濃密な敵意を向けて来ていますが、黙らせますか? それと……縁をなるべく早く切る事を推奨させて頂きます」


「……その短絡的な思考回路はどうにかならないのか?」


 はあ。予想以上に酷い状況になってしまったな。お互いに黙ってはいるが視線で牽制し合っている。……きっと腹を空かせているのだろう。


 私はそういう事にして台所に向かう。一応疲れてはいるのにあのままではどちらかが退くまで終わらないだろう。それに付き合う気力は残されていない。サーヴァの話だけでいっぱいいっぱいな所に更なる厄介事を突っ込む隙間はないのだ。


 気分転換に料理を始める。出入口で睨み合っていた二人も料理が出来上がるに連れて増す嗅覚を刺激する匂いを嗅いで一時休戦状態で食卓に座る。


「出来たぞ。さあ、食べてくれ」


 ナシアは目を輝かせて料理から漂う匂いにうっとりとして私が食べ始めるのを待っているが、サーヴァは興味深そうに私の分を覗いている。


「食べれるのか?」


「いえ、そうした行為を真似る事は出来ても消化する事が出来ません。ただ『成長』すれば可能になるかと」


 サーヴァの話を聞いて何故か勝ち誇ったような顔でサーヴァの方を見ていた。サーヴァはナシアには触れずに大人な対応を執っていたので、流石にこれ以上ややこしくなる事はないようだ。


 私はほっとするのも束の間、食事をささっと済ませると皿洗いに移る。案の定というか何というか食事の時間は少しマシになっていた二人の無言の喧騒の覇気が然程離れていない台所にいても届いて来た。


 私としてはサーヴァに一歩退いて貰って丸く治まって欲しいと切実に願っている所だが、彼女には


「始めの内に上下関係ははっきりさせるべきです。後の生活が懸かっているのでここはご主人様の命令でも退く事は出来ません」


 と拒否された。どうして上下関係云々が出てくるのだろう。私としては対等で良いじゃないかと思う所があるのだが、私に上下を区別するから扱いの差をつけろとでも要求しているのだろうか。やはり、彼女の考えをある程度理解出来るようになるにはそれなりの時間を要するようだ。馬が合わない訳でもなさそうに見えるので関係が改善に向かう事を祈るばかりだ。


 二人の仲を取り持つのにも限界がある。私の手に余るようだったら一度ガルノスさんに相談してみる事にしよう。


 私は家事の大方を終わらせてベッドへ入った。今日は色々とありすぎた。見つめ合っている二人を止めるのは明日以降にして今日はもう寝る事にした。二人が私の両隣に入って来るものだから二人が寝静まった後に私はソファで寝る事にした。


 目を閉じると瞼の裏にはベルンの姿が浮かんだ。


 『――現時点でも一国ぐらいならば三日もあれば滅ぼせるだろう』


 ベルンの言葉が頭の中に湧いて来た。見た目は天使、しかしとてその実態は世間知らずな破壊者。腕をたった一振りしただけで数万もの命を奪う事も出来る軍事兵器顔負けの破壊兵器だ。見た目は年頃の少女だが、心はまだまだ子供で、精神年齢だけならナシアの方が上だろう。


 今のサーヴァは刃物を持った子供だ。人間性というのはそうでない事もあるが大抵は幼少期の生活などにより芯の部分が作られると言われている。全ては私の教育手腕にかかっているとも言える。

 少し話して感じた事だが、サーヴァは私の事以外にはほぼほぼ関心がないようだった。彼女の耳は高性能なのだから、街中での会話は殆ど聞き取れていただろうし、その中に関心のある話題が一つぐらいあっても不思議じゃない。興味が尽きなくても可怪しくはないのだが、市でも無関心を貫いていたし、私に気を遣って好奇心を抑えているような様子でもなかった。


 彼女は感情表現が得意ではないらしく、分かりやすく感情を表に出す事はない。口元がヒクツイているのを指摘すると、本人は笑顔でいるつもりだと答えが返ってきた。怒っている時は他に比べると分かりやすいが、如何せん顔が代わり映えしない。あらゆる面で揺らぐ事がないのは最早尊敬すら出来る域にあると言っても差し違えない。


 ――解決の糸口さえ全く以て見えないが、気長にやろう。そう決心して私は夜の静けさに意識を溶け込ませた。

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