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お泊まり会

 私がアリネラと共に家屋に戻ると二人は昔話に花を咲かせているところだった。流石に交渉は終わっているようだ。


 今日はもう遅いので視察は明日になった。三、四件あるそうなのでそこから選んで欲しいとのことだ。ナシアはついさっき起きたばかりらしくまだ少し眠たそうな目をしている。


 食事のちょうど一時間前に起きるので食い意地が張っているとアリネラに冷やかされていた。


 宿を取りに行こうとしているところにガルノスさんから「今日は泊まっていけ」という有り難い言葉が掛かったので泊めて貰う事になった。私は泊めて貰う代わりに食事で彼を満足させる事でこの気遣いに報いようと思う。


 彼の家の台所設備はどれも最新のものらしく埃の一つも付いていないし、中には使い方がよく解らない機器もあった。


 彼に使い方を教わって夕食を作り始める。ガルノスさんは理解のある人だったので肉を使う料理は作らないで良いと言ってくれた。


 今晩はトメトの煮込み鍋を作ろうと思う。中年層に人気だと料理長が言っていたので何となく選んだ。良質な材料も揃っているのでさぞや食欲を唆る出来栄えとなる事だろう。


 使うのはトメトとハクシャイとキャペツ、ジャガジャガにペッパとバシルの六点だ。


 まな板の上で野菜を角切りにしていく。彼の家にあった包丁はかなりの業物だ。すんなり刃が通るので貰っていきたいぐらいだ。


 切り終わった野菜を予め沸かしておいた鍋の中に纏めて入れる。お湯が朱に染まったところでペッパを適量入れて暫く鍋に蓋をする。


 後は煮詰まったものを器に取り分けてバシルを上からまぶして完成だ。これは私が独自で改良を加えて前以て食感を残す為にどけていたブロッカリが入れてある。


「さあ、召し上がってくれ」


「それじゃ、遠慮なく」


「「っ!!」」


 食卓に並べられたスープを全員がほぼ同時に口に運ぶ。私的には中々の出来だと思う。


 旅の初期メンバーは満足げに頬を緩ませているがアリネラとガルノスさんは驚愕に目を見開いていた。そういえばアリネラの父も初めは同じような反応をしていた。


「旨いな……。酒が欲しくなっちまった」


「この嬢ちゃんスゲーよな。俺達の女房より旨いんじゃないか?」


 男衆は二人揃えて彼女の腕前に称賛を贈る。ガルノスは酒が欲しいのか蔵の方を何度か見ているがフィアットに優しく論されて半ば諦めた様子を見せた。


「お父さん! そういう事は言っちゃダメでしょ? ……確かにフィアットさんの料理の方が美味しいかもしれないけど」


 アリネラは父の言葉を受けて白い肌を少し赤くしている。そんな彼女を見て罰が悪そうに短い髪を乱雑に掻いて苦笑する彼に彼女は席を立って駆け寄って行くと彼の右側の耳を引っ張る。


 彼は痛みで顔を悲痛なものに歪ませる。隣に座っていたガルノスはその光景を温かい目で見守っていたが彼の潤んだ瞳を見ると高らかな声で嗤い始めた。


 ついに観念したらしい父親はこの場にはいない妻へ謝罪を告げると娘にも謝って反省を終了した。


 その後は各自の寝床に案内された。それから順に入浴を終えた者から就寝をしていき、先程まで騒がしかった食卓はもぬけの殻となった。

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