幼年期 二十三話 『一悶着』
異世界ものって登場キャラ多いですよね。
「おぉ、来たか!」
俺らは突然宮殿に呼び出された。宮殿のロビーはグラン邸のそれとは比べ物にならないくらい大きく豪華な物だった。お父様はそのロビーで待っていた。
「急に呼び出したりしてどうしたんですか?」
「どうってそりゃあ祭当日だからさ。」
「…まだこの祭がどういうものか知らされていないんですが?」
ちょっと尖った言い方になるのも当然、一週間前に祭があると知らされて何も知らされていない。
「あー、すまん。だが初めて見る方が感動するぞ?特にルキお前はな。」
俺が?一体何があると言うのだ。
「えっと、私もそろそろ具体的な内容が知りたいです!」
流石のフィリナも祭について問う。
「そうだな。まぁ、商店街から下は普通の祭だ。この間のルキの誕生日パーティーみたいに皆ワイワイ楽しむ。屋台も多く出るから後で行ってみるといい。」
ふむ、祭は初めてだがなんとなくその風景が分かってきた。パーティーみたいか…お父様が薦めた通り後で行ってみるか。
「商店街から下は?貴族街とかここは何かあるんですか?私、祭って初めてで何も知りません…。」
「貴族街は何もない。宮殿は大広間や食堂でアミノマ王国の至るところから集まった貴族たちと朝から夜までパーティーだな。まぁこれはおまけだ。」
貴族たちとのお食事会?俺たちの歳ではないと思うがきっと自分達の子を連れてきてお見合いチックなことでもするのだろう。つくづく面倒くさそうだ。これがおまけで安心した。
「じゃあメインイベントは何をするんですか?」
「ふっ…それは今日の午後から宮殿の裏手で行われる平民も参加可能な祭だ。」
「…今日の午後まで待てと言うのですね。分かります。適当に時間を潰して起きますね。」
またもったいぶりか…こんなに溜めておいてつまらない物だったらどうしてやろうか。いくら強いお父様とて後ろからいきなり魔法でど突かれたらひとたまりもないだろう。やばい、むしろそっちの方が楽しみになってきた。
「安心しろ、絶対に楽しめる!」
その後、お父様は知り合いに会いに行くといって宮殿の奥へと入って行った。時計をみるともう七時。そろそろお腹が鳴る頃だ。
「フィリナ、お腹減ってない?せっかくだからそのパーティーとやらで朝御飯を食べに行こうよ。」
「うん!」
「フレッド、案内よろしく。」
「かしこまりました。」
フレッドはずっと後ろで大人しく待機していた。護衛は彼一人だけだ、他の人は祭を楽しんでもらっている。俺達は彼の背中を追う。
食堂には多くの貴族らが集まっていて大きなテーブルが何ヵ所かあり、その上に料理が乗っている。まだこんな時間なので空いていると思ったがそうでもないらしい。
「うわぁ…沢山いるね。私、あまり人には馴れていないよ……。」
商店街と違った雰囲気が彼女を不安にさせているのかもしれない。俺は…別にどうということもない。
「でもフィリナももう貴族様だ。こういう場面も度々あると思うよ?少しずつでいいから馴れていかないと。」
「う、うん……。」
「さっ朝食だ!」
ペッツさんやビリーさんの料理も美味しい。だがここは何て言ったって王様が住む屋敷。彼らが作る料理と同じくらい、またはそれ以上のものが食べられるかもしれない。さっき面倒くさいと思ったが会場の雰囲気も明るく、案外楽しめるかも。勢い良く料理が並んでいるテーブルに向かおうとしたら服の裾をフィリナが掴む。
「どうしたの?」
「その…やっぱり……こんなに広いとはぐれるかもしれないから手、繋いでもいい…かな?」
赤面になりながら彼女はそう言う。…おいおい、まさかフィリナ俺のことが…?馬鹿か、俺は!!男はちょっとした女性の行動で自分に気があると感じるそうだがまさに今がそれだった。フィリナは思ったことを正直に失礼にならない程度に言える子だと思うから想いはすぐに伝えれるはずだ。
「ダメ…かな……」
俺が余計な思考を繰り広げているとフィリナが悲しそうな顔をしてしまう。くっ…なんか自分が恥ずかしい!
