幼年期 十三話 『養子となるフィリナ?』
安定の失踪率よ、気づいたらワールドカップも終わってるしね。どうにかならんかねぇ…。
フィリナとの出会いから数日がたったある昼の頃、丁度家族で食事を終えて団欒している時に玄関の方から扉を叩く音がした。お父様が
「おっ早いな。」
と呟く。俺には何が何だがわからないが忙しいお父様のことだ、きっと仕事のことだろう。
「マーゴット、彼女達を客室に招き入れてお茶でも用意してあげなさい。」
「はい、奥様。」
ん?お母様もマーゴットさんもそんなことを言っているということは事前に知っていることだったのか?グラン家に関わる重大なことかも知れない。
「お父様?」
「ん?ああ、そういえば一番伝えないといけないルキに伝え忘れていたな。とりあえず、お前も一緒に客室に来なさい。」
「は、はい。」
部屋で待っていたのは優しそうな教会の者らしき中年の女性と先日出会ったフィリナだった。
「早速本題に、手紙の内容を読んでから数日考えさせてもらった結果、グラン家はフィリナを養子に迎えることを決定しました。」
女性は緊張した顔から一気に安堵した顔に変化して、フィリナは恥ずかしそうに俯いてる。
「え?お父様??状況がよく分からないのですが…」
「すまんな、ルキ。伝えるの忘れてたよ、ハハハ…えっとなフィリナは亜人なのはもう知っているだろう?この領内で亜人の迫害は禁止しているはずなのにそれが起こってしまった。これは衛兵、そして俺の責任なんだよ。今まではそんなことは無かったんだがな…それで我が家の養子として迎えるわけだ。」
「え…」
正直そこまでしなくていいんじゃないかと思う。領主があの事件だけで簡単に養子を迎い入れてしまうなんてことあっていいのだろうか。
「フィリナは…フィリナはそれでいいの?お父様の責任といっても無理やり迎えるのは俺が了承できない。」
「うん、グラン家の養子としてやっていけるなんてすごいことだよ!断る理由がないね!!」
さっきまで俯いていたのになんだ、元気じゃん。強制されて落ち込んでるのかと思ったよ。
「こら、フィリナ、ルキ様には敬語って言ったでしょ?誠に申し訳ございませんルキ様。」
「え、でも…」
チラリと俺の方に目線を送られる。
「ああ、いいんですよ。僕から敬語遣わなくていいよっていったんですから。」
「本当にグラン様は寛大な方で…」
女性が長々と喋りそうなのを感じ取ったのかお父様が
「では、決まりですね。フィリナ、君は今日からフィリナ・グランだ。よろしくな。」
と言ってくれた。
「はい!お、お父様!」
「うん、まさかは俺に娘が出来てしまうなんてなぁ…これも何かの運命なのか?ハハハハ…」
流れに身を任せてしまっていたが急展開なのに違いはない。全くお父様ときたら行動力がありすぎるのでは?ほら、教会の人も呆然と…してなかった。微笑みながら泣いていた。
「まさか、まさか本当に引き取ってくれるなんて…本当にグラン様らお優しい方です…。」
そうか…今まできっと親代わりにフィリナを育ててきて今、やっとフィリナに両親が出来たんだ。嬉しいと悲しいが混ざった複雑な感情になっているんだな。
「リンネさん!今まで有難うございます。お別れじゃないんだから、また会おうと思えばすぐ会えるよ。」
どうやら教会の女性の名はリンネというらしい。
「そうね…フィリナ、いい子にするのよ。では、私はこれで。」
幾分か悲しい感情はなくなったのか涙は止まり、そそくさと出ていこうとする。
「ああ、屋敷の外まで送りますよ!行こうフィリナ?」
「え?あ、うん!」
「どうやら、俺はお邪魔のようかな?」
と部屋を出る際にお父様の声が聞こえた。
屋敷の門のすぐ外で最後の別れを済ました後、フィリナは見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
「バイバーーーイ!また会おうね、絶対!成長してみせるんだから!」
リンネさんは 一回だけ後ろを振り返り微笑みながら軽く手を振りまた、歩き始めた。彼女が遠くなるほど、さっきまでリンネさんを元気付けていたフィリナの方が悲しそうな顔になっていく。見えなくなる頃には涙を流していた。
「フィリナ、また一緒に会いにいこうな?」
「う、うん…。」
幸せな状況下で育ってきた俺にはそんな言葉でしかフィリナを慰めてやれなかった。
ここまで読んでくれありがとうございます。