幼年期 十四話 『一歩一歩強くなる』
今回の回でルキの一人称が突如「俺」になってしまいます。理由は後々ルキに明かされるでしょう!
フィリナが家族になっても俺の生活リズムに特別変わりはない。朝起きて、トレーニングをし、ひたすら剣術等を教えてもらった後に書物を熟読する。気がつけば陽もくれている毎日。しかし、多少の変化は勿論ある。フィリナもなぜか俺と一緒に魔法の鍛練をしに来ているところだ。鍛練の後はいつもアゲダさんやマーゴットさんの所へ行っているらしい。そんな彼女が今日もまた、やって来た。
「フィリナ、無理しなくていいんだよ?女の子が筋肉やスタミナなんてつけなくていいんだから。」
今、俺らはランニング中。彼女はともかく俺はランニングには慣れてきているのだろう、体自体に変化はなくとも庭を10周するのはある程度楽になってきた。といってもキツいのに変わりはないが。
「いいの、私は路地裏の連中に見返してやるために力を付け…なきゃ。」
「ほら、ちょっと休みなよ、女の子でよく5周もできたね。」
「悪魔の囁きね…。」
そう言った後に彼女はすぐにストンと地面に座り込んだ。さて、6周目。俺も疲れてくる頃合いでおちおちしてられないぞ。
「お疲れ様です。ルキ様、フィリナ様。」
休憩のため噴水の側にいるときにフレッドが水筒を持ってきてくれた。
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
ぐびぐひと水を飲みながら横目に少し驚いているフレッドさ…フレッドを見つめる。
「ようやく、敬語を遣わないでくれるのですね。」
「ああ、俺まだ慣れないけどね。」
「なんで今頃になって?前まで敬語だったんでしょ?」
飲み終えたフィリナが訊いてくる。…なぜ心の中では「俺」だったのに会話では「僕」が一人称だったのか気づいたら会話でも一人称が「俺」なっていた。まさか、自分を作っていたのか?なんか嫌だな。ふと、そんなことを思う。
「ルキ?」
「ん、ああ。さぁね、最近フレッドがやめろやめろってしきりに言ってくるんだよ。なぁ、フレッドどういうこと?」
「王都で行われる来週末のアミノマ王国誕生祭で貴族が従者に敬語を遣ってると不自然なのですよ。だから…」
「ちょ、フレッド?どういうこと??」
一週間後に行われる王国誕生祭?聞いていないぞそんなことは。こんなところから王都に行くのだから明日か明後日には出発しなければ間に合わないではないか!
「グラン様から聞いていないのですか?」
「…聞いていない。」
「私も。」
フィリナな件といい、今回の件といいお父様は言うべきことを全然言ってれくれないな。
「…とりあえず日課である魔法の鍛練をするよ。」
俺は指先から『ファイヤー』を発動し瞬時に『ファイヤーボール』に変化させる。その球を放ち向かわせたい方向に手を向け、次々と方向転換させる。 よし、成功だ!空中で縦横無尽に飛び回る炎の球を初めて見るフィリナは驚いた様子だった。
「今まで白、黄魔法もすごかったけど赤魔法もあんなに使えるんだ…。すごいとしか言えないなー。」
「ありがとう。」
フィリナはあの魔法に感嘆していて俺は自分の考えた魔法が他人に誉められることを素直に喜んだ。
「よし、こんだけできれば今日のノルマは達成かな。」
「さて、剣術ですね。」
最近、フレッドは俺に教え込むのが楽しくなってきたのか気合いが入ってる。気合いが入るのはいいことだが少し手荒になるんだよな。もっと力を付けなければならない。筋肉トレーニングも朝に付け加えておくか…。一通りの基礎訓練を終えた最後にフレッドとの模擬戦をする。模擬戦といってもかわいいものだが。
「では、始め!」
フィリナの合図と共に俺は防御の構えをとった。まともに挑みに行っても力の差で返されてしまう。かといって防御していても今の俺ではフレッドが軽く腕を振るだけでぶっ飛んでしまうから工夫が必要だ。今日はその工夫をしてみるか。
「今日は攻めに来ないのですね。では、私から…」
来た!先ずは彼の木刀にしっかりと自分の木刀を合わせてそこから力を流すようにして…。相手の懐に入り切る!
「なるほど。私の攻撃をまともに受けずに受け流すとは。しかし…」
上手いこと懐に入り込みやっとフレッドに一撃加えられると思ったのに素早い身のこなしで回避され、俺が木刀を振り下ろす隙をしっかりと突いてきた。
「ぐっ」
俺は地面に倒れる。強い、あの速さは初めて見た。やはり俺では彼の準備運動にもならないということか…。
「今日はここまで、ルキ様は本当に飲み込みが早いですね。」
「…まだまだ力も技術もないよ。じゃあ今日もありがとね。」
「はい、では私はこれで失礼します。」
フレッドが屋敷の方へと歩いていく。お腹が減った…。今日の昼食はなんだろうな。
「俺らも昼食を食いにいくか。」
「あ、あの…ちょっと話せるかな。」
俺も屋敷に向かおうとしたときにフィリナに呼び止められた。
「私ね、魔法を覚えたの。だからどのくらいの効果があるか確かめて見たいの。」
驚いた。まさかフィリナも魔法を使えるようになっていたとは。俺が知らない間に彼女は彼女なりに頑張っていたということか。
「うん、いいよ、見せて?」
フィリナが覚えた魔法は何だろうか。青、緑?はたまた闇?他人の魔法なんて見たことがないからすごく興味がある。
「ちょっと腕見せて?」
腕?魔法を見てほしいんじゃなかったのか?そういいながらも腕を上げた。それで、気づかされた。さっき地面に倒れたときに傷ができたのか小さい切り傷が腕に見えた。フィリナはそこに手のひらを向けた。すると、明るい光が傷口を包みみるみるうちに傷が治っていくのがわかった。
「どう…かな?」
「これは、光魔法だね。多分さっきのは『ヒール』傷を治す魔法さ。一体いつ覚えたの?魔法を覚えて実際に使ってみるのは難しくて基本は10代から練習して…」
「もう!それは嫌味?ルキはあんなにすごい魔法を使ってるのに。」
確かにさっきのいいようは嫌味になってしまうな。
「いつも、汚れながらも連中しているしょ?たまに傷が見えるの。だから私がルキを…その、少しでも治してあげたいって思ってたら使えるようになってたの。」
恥ずかしそうに下に俯く、フィリナは恥ずかしくなったり緊張したりすると下を向く癖があるのかな?
「それにしても良く気づいたね、俺が気づかないのにフィリナは気づいてくれたんだ。」
「いつも…みてるから……。」
「うん?」
俯いていて何を言っているのか分からなかった。
「あ、『ヒール』で治してくれてありがとう。そろそろ昼食だよ?お腹減ったよ。」
「う、うん!」
さて、今日もお父様は家にいるな。昼食の際にしっかりと王国誕生祭について説明してもらうか。俺らは食堂へと足を運んだ。
ここまで読んでくれありがとうございます。