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幼年期 二十九話 『誘拐#1』

「そうだな、ルキの実力なら…」


「ダメです!」


食堂でお父様方に森へ行ってもいいかと訊いてみたが今のお母様の反応を見ると納得させるのは難しそうだ。


「ルキはまだ子供じゃない。強さや実力なんてまだまだ要りません!」


「まぁまぁ。」


今までにない迫真の形相で断固拒否されればフィリナも俺も驚きのあまり黙ってしまう。


「そ、そんなにも森は危険なんですか?」


フレッドも危険と言っていたがそれほど強い魔物がいるということなら逆に気になってしまう。


「当たり前でしょう!あの森にはプロの冒険者でさえ手を焼く魔物がいるのよ?それをまだ子供のルキが狩るなんて…」


「えっと、ルキは実力を知るために森に行って魔物を狩りたいんだよね?」


「あぁ。」


状況の確認を彼女はし始める。さっき起きたばかりで朝食を食べようとしたらこれだ。まだ頭の回転が鈍っているのかも知れない。


「俺は5歳のときに森に行って修行してたぞ?だから…」


「ルーシーとルキは違うの!」


なんかお母様は取り乱している気がする。俺を心配しているのはうれしいけどここまでだったとは。


「でもお母様!俺は食い下がりませんよ!俺だってお父様みたいに強くなりたい。」


「ふっ強い…か。」


若干一名たまに変なことを言う人がいるが俺を含め三人で食堂は言い争いの場と化していた。


「じゃ、じゃあフレッドさんとかお父様とか実力のある人と一緒に行けばいいんじゃないかな。」


フィリナの案で一瞬静まり返る。なるほど、無理に俺一人で行かなくともその手が合ったか。俺もなかなか頭が固い。


「俺は賛成だが…?」


「俺も、良いと思います。お母様?」


「…はぁ、わかったわよ。じゃあフレッド?またこの子をお願いね。」


心の中でガッツポーズをした後、しっかりとお母様に感謝する。さぁ、本格的な修行の開始だ!


「ありがとうございます、お母様!じゃあ早速朝食の後から森に行ってみます。」


「私も行きたい!」


フィリナは一応『ヒール』を使えるから軽い傷ならば回復させてくれるだろう。それにフィリナにとっても良い経験になるだろうし俺は賛成だがお母様は…どうかな?


「フィ、フィリナまで…絶対に危ないことはしないでね?」


「はい!」


どうやら許してくれたようだ。俺と同様、食い下がらないと察したのだろうか。ともあれ良かった。


「それじゃあ朝食の続きをするか。冷えてしまうからな。」


そしていつもの平和な朝食へと戻る。森にはどんな強い魔物がいるんだろうか?


朝食を終えるとフィリナはすぐに自分の部屋へと行き、動きやすい格好になった。俺は朝の訓練の服装のままだ。玄関を出るとフレッドが馬を用意していてくれた。俺も早く乗馬ができるようになりたいものだ。


「私の馬に二人とも乗ってください。」


「よろしく、フレッド。」


「お願いします。」


「では行きますよ!」


フレッドの馬は速く、ほどなくしてルミナス領内の森の側に到着する。決して領地も狭いというわけではないが馬が優秀だったのだろう、時間にして数十分だ。城壁の向こう側にも村は数集落見たがもう回りに人の気配はない。俺達は馬から降りる。


「最初は奥地には行かずに入り口辺りで狩りをしましょう。冒険者も初クエストはそんなものです。」


「…わかった。」


本当はちょっと不服。まだ魔物の強さを実感していないからなんとなくだが、フレッドの言いようだとさして強くもない魔物と戦うはめになりそうだな。


しばらく歩いていると人よりも小さい足跡を発見した。これは本で見たことがある。名前は確か……


「これはゴブリンの足跡ですね。」


「へぇ~…小さそうな魔物ですね。」


思い出そうとしていたらフレッドに先をこされてしまった。そうそう、名前はゴブリンだった。


「一匹一匹は弱いですか集団で攻撃されるとかなり面倒な魔物です。繁殖能力も高く度々周辺の村の女性をも狙いますし、食料も略奪しに来ます。個体数が多くて厄介なので発見次第狩ってしまいましょう。」


人間の女性を狙う魔物なんて存在したもんなんだな。拐われた側は最悪なんてものじゃなかっただろうな……。足跡は少し背丈のある茂みの中に消えていっている。


「そんな魔物はルキが狩るよね、行こう!」


「フィリナ様!」


「フィリナあまり一人で前に行かない方がいいよ!」


フィリナは足跡を追って茂みの中に入っていく。初めてのことで気が落ち着かないのかもしれない。もしあの茂みの中でゴブリンと出くわしたら草で視界が遮られて戦いがしづらいし、状況がわからないだろう。


「フィリナってば。」


俺もフレッドも急いで後を追う。突然、音を立てて草が激しく揺れた。


「きゃっ…」


直後にフィリナの短い叫び声が聞こえる。それだけで俺とフレッドは察する。


「フィリナ!」


「フィリナ様!」


咄嗟に安否を確認するが案の定返事は帰って来ず、代わりに聞こえてくるのは茂みのなかを素早く移動するガサガサとした音だ。その音のした方の地面を見ると先程の足跡がある。フレッドと俺は血相を変える。


「ルキ様!」


「あぁ、フィリナが拐われた!!」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

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