恩返し完了?
「私、私、助かった?」
黒いローブを被った少女はバタバタと気を失っていった盗賊達を見ると泣き出しそうな声を喉から発してその場に崩れ落ちる。
彼女が一番武の才に恵まれていたので正確とまでは往かなくとも私との力量差を理解しているのだろう。しかしそれにしたって彼女の様子は少しおかしい。
彼女の反応は盗賊が絶望に打ち拉がれるそれとは違い、いうなれば盗賊から救われたような人間のそれに近い。
彼女への対処を少し悩んでいたところに見知った足音が近づいて来る。よりにもよってこんな時に起きてきてしまったのか。
「そろそろ朝食のじゅん――こいつらは盗賊か? おっと、それどころじゃねぇ。嬢ちゃん、怪我はないか?」
「ああ、問題ない。だが少し困った事があってだな」
彼は咄嗟に負傷した箇所がないか確かめるように私を上から下まで一通り見て安堵の様子。そんな彼に無事を伝えて泣き喚く彼女に目を移す。
彼に何か彼女を落ち着かせる術を聞こうとして、言葉を呑み込む。彼が驚きと感激がごちゃ混ぜになったようになっているのが横顔からでも見て取れる。
未だに信じられないという顔で口を開閉させて固まった彼は少し落ち着きを取り戻したのか震える声で彼女に話しかけ始めた。
「お、お前――アリネラ……なのか?」
「お父…さん?」
号泣していた彼女は彼の声に耳を傾けて何かを確信したように涙声で彼に問いかける。それから二人の間に暫し沈黙の時間が続いた後に肩を抱き寄せあって嬉し涙を流がしているようだった。
二人の感情の昂りが収まってから聞いた話では彼には数年前に誘拐された一人娘がいたらしく、それが目前の目を赤く腫らした少女なのだという。
まさに想いもよらない運命的な再会となったわけだ。まぁ、とりあえず気絶させた盗賊達を縄で縛って繋げた後に都市部の衛兵に突き出せばこの件は一件落着となるだろう。
多少ドタバタしたがこれで朝食の準備に取りかかれる。ナシアも起きたようだし早く食べさせないと五月蝿そうだ。私は携帯用コンロを馬車から取り出すと煙を起てて料理を作り始める。
新しく加わった旅の仲間への歓迎と親子の再会を祝って今日は料理長自慢の一品を振る舞った。