家探し
珍妙な住宅街を通り抜けるとその先には時代を感じさせる立派な家屋が建っていた。木々を切り倒して作られたであろうそれは手入れをされているのか木材がしっかりと生きていてとても切られた後だとは思えない。
魔法都市に着いた私達はまず最初に土地売りの元を訪れていた。これからこの街に住む予定であるのに家が無いという事態は何としても避けるべきだ。
手の甲で三回程叩いて綺麗な木目の扉を開くと中はきっちりと整理されていて清掃も行き届いていた。観葉植物というのが何個か置いてあって室内は小さな森のようだ。
「うん? まだ時間じゃないってのに――お客ら、とっとと帰んな」
奥の方から床をつかつかと叩く音が聴こえてカウンター前まで辿り着いた男が面倒臭そうに寝癖の目立つ頭髪を掻き毟る。
嫌がる素振りを隠しもしない彼を前に言葉を失っていると男の嗄れた声を聞きつけてアリネラが中に入って来た。
「やっぱり! ガルノス叔父さんって知らない間に老けたね」
彼女はカウンターの中に入り込んで頭が爆発している四、五十代程の男性の脇腹を肘で突く。
「まさか……アイツのところのアリネラ嬢ちゃんか?」
ガルノスと呼ばれた男は先程までの冷めきった皺が目立つ細目をさらに細めて顎に手を置くと暫く黙り込んだ。
それから扉に向かって乾燥した口で叫んだ。
「おい、お前もいるんだろ? さっさと出て来いよ!」
「まぁ、そうなるよな。ガルノス、その美少女は間違いなく俺の娘だ」
ガルノスさんに呼ばれた彼は遅れて室内に姿を現した。その顔はドヤ顔と遠目からでもはっきり判別出来る位に誇らしげである。
彼の返答を聞いたガルノスさんは「やっぱりか」と頑固な顔色を嬉々とした表情に変えて側にいる少女を高々と掲げる。
中年二人のテンションに付いて行けていない私と彼女は互いに目を合わせた。不思議と「なんで?」と問われた気がした。
私達が視線を交わして無言の会話をしている間に気持ちが一旦落ち着いたらしい男衆は「「悪い」」と声を揃えてそれから土地の価格交渉に入った。
彼に予め立地条件を聞かれていたので私がすることはこれと言って無い。ちなみにナシアは疲れたのか馬車の中で寝顔を無防備に晒している。
私は一番最後の方にある土地の視察をする以外出来る事が無いので適当な椅子に腰を下ろした。
私が条件として彼に提示したのは主に三つだ。
一、娼館街の近くで無い事。これは絶対条件だ。
二、貧民街の近くで無い事。これも絶対だ。
三、貴族街では無いがそれなりに商売が盛んな区域。これは正直貴族街でなければ良いと口添えしてある。
最後の方はあるのであればという方向で話をつけて貰うことにした。
話している姿を見る限りまだ当分はかかるだろう。彼らを見ながら伸びをしているとアリネラから稽古をつけて欲しいという願い出があった。
私も彼女も暇を持て余しているので少しばかり身体を動かした方が時間の有効活用ができるだろう。私は彼女の提案を受け入れて彼らに一言声を掛けるとガルノスさんの敷地である広大な庭に出た。