幼年期 二十六話 『エルマンVsグラン』
~三人称視点~
コロッセウムの勝ち残り戦もあと数回の試合になったとき遂にエルマンとグランが闘おうとしていた。会場に二人の姿が現れると観客は今日最大に沸いて見せた。無論ルキ、フィリナそしてフレッドの3人もだ。
「…エルマン卿とグラン様、どちらも強大。どちらが勝つか……」
「エルマン伯爵様もお強いけど絶対お父様が勝ちますよ!」
「どっちも苦戦するだろうね。作戦が行方を左右するんじゃないかな。」
フィリナはルーシーを応援し、ルキは目を輝かせる。フレッドはそんなまだ幼いルキを改めて感心しながらこれからの試合展開に集中する。
一方中央ではエルマンとグランが試合前の余談をしていた。
「なぁロビン、いつぶりだろうな?」
「さぁな…魔法士官学校以来じゃないか?」
「魔法士官学校か、懐かしいなぁ…。今ではお互い一丁前の伯爵様だ。」
試合開始の鐘が鳴る。
「そろそろ始めるか。ルーシー、前の俺とは違うぞ!」
エルマンは何処かに忍ばせておいた杖を取り出して戦闘に入る構えをする。
「こっちも同じセリフよ、ロビン!!」
グランも剣を取り出して構える。そしてしばらくお互いを睨み合う。
先に仕掛けたのはグランだった。得意の『ブースト』で一気にエルマンとの間合いを詰めにかかる。彼は予想していたの如く鋭い剣を杖で受け止める。杖は見た目とは裏腹に頑丈に出来ているのだ。直後エルマンは宙に浮かんだ。予想外の行動に会場もルキ、ルーシーも驚く。
「ロビン…浮遊魔法を習得していたのか。」
「エルマン伯爵様も浮遊魔法が使えたんだ!」
「今度はこちらから行く。『グラビティ』オン!」
浮いた状態で今度はエルマンの方から攻撃をした。杖は魔力を集中しやすくするもので先程の試合で使った魔法とは段違いに強かった。
「ぐっ…」
グランは身体能力を極限に上げているのでなんとかとてつもない重りには耐えているものの、それを支える地面の方は耐えれられずヒビが入り、砕ける。
「お父様…大丈夫かな?」
それを見ていたフィリナは不安の声を漏らす。ルキは相変わらず表情を変えないが、フレッドの顔は険しい。
「このまま行くと魔力の根比べになってしまいますね……。魔力は魔法を使うのに必須で個人差はあるものの限りがあるものですから。グラン様は身動きがとれないので遠距離で攻撃して切り抜けないといけません。」
グランは重さに耐えきれなくなったのかようやく矛先をエルマンに向け魔法を繰り出そうとする。
「切り札にしたかったが…お見舞してやる!『雷鳴』!!」
「ッッ『グラビティ』オフ、『シールド』!」
唱えた瞬間にエルマンに向けて雷撃が走った。しかし、彼は極魔法を食らった割には傷は浅かった。
「お前、遂に極魔法を完成させたな?あのまま『シールド』を使用しないで『グラビティ』を使ってたら危なかった。」
「ふん、お前だってその極魔法を使っていたじゃないか。まぁ、おかげであの鬱陶しい重さは消えたがな!」
グランは飛躍し再び間合いを詰めようとする。同じく、エルマンも『グラビティ』を使おうとするがグランは素早く、不規則な動きをしながら詰めてくる。二度、失敗は食らわないためだ。するとエルマンは跳んでも届かない距離にまで浮遊魔法の高度を上げた。
「あれじゃあお父様の攻撃が当たらないよ!」
「グラン様の攻撃を当てるのは難しいでしょう…。」
「さっきみたいに極魔法を使う手はダメなのか?」
「おそらくあの極魔法は相当な魔力を消費しますので乱発はできないかと。」
グランの方もあらゆる作戦を練っていた。自分の攻撃は近距離がメイン、ならばこそ間合いを詰めなければと。だがエルマンはそんなに猶予を与えてはくれなかった。
「青、闇混合魔法『ダーク・オブ・レイン』!」
中央の真上に黒い雲が出来て雨が降り始める。しかし、グランに変わった様子はない。
「これは…?」
「ふふふ、ルーシーよ。これは実践で使うために公にはしてこなかったが私の奥の手だ。この雨粒を受けるとしばらく魔法が使えなくなる。地味だが確実に敵を倒せる最高傑作な魔法だ!」
エルマンは勝ちを確信した様子で笑う。下品な笑いとまではいかないが大きな声で笑う。愉快な様子で笑う。しかし、グランも笑う。それに気づいたエルマンは困惑の表情を見せて魔法を止める。
「…なぜ笑う?いくらお前とはいえ、魔法が使える私とではもう勝負は決しているはずだが?」
「ははっ!全くその通りだ。俺はしばらく魔法が使えないみたいだな。たが、俺の剣もお前の杖と同じく特殊な武器なのを知っているか?」
グランは剣をエルマンに向けて放つ。
「どうやら奥の手はお前が先に使ったようだな。『チャージ・ショット』!」
剣は電気を帯びて高速でエルマンへと向かっていく。間一髪でエルマンは『シールド』を使って凌ぐものの、浮遊魔法は解ける。落下していくエルマンをグランは逃す訳もなく拳で止めをさす。
「ぐっ…!」
「おいおい!今ので気絶してくれなきゃ困るぜ!?」
「…降参だ。さっきの『シールド』で魔力を出しきってしまった……。生身でお前とは太刀打ちできんよ。」
エルマンが降参用の白旗を上げると今まで全くついていけなかった観客は大歓声を上げて口々に
「次元が違う!」
「素晴らしい戦いだった!」
等とあちらこちらからエルマン、グランを称賛した。
ルキたちも同じようで3人とも興奮していてそれぞれ思い思いの感想を述べる。
「お父様やっぱりすごーーい!!」
「あれが極魔法同士の闘い…この世にはもっと強い人たちがいるのかな!?」
「いやはや、この後の選手たちが可哀想だ。はっはっは!」
フレッドの言う通りにこれを越える試合はなく、かくしてメインイベントのコロッセウムは終わりを告げた。
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