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疫病は唐突に

 彼に量産を頼まれ、私は病が流行っているという町まで同行していた。ないかもしれないが副作用があった時の対処を行う為だ。薬が出来るのには時間が掛かるので先に症状の酷い者から薬を処方する事になった。


「ありがとうございます。ありがとうございます」


「お姉ちゃん、お母さんを治してくれてありがとう!」


 毎回処方の際に礼を言われる。彼女の母親もまだ体力が戻っていないというのに来るものだから安静にしていてほしいが、それほどこの町は深刻な状況下にあったのだろう。町並みを見れば分かるが木製の窓は全て閉じられ、一時間の間しか市場が設けられずとても町とは呼べないほどに活気がないのだ。


「気にしないでくれ。それに病の流行が収まるまで安心は出来ない」


「ありがとうございます。できるだけ用心します」


「じゃあね、お姉ちゃん」


 手を振る子供に笑みで返し、親子が見えなくなってからため息を吐く。布で口を塞がないといけないというのは大変遺憾に思う。ここまで酷い有り様の町を何故放っておけるのだろうか。国の中枢は良くも悪くも無干渉を貫いている。


 帝国の方だと病が流行った町や村は炎で焼かれるという。これは帝国の扱いが酷いだけであって決してマーリンも褒められたものではないが、そのような愚行に走らなかっただけ幾分かはマシではある。


「よう、お疲れ様だ。お嬢さん」


 彼は脱力して椅子に凭れ掛かる彼女に声をかけ、「これ飲むか?」と両手に持つホットココアの片方を彼女に向ける。彼女らが今いる小屋は水魔法と風魔法でフィアットが清潔を保っている為、空気感染の恐れがない。彼女らが空けている時は感染していない町民が食事の場として使うこともある。


「ああ、戴こう。……それにしても想像以上だな」


「そうだな。俺も最初はここまで酷いとは思ってなかった」


 彼女らはココアから上がる湯気を見つめながら暗い表情で重たい口をそれぞれに開く。この状況は約一ヶ月前から始まり、中々終焉を見せずにいた。


 事の発端は路上で倒れた一人の男性だった。その男は高熱と眠れないほどの咳に襲われてたったの四日で息を引き取った。それから二日が経った頃町民の一部にも同じ症状が診られ始めたが、さほど酷くはなく気のせいだと思っていたところ今の事態に陥ったという。


 更なる別の病の感染を防ぐ為、亡くなった方々のご遺体は燃やしたのだそうだ。一人くらいは遺しておいてほしかったのだが町の現状を見てはなんとも言えない。死者は既に数千人を越えており、事態の深刻さが見てとれる。


「その男が以前いた場所は分かったのだろうか」


「いや、まだだ。少し前に冒険者ギルドに調査を依頼したが一向に進展がない」


「魔物から発生したものだという線は?」


「なくはない、だとよ。あいつら何か隠してやがる気がすんだが……」


 彼は舌打ちをして疑いの眼差しを魔法都市の方へ向ける。ココアの湯気も心なしか同じ方向に消えているように見える。


「どちらにしろ、このままじゃ埒が明かないな。私も時間があれば調べてみる事にしよう」


「頼んだ。俺も伝手をあたって独自に調べてみる」


「それは独自とは言わないな」


「細かい事は気にすんな」


 彼女らはココアを飲み干すと会話を終えて外していた布を後ろで結び直し、まだ残っている仕事に取りかかり始めた。

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