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幼年期 十一話 『獣人のフィリナ』

ああああ、結構休んでしまったぁぁぁ。すいません。



目蓋を開けてぼんやりしている意識を覚醒させる。陽の傾き具合からして3時間ほど昼寝をしたのだろう。


「う~ん」


軽く体を伸ばしながらそんな声をあげる。今朝の訓練のせいで体が既に筋肉痛だ。俺はベッドに座り、窓の外の景色をぼーっと眺める。


そういえば、寝る前に神様が商店街に行けと言っていた気がする。別にいつものように本を読んでもいいのだが街にでるいい機会だ。武器屋に行って剣でも見てこよう。


早速お父様にお金を貰いに行こう。たしかお父様は今日、家にいるしな。


無事に俺はお父様から大銀貨はを得た。銅貨、銀貨、銀貨、大銀貨、大金貨とあるうちの上から二番目なのだから相当な価値だろう。さすがは伯爵のお父様だ。


さて、案内役も兼ねてフレッドさんを呼ぼう。


「フレッドさん!出ますよ!!」


「はい。」


彼は駆け足で玄関まで駆けつけた。


「これから商店街に行きます。護衛と案内をお願いします。」


「かしこまりました。」


彼は実に誠実でもう護衛なんかじゃなくて執事となってほしいくらいだ。


「フレッドさん、良かったら僕の執事となってくれませんか?」


「…私がですか?ルキ様にはすでに良いメイドがいるではないですか。」


彼は微笑みながら正論を言ってくる。確かにそうだ、アゲダさんという良いメイドがいるのにフレッドさんもとなると少々欲張りすぎかもしれない。


「私は護衛担当です。ですが、執事のように遣ってくれて構わないですよ。」


「ありがとうございます。これから毎日貴方を先生として遣っちゃいますね。」


そんなこんなを話している間に屋敷の裏にある馬小屋へと着いた。


「さぁ、どうぞルキ様。」


フレッドさんが馬車のドアを開けてくれる。


「ありがとう、フレッドさん。」


「商店街のどこに行きますか?」


「武器屋までお願いします。」


「分かりました。はぁっ!」


馬はおもいきり地面を蹴った。


出発して数分間、初めての新鮮な景色を眺めてると。フレッドさんが口を開いた。


「…ルキ様は私やメイドたちに自らの気品のためだけに敬語を遣うのですか?今朝、訪ねましたが気になってしまって。」


今朝そういえばそんなこと話したっけな。確かに、親しい人にいつまでも敬語を使っていてはかえって距離を生むかな?


「…さぁ、自分でも分かりません。でも、悪いことではないですよね。それに、もっと沢山過ごしてきたらアゲダさんたちやフレッドさんにもタメ口を遣い始めるかもしれないですよ。敬語とはそんなもんだと勝手に思ってます。」


「はっはっは、本当にルキ様は哲学的で知性がおありです。」


急にフレッドさんが大声で笑ったので驚いてしまった。フレッドさんはダリエル団長みたいな人じゃなくて常に冷静な人だと思っていたのだ。


「あ、ありがとうございます。」


「その様子だと私がいきなり笑ったので驚いてしまいましたか?私だって大声で笑いますよ?はっはっは、かつては淡々としている男だと思っていたんですがね。ダリエルと過ごしすぎてこうなってしまいました。さて、もうそろそろ着きますよ。」


フレッドさんの意外な一面を見た後、俺は武器屋で一通り剣を見たあと、フレッドさんに品定めしてもらってから良い剣を買おうとした。けれどまだ小さい体の俺では剣を持つことさえできなかったので結局、剣は買えなかった。


その代わりに俺でも十分に振るえる短剣を買った。短剣というよりはナイフに近いものだ。購入するさいにルキ様かと訪ねられたのでそうと答えると安く売ろうとしてくれた。そんなことはしなくていい、安く売る、しなくていい、安く売ります!、しなくて良い!!の繰り返しで時間がかかってしまったが……。


短剣を購入している最中にどうやらフレッドさんは剣に夢中のようだった。購入したのでもう帰ろうと、言おうとしても少年のような顔で品を見つめている彼を見たらなんだか悪いような気がした。


暇で仕方がないので俺は武器屋を後にした。


武器屋をでて、人通りが多い市場辺りを見に行くと、そこは活気に溢れていた。通る人、通る人に我が物を売ろうとしている商人にもう少し安くならないかと交渉している婦人、あっちどは割引でもしているのか行列が出来ている店もある。


