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 大樹が聳え立つ庭はかなり広く、家が何十件かは建てられる規模ある。一角には溜池もあってなんだか貴族の所有している土地のようだ。


「凄いな。この広さなのに隅々まで手を入れているのか」


「そうですね。それじゃあ――お願いします!」


 庭の完成度に感嘆の言葉を洩らす彼女に少女は相槌を打つと顔を引き締めて身構える。その姿に彼女も先程とは違う顔を見せて少女に数回手招きする。


 彼女は構えるでもなく、ただその場に立ち尽くすだけでとても今から稽古が始まるとは思えない。


 しかし少女は彼女の強さを身を持って知っていた。だから少しも気を抜かないし、手も抜かない。彼女はあの体勢でも自分の全力よりもずっと強く、とても遠い。


 実際に彼女は盗賊の長をたった一撃で倒している。あの男は王都にも名を轟かせているようなそれなりの実力者だった。いつだったか討伐隊が結成されて盗賊のアジトを襲った。


 しかし討伐隊は男一人を前に退く事しか出来なかった。彼に挑んだ人達は誰一人として軽傷では済まなかったのだ。そんな男の単体での無力化――それを彼女はいとも簡単に成し遂げたのである。


「はあぁぁ!」


 少女は変則的な動きで彼女を囲むと不規則な速度で一回一回違う箇所を狙う。普通の人間ならば対応するのは難しい。構えてもいなければほぼ不可能に違いない。


 そんな少女の猛攻を彼女は涼しげな顔色で左手一つでいなす。少女は攻撃の手を止められて苦くも後方に下がる。その対応を見た彼女は、


「ほう。良い判断だ、そこで退かないのは悪手だからな」


 と感嘆を口にする。こちらは多少息が上がっているというのに彼女は息一つ上がるどころか始めの位置から一歩足りとも動いていない。


 強い。


 彼女は強者特有の雰囲気を持っている。魔法を使えば一矢報いる事ぐらいは出来るかもしれないが、単純な肉弾戦においては彼女に擦り傷一つさえつけられる気がしない。


 拳を交えて分かったのはただそれだけ。今の自分では何をどう足掻こうと彼女に勝てる可能性は絶対に無いという実感だけだった。


 それからはただひたすらに負け続けた。何回挑んでも結果は微動だにせず時たま「その角度からの攻撃は中々に良い」だとか「そこはもう少し捻った方が切れ味が良くなる」といった指摘を受けた。


 この短時間で前の自分より確実に強くなったのがはっきりと分かった。この超人に自分はいつか追い付けるのだろうか、そんな疑問が頭を過った。今は無理でも絶対に追い付いて、いや、追い抜いて彼女に恩返しをするのだ。


「ありがとうございました!」


「ああ、気にしないでくれ。私にとっても有意義な時間だったよ」


 大きな目標を掲げて稽古に勤しむ少女に彼女は少しばかり頬を緩くして家屋へと足を進めた。

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