身辺調査
夜遅く、その小屋には金髪の女性と彼女に敬意が含まれた視線を向けながらテキパキと散らかっている机を片付ける青年達がいた。
「これで最後かな?」
「はい。重症患者は今のところ先程の方で最後です」
少年はその手の中にある道具を棚に戻しながら彼女の問いかけに答える。彼女はその答えを聞くと大きく伸びをして立ち上がる。ローブを羽織り、フードを深く被ると
少年は彼女の意思を汲み取ったように「後片付けは任せてください」と歩いていく彼女を一瞥して口にした。
彼女は苦笑しながら「任せた」と声を置き去りにして扉を開けて夜の闇に透き通るような白い肌を消した。扉が自然と閉まる頃には既に彼女の姿はなく、小屋の中には片付けに勤しむ青年達だけが残された。
「さて、漸く暇が出来たわけだが、何処から探ろうか」
僅かにはみ出た彼女の頬を月明かりが照らす。彼女の頬は空に輝く月よりも白く、上を見上げた者がいたならば全貌が分からなくとも彼女に見惚れてしまうだろう。
彼女は暫く何か考えているように動かなかったが、東の方向を見つめるとその方角へ屋根伝いに走って行った。しかし、
「行かせはしないぞ!」
黒い外套を着込み、顔に鉄仮面を付けた複数で構成された集団が行く手を阻む。片手に握られた銀の刃は月に反応して淡く光っている。
「こんな行動に出てはこの先に何かあるのを教えているようなものではないか」
彼女は彼らにそう告げて腰に提げた剣を構える。黒い影は彼女との距離を一歩、また一歩と詰める。微動だにしない女性に痺れを切らしたのか、先頭の影が一人先攻に出た。
空気を掻き分けて彼女の首元を狙った剣撃はビューという音を発てて着々と死の未来を見せる。彼女は首を傾げて死を免れると影を蹴り飛ばして斜め下に斬りつける。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!」
「我慢が足りないな、君はその道に向いていなかったようだ」
落ちて逝く男の絶叫を横目に見ながら彼女がそう呟くのと、残りの影が警戒を更に強めるのはほぼ同時だ。影の一人が二本の指を上げると四人がかりで彼女に襲い掛かる。
たった一太刀で三人の体勢を崩すと残った一人に鋭い突きを繰り出し、心臓を貫いて引き抜く。空中に滴が煌めき、痛みに声を上げた影は自身の勢いで屋根と擦れて彼女の後方で動かなくなった。
それから続けて二人の影に切り返しで首筋を切り捨てる。生き残った影は一旦後ろに退くと、指揮を執っている影から小柄な盾を受け取って再度攻撃に転じる。
「たとえ盾があっても防げなければ意味がない」
影は彼女の剣を防ぐ構えを取ったが……時既に遅く、剣は盾に擦れる事もなく命を刈り取った。その様子を見ていた一際小さい影は指揮の任を早々に放棄して数少なくなった者達と撤退に移る。遠ざかる背中を見つめながら彼女は、
「さあ、案内して貰おうか。首謀者の元へ!」
と不敵な笑みを浮かべるのだった。