「そ、そんなことないよ!ほらっ!」
手を繋ぐ。くそう…体が熱い。馬鹿!早く治まれ!!チラリと後ろを見るとフレッドは微笑んでいた。
俺の変な発想も治まり、二人で楽しく食事をしていると後ろから声がかかった。振り向くとまだ二桁はいっていないくらいの太った子がいた。
「お前じゃない、そこの美しい女性だ。」
「え?私??」
フィリナは気づいていなかったらしく、今振り返った。
「そんなチンケでチビな男じゃなくて俺と一緒に食事しましょうよ。」
フィリナは将来絶対美女になる。だから声をかけられるのは当たり前だ。だがいきなり現れておいて俺のことをチンケだと?少なくともお前よりは強いし、冷静だぞ。多分…。
「えっと、ごめんなさい!私、今ルキとご飯食べてて…。」
「…つまり、子爵の子のパベル様の誘いを断るか!ようし…わかったそのルキとかいう男がいなければ良かったのだな。」
はぁ…。なんだ、せっかく純粋に食事を楽しんでいたのに。面倒くさそうだという俺の予想は合っていたのかよ。
「えっと…。」
慌てているフィリナの前に俺は出る。
「子爵様の子だけでまだ君は子爵じゃない。それと、俺は伯爵の息子だ。」
パベルとかいう奴は驚いて目を見開く。
「…そんなはずはない!お前のような奴が伯爵の子だと!」
…回りの貴族たちもこんな騒動のせいでこっちを見ているじゃないか。こいつに構っている俺が恥ずかしい。
「とにかく…フィリナは誘いを断ったんだから……」
「おのれ!」
「危ない!ルキ!!」
俺の話を聞くまでもなく殴りかかってくる。こいつ…まじかよ。こんなところでおっぱじめやがった。まぁ、日頃の訓練のせいでお前の殴りなんて目で簡単に捉えられるけどね。俺はたて続けに殴ってくる拳を避ける。
「おらぁ!!」
ん!危ない危ない。こいつこんな体型してるのに蹴りをしてきた。もう一回蹴りが来るので俺はそれを掴む。
「うわぁ!離せ!!」
ふらふらしながら俺に言ってくる。いいよ、離して上げる。
「よっ!」
相手も腐っても貴族。ケガをさせたら後々もっと面倒くさくなるので軽く足を離してやる。するとパベルは重い体をどさりと床に落とす。
「いってぇぇぇ!」
こいつ重いから痛みが倍になってるのか?そんなに大声だしたら…ほらおいでなさった。
「ど、どうしたんだパベル!」
親と子は良く似る。親の方もしっかりと贅肉を蓄えていた。
「パパ!こいつがね…俺を痛い目に遭わせたんだ……。」
「何ぃ!?」
馬鹿馬鹿しくて思わず嗤いそうになる。こんなに野次馬がいたら嫌でも俺が正当防衛をしたと彼らが証人してくれるぞ。
「こいつっ…誰の子だ!誰かすぐに呼び出して……」
「見苦しいぞポッツ卿、一部始終見させてもらったが今回の騒動はパベル君が先に始めたのだぞ。」
もう一回騒ぎが起ころうとした時に間に出た貴族が止めに入ってくれた。
「エ、エルマン伯爵様!ですがっ!!」
「…回りを見たまえ。」
他の貴族も軽蔑するようにポッツ子爵のことを見ている。
「くっ行くぞパベル!」
「まっ待ってよ!」
ようやく自分達に非があることを悟って食堂から出ていく。
「ルキ…すごいね…。」
これまでの光景を見ていたフィリナは俺を誉めてくれる。フィリナを前にちょっと格好いいことをできたのは良かったかな。
「いや…彼の仲介がなかったらどうなっていたかわからないよ。」
その仲介をしてくれた貴族に俺は挨拶をする。
「助かりました。えっと…エルマン伯爵様?」
「礼には及ばない。私の名はロビン・エルマン。宜しくなルキ・グラン君?」
え?名前教えてたっけ??後ろに笑顔で手を振っているお父様とお母様が見える。あぁ、納得した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
今月総pv5000目指します!!明日…明日投稿します!!(9/24)