少年期 一話 『成長した二人』
森の奥深くに一つの大きな影と二つの小さな影が激しく交じり合う。
「ぐっ…フィリナ!合図したら両足を捕らえてくれ!」
「わかった!」
そう、後者は多少は成長したもののまだまだ背の小さい俺とフィリナだ。しかし前者は巨大な狼、名をウルフィンといい森の主らしい。ちっぽけな子供が相手するのは無理難題どころか熟練の冒険者ハンターですら悲鳴をあげるほどの強さだ。それでも勝算はある。昔の俺達ではないのだから。
「こっちだよワン公!ハッ!!」
俺は特大の『ファイヤーボール』胴体に当ててやる。ウルフィンは怒り、こちらを睨む。
「グアッ!」
見た目の優雅さとは裏腹に口の中は全くの手入れなしで非常に臭い。その口で俺を噛み砕こうと襲ってくる。大きな隙が出来たのにも関わらずその臭いで顔をしかめながら合図を送る。
「今だ!」
「『ブレンチキャプチャー』!!」
フィリナがそう叫んだ途端、ウルフィンの足元から蔓のような植物が生えてきてウルフィンの脚を拘束する。植物や自然に関係する緑魔法をフィリナは習得したのだ。あと一歩遅かったら俺はバラバラになっていたが非常に良いタイミング。狼は身動きが取れなくなり暴れるので魔法を操っているフィリナは辛そうな顔をする。
「ルキ…早……く!」
これ以上フィリナに負担をかけさせないよう速やかに討伐しなければならない。応答の時間も勿体無い。
「剣よ真紅を纏え!」
そう唱えると俺の短剣の周りに瞬間で火が出現し、その火を纏いただの短剣だったものが大剣にまで変貌する。大剣と言っても半分以上は火でできているので振り回すのに力はいらないが切れ味は凄まじい。オリジナルの技でまだ名は無いが今の詠唱は気に入っている。
「らぁぁ!」
浮遊魔法で宙に浮き、首を切り落とすように斬り込むと綺麗に魔物の首が跳ぶ。我ながら本当に良い魔法を創造してしまった。
「ぐるぁ?」
頭が宙に舞っている刹那、ウルフィンは何が起きたのか分からず声をあげる。しかしその頭が地面に落ちる頃にはあの世だ。
「…凄い血の量だな。」
俺は首から吹き出る血のシャワーを浴びながらそう呟いた。鉄の臭いがとても強いし衣服が汚れるが別段、悪い気はしない。
「ハァハァ…相変わらず……ルキは凄いやって何やってるの!血だらけになっちゃうよ!?」
「いいんだ。」
ピクピクと胴体が痙攣するがやがて収まり、体が崩れ落ちる。俺は森の主の最後を見届けた後地べたにへたりこむフィリナの側に行って手を差し出す。
「グッドタイミングだったよ、フィリナ。」
「あ…ありがとう。」
相当の魔力を使ったのだろう。フィリナは息を切らして疲れている。やっとのことで立ち上がってもフラフラとして俺が支えてあげないと倒れてしまいそうだ。
「ごめん、無理させちゃったね。」
「いいよ、こうして二人で狼も倒せたことだし…うわっ!」
支えても彼女は倒れてしまった。どうしようか……。あぁ、浮遊魔法を使えばいいんだ。フィリナが俺の背中に乗ってもいいんだったらその手が使える。
「フィリナ、俺の背中に乗って。」
「ッッ!お願い…します。」
やっぱり抵抗があるのかな?獣人は精神年齢が高いっていつだか本で読んだことある。5歳でも抵抗はある……か?いやベットリと染み付いた血か……汚いがここは我慢してもらおう。
「よっ」
フィリナを背負った状態で魔法を発動させて屋敷へと帰る。ははっ遂に俺らはここの森最強のウルフィンを倒したんだ。未だにフレッドには連敗記録更新中だがとりあえずそこそこの強さにはなった。
明日はフレッドにどう勝とうか考えているうちに屋敷に到着する。
「5歳でウルフィンを倒したことをお父様とお母様に自慢してやろうぜ?」
「私なんてほとんど何もやってないよ。ほとんどルキのおかげ。」
「そうかな?フィリナもいてからこそだと思うけど…ありがとね。」
夕方でグラン家ではそろそろ夕食の時間なのに廊下で誰も見ない。皆もう食堂に行ったのか?とりあえず風呂に入ろう。血まみれでご飯を美味しく食べれるほど野蛮になったわけじゃないからな。フィリナと別れて風呂に入り、食堂に入る。
「「ルキ、誕生日おめでとう!」」
「「おめでとうございます!」」
入室した途端にこれか、昔見たことがあるぞ。祝ってくれることは嬉しいが何かサプライズ感が薄れている。あのときは泣いたっけ……。
「あ、ありがとうございます。」
いつもよりも豪華な食事がテーブルの上に並び食事を楽しみながらお祝いの言葉を皆から受ける。大体は前と同じだが一つ違うことはここにフィリナがいること。どうやらフィリナも今日を誕生日としてお祝いされているようだった。
「さて、フィリナ、ルキ?何が欲しいものはあるか?折角の誕生日だ何でも言ってくれ。」
お父様が祝いも終盤に差し掛かったときにそう効いてきた。これはチャンスだ。
「じゃあ俺を今年のコロッセウムに出場させてください。」
「コロッセウムか…よし!今年を逃したらしばらく機会はないかもしれないからな。しかしやるからには頂点目指せよ?」
「勿論です!」
俺の実力を試す最高の場だ。さてどこまで通用するか……楽しみだ!
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