幼年期 二十八話 『強さが必要』
眠い。Zzz…
翌朝、まだ完全に疲れがとれていないが無理矢理にでも体を起こす。時刻は5時でまだ早朝だが今日からまた日課を再開するためだ、頑張ろう。軽く顔を洗って食堂へと向かう。今日もペッツさんは美味しいご飯を作るために念入りな準備をしていた。
「おはようございますペッツさん。」
「あぁ、おはようございますルキ様。今日もサンドイッチでいいですよね?」
「勿論、いつもありがとうございます。」
基本俺の昼食は軽くて手軽なものだ。それにペッツさんが作るサンドイッチはいつも美味しくて飽きない。
「そういえば、この前王都に行った時に名物を食べましてね、ついでにレシピをもらってきましたよ。」
俺はカリーのレシピが載っているメモ紙をテーブルの上に差し出す。本当はハンバーガーのレシピを貰いたかったのだがタイミングをすっかり逃してしまった。ペッツさんの腕なら俺が口頭で伝えるだけでも作れそうだが……。
「これは南方にある国の料理ですかね?その国特産の香辛料が使われている……」
「詳しいことはわかりませんよ。材料とかは多分用意してくれると思いますので作ったりできませんかね?」
ダメもとで訊いてみる。あんな美味しい物をわざわざ王都まで行かなくとも食べれたら大満足だ。
「やってみます!」
そう言うと直ぐに厨房の方へ彼は去っていく。料理熱心な方だと思いながらパクパクとサンドイッチを頬張っていく。…そういえば今日はフィリナがいないな。疲れちゃったのかな。
そして俺は庭に出向く。噴水の側にフレッドが立っている。
「おはよう。」
「おはようございます、ルキ様。」
軽い挨拶をした後にトレーニングに取りかかり、ほどなくして魔法を使った訓練に移行する。今日は白魔法の日だ。訓練すると言っても白魔法は浮遊魔法しか使えないけど。
「そういえばルキ様は『ブースト』を先日使っておられましたがその訓練はしなくて良いのですか?」
『ブースト』?フレッドはあの身体能力を上げる上級魔法のことを言っているのか?今の俺ではおそらく無理だろう。確かに先日、それっぽいのを使ったが俺はそのとき無意識に魔法を使っていたから良くわかっていない。
「使えたらもう使ってるよ。あのときはなぜか使えてしまったんだ。」
空中をそこそこの速さで飛びながらフレッドの質問に答える。
「…ルキ様はあのときたまたま使えたと?世の中不思議なこともありますな。」
皮肉のように聞こえるがフレッドは自分の率直の思いを呟いている…はずだ。ある程度飛び回ったあと俺は地面に着地する。
「さて、剣術ですね。」
木刀を渡される。今日こそはフレッドに一撃入れてやる。いつも叩かれてばかりじゃムカムカするからな。それに俺は……。
「今日はいつも以上にやる気があるように見えます。」
フレッドは俺が木刀を渡されて直ぐに構えたのを見て微笑む。
「少しばかり作戦を考えたからね。今日こそは一撃与えてやる!」
俺はフレッドに飛びかかった。
数分後、俺は地面に叩き倒される。受け流しとフェイントを繋げてみたのにどうしてフレッドはあんなに速く動けるんだ……?
「少し本気を出してしまいました。お怪我はありませんか?」
「ああ、ていうかやっと本気だしてくれたのか?」
「はい、少し。」
フレッドもプライドが高いやつだ少しを強調してくる。しかし、あのフレッドに少しでも本気を出させた…のか?
「本当に飲み込みが早いですな。まさか何十歳と離れているルキ様に危うく一本とられそうになるとは。はっはっは!」
「まぁ、ぼちぼち頑張るとするよ。ねぇフレッド、この領内って魔物がいるから冒険者が大勢いるんでしょ?どこら辺に生息してる?」
魔法は実際に人や魔物に使ったことがない。そろそろ実践してみたい頃合いだ。初戦が対人戦は厳しいと思うので何か手軽に狩れる魔物について訊く。一応賊との接触で『ブースト』を使ったがあれは忘れておこう。
「森の奥地に生息しておりますがどうしましたか?」
「ちょっと自分の力で狩ってみたいんだけどいいかな?」
「危険です。それにそれは私が決められることではありません。グラン様に訊いてみてください。」
フレッドは急に真剣な表情になり。魔物を狩りに行くのは危険だと言った。まだ俺の力では魔物も倒せないのか?
「しかし、どうして急に…?」
「俺はフレッドやお父様、エルマン様のように強くなりたいんだ。…フィリナを危険な目に遭わせないためにも獣人の差別をなくすためにも強さは必要なんだ!」
差別について考えてわかった。この領地は実に治安が良くて獣人の差別も他のところと比べるとかなり少ない。しかし治安が良くともフィリナのような件は少数起きてしまっている。じゃあ治安が悪い領地、または国はどうだろうか?おそらく相当の獣人が被害に遭っている。解決策はお父様のように善政をすることだがそれではこの領地だけだ。もっと力をつけなきゃいけない。
「なるほど、わかりました。何か強い想いがあるのが感じられました。」
はっと我に帰ると俺はフレッドを睨みつけてしまっていた。しかし強くなりたい理由は伝えられたみたいだ。
「今日の鍛練は終わりにしましょう。昼食の時間にグラン様にその強い想いを伝えてみてはいかがですか?」
「…そうするよ。何か…色々といつもありがとう。」
「はい。」
フレッドの笑顔を見ると安心する。さて、お父様方に相談しに行きますか。
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