自分の領地が活気に満ちていてお父様の政治を誇りに想いながら道を歩いていると、さすがに3歳児には応えたのか疲れてしまって路地裏に入った。


しばらく、そこで涼んでると路地の奥から複数の少年たちの声が聞こえた。ここからじゃ何を言っているのか聞き取れない。…友達いないからな…今のうちに作っておこう。


奥に進むと、少年たちの声の他に女の子のすすり泣き声も聞こえたのでまさかと思い、走る。


そこには3人の10歳くらいの少年たちと俺と同い年かそれよりちょっと上くらいの女の子がいた。その光景は酷いもので男3人が年下の女の子のを虐めてるものだった。


「汚らわしい、この亜人め!でてけ!!」


坊主頭の少年は蹴りを入れる。


「そうだ!早くでていって森にでも暮らすんだな!!」


一番体が細い少年はぼっこで叩く。


そして、もう一人はリーダーと思われる太った少年がニヤニヤと気味がが悪い顔で痛めつけられてる女の子を見ている。


冷静な判断なんてできっこなかった。きっと俺の前世でも経験したことのない怒気が込み上げたからだろう。


「お前ら!よってたかって何をしている!恥を知れ!!」


そう言うと同時に俺は一番近かった坊主頭の野郎に思い切り蹴りを入れる。


「がはっ」


不意を突かれてそいつは対応できなく、地面に倒れた。本で学んだ急所を思い切り蹴ったのだ、当然!


「っ!こいつ!!」


ひょろい野郎はぼっこで俺を叩こうとする。けれど、遅い!こんなのフレッドさんに比べればカタツムリの速さだ!


さっき買った短剣を取り出してぼっこを弾き返して、剣の柄頭で脇腹を叩く。


「ぐ!」


そいつも倒れる。残るはデブの奴だけだが、もう奇襲は終わった。さすがにこの体格じゃ勝てない。だから魔法を使う。


「『ショック』!」


「う!」


何が起こったかわからないデブはバタリと倒れる。すかさず、顔に蹴りを入れる。急所にも入れたかったが脂肪が邪魔してできなかった。


「さぁ、この街から出ていくのはお前らの方だ!このルキ・グランが言う!!」


「ル、ルキ…?ひぇ、お許しをぉぉ!」


『ショック』の効果が切れて立ち上がった主犯だと思われるデブが一目散に逃げたので二人もフラフラと立ち上がり


「待って、おいてかないでぇ!」


と情けない姿で逃げていった。


しばらく、奴等の背中を睨んだ後に女の子へと顔を向ける。


「君、大丈夫?ケガはあるよね…ちょっと見せてごらん。」


「え、あ、う…うん。」


女の子はフードを被っていて顔がよく見えない。顔にもケガがないか確かめるために俺はフードをめくる。


そこには将来美人になるであろう、整った顔があり、そして頭の上にはなんと耳がついていた!


人間ではない人種に初めて会って俺は少し動揺した。でもその動揺は消えた。ずぐ手当てに取りかからなければならない。俺は傷を診ながら彼女と話す。


「その…獣人?」


「う、うん、でも一応人間とのハーフ…でして純粋の獣人より耳がちょっと短い…です。」


「俺はルキ、一応ここの領主の息子さ。」


「うん、あ、はい、さっきあの人たちを倒したときに言ってた…です。」


「はは、無理に敬語遣わなくていいよ。なれていないんでしょ?」


「う、うん、そうなの。」


女の子はなかなか俺の顔を見てくれない。きっとなれていないんだ。


「私は、フィリナ。さっきはありがとう…。」


「いや、当然のことをやっただけだよ。」


「でも、年上の人に勝つことはすごいよ。」


段々とぎこちなさはなくなって会話が続くようになってきた。ようやく打ち解けてくれたのかもしれない。


「あ、ここ。血が出てるよ、止血しなきゃ。」


そういっても身近に布はないから自分の服を破って対応するしかない。


短剣で破こうとすると


「え?いいよ!そこまでしなくても、私のために高い服を…」


なんていってきて短剣を取り上げるので


「ダメじゃないか!これほどの傷でも化膿するとぐちゃぐちゃになるんだ!」


と反論してフィリナの腕を掴む。


「あ…」


フィリナちょっと顔が赤くなるのと同時に短剣を落とす。そこまで人と面識がないのだろうか?


止められないうちにさっさとやってしまおう。布代わりにしたものを彼女の膝の傷口に合わせて縛る。


「はい、終わり。屋敷にきて十分に手当てしてあげたいけどもう夕方だ。きっと家の人が心配しちゃうよね。家まで送るよ。」


「い、いいよ!ありがとう!またお礼しに行くね、ルキ!!」


彼女は走って行ってしまった。…かわいかったなあの子。友達になれるかな。


陽はもうだいぶ傾き、そろそろ武器屋の前に戻らなければフレッドさんが心配してしまう。俺は武器屋に駆け足で向かった。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

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