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「恋バナってテンション上がるよな?」

「さあ、お前の好きな人を教えろ!」


「なんだお前、急に凄くテンション高かくなったな」


 自分の急な変わりようを多賀は少し冷めた目で見ている。


 確かに自分でもこのテンションの変わり様はどうかと思う。

 でもこれは仕方ない事なのだ。

 全然知らない人が恋をしようがしまいがどうでもいいが、身内は違う。

 正直なところ自分は身内の恋愛話はかなりの大好物だ。

 上手く言葉には出来ないが、身内が青春しているのを見るのはなんかこう……独り立ちをしようとしている我が子を見守る親のような気持ちに近いものがあると思う!

 親になど勿論なったこともないし子どももいないからどんな気持ちかは分からないが多分同じものだ。うん。

 それに自分自身に恋愛話などの浮いた話が一切ないから、他の人の話を聞くだけで何か青春しているように感じるのもある。


「うん。自覚はあるからそこはさらっと流して続けてくれ。なんだか悲しくなってきたから」


「お、おう。なんで急にテンションが下がったのかは知らんが…………そうだな……俺の好きな人は……その……よく一緒にいる幼馴染…………」

 

 好きな人を教えるのが恥かしいのか、多賀は自分から目を逸らしながらぶつぶつと回りくどい言い方をした。

 もう一回聞いたら名前を出してくれるとは思うが、どうせ声が小さかったり途切れ途切れだったりで何回も聞き直す事になることは目に見えているため、とりあえず自分の記憶を辿る。

 

 多賀とよく一緒にいる女性か……確か多賀とよくいるのはE組の井川(いかわ) 真琴(まこと)だったはず。


「E組の井川さんか?」


「そ……そうだ」


 多賀はまだ恥かしいのか、自分から目を逸らしたまま答えた。


「ほぇー……井川さんか……」


 井川さんはバスケ部に入っていて、運動が出来て明るく、友だちからも慕われていて姉さん的なイメージがある……ん?

 

「ちょっと待て。お前よく井川さんに叩かれたり蹴られたりしてなかったっけ?」


 自分の記憶だと、小学生の時から高校生になった今でも多賀が結構叩かれたり蹴られたりしているのを多数目撃したことがある……。


「あ、あぁ。そうだけど」


「え? 何? お前Mなの?」


「違うわ!」


 こいつ、女性からいたぶられることが好きになのに、 それを井川さんが好きという思いと勘違いしているんじゃないだろうか?


「じゃあ、なんで好きになったんだよ」


「さっきも言ったけど真琴とは幼馴染で、家も近くて幼稚園の頃からよく遊んでてさ」


「ほうほう、幼稚園の頃から目覚めてたと……」


 無言で投げられた。


「続きをどうぞ……」


「幼稚園や小学生の頃、俺はどんくさかったから皆にからかわれてたんだけど、その度に真琴が助けてくれたんだ」


「ご褒美を邪魔されてるのに何幸せそうに語ってん嘘嘘嘘嘘嘘嘘! 嘘です! もうふざけません! 最後まで聞くから!」


 無言かつすっごい笑顔で襟を掴むの本当にやめて欲しい。怖い。本当に怖い。まぁ、ふざけている自分が悪いのだが。


「助けてくれてたのも一つの理由だが、俺みたいなどんくさいやつといつも一緒にいてくれるのが一番嬉しいんだ。確かに叩かれたり蹴られたりする事はあるけど、それはツッコミみたいなものだし、俺はそのやりとりが楽しいと思ってる」


 多賀は笑顔で楽しそうに話している。

 その表情からどれだけ大切な思い出なのかがひしひしと伝わってくる。


「俺は真琴に何かと恩を感じてる。中学生から高校生になるにつれてだんだん男女の体格差が出てきて……その……なんだ? 真琴の体がだんだん女性らしくなっているのが……うん、分かる。真琴に何かあったら次は俺が守ってやりたい。そして真琴のそばにずっとおりたいと思っとる自分に気付いたんだ」


 なるほどな……。

 途中気持ち悪いと思う部分もあったし、彼女と一緒にいたいとか彼女を守りたいとかっていうありきたりな理由だが……自分は嫌いではない。


 急に静かになったので多賀の方へと向くと、多賀は自分の顔を目を細めながら見ていた。


「……なんでニヤニヤしてんだよ」


「ん? 全然普段通りの顔だけど?」


「嘘つけ」


 実際自分はニヤニヤしてるのだろう。だが、多賀も笑っていた。

 こういう空気が好きだ。

 本当、身内の恋愛ほど面白いものはない。


「そういえば本題に戻るわけだが……具体的にどう協力したらいいんだ?」


 協力する方法によっては僕1人だけで何かをするのは難しい。


「俺は今まで何度か告白しようと思ったんだけど、呼び出そうとするたびにビビって違う話しにもっていってしまってさ。だから、真琴を体育館裏に呼んで欲しい」


「おいおい。呼び出しにもビビって行けないやつが告白できるのか?」


「できる。いや、絶対にやる。人の力まで借りてしまったらやらない訳にはいかないだろ?」


 多賀は今まで見たこともないくらい張り詰めた表情をしていた。


「それと、体育館裏に人がこんように見張っておいて欲しい。あと、これは勝手なんやけど、そのついでに俺の告白を見届けて欲しい」


「見届けるのは別に構わないが……見張りは……」


 見張りもしようと思えばできる。

 しかし体育館裏を回る道は2カ所あり、自分一人だけではどうしようも……。


 その時ドアが勢いよく開いた。


「話しは聞かせてもらったぁ!!」


 自分と多賀は同時にその声の主の元へと向く。

 大声で入ってきた人物。それは……アキだった。


「げっ⁈ 明広⁈」


 多賀はあからさまに嫌なリアクションをとる。


「はぁ……。アキよ、いつから聞いてたんだ?」


「相談したいことどうのこうのあたり。つまり最初からだ! あと、げってなんだ! げって!」


 こいつもテンションが高いなー、と自分と多賀はアキを見る。

 いや、アキは常時このテンションか。

 ていうかこいつ、自分達が教室を出たあとずっと付いてきてたんだな……。


「どうするシラガミ。あいつにバレてしまったけど大丈夫か?」


 多賀はアッキーには聞こえないように僕の耳もとで話す。

 そりゃあそうだよな。

 普段のデリカシーのないあいつを見ていれば、そりゃあ不安にもなるだろう。


「アキは大丈夫。友達が秘密にしてくれと言ったことは絶対に言わない」


 西や多賀とは10年以上の関係でアキとはたった4年の関係だが、僕は1番の親友ニシと同じくらいアキを信頼している。

 アキはこういった風に誰にも相談されてないのに(迷惑な話だが)自分から行動し色々な人の情報を持っている。

 自分が聞いても全然教えてくれず、人の秘密は必ず言わない事は分かってる。

 え?なんで色々な人の情報を持っていることを自分が知っているかって?

 アキの口が滑りやすいからだ。

 口が軽い訳ではない。

 口が滑りやすい。

 でも大丈夫なはず。

 多分大丈夫なはず…………。


「おい、シラガミ? だんだんおかしな表情になってきてるぞ!」


「いやいや! 絶対に大丈夫!」


「俺は誰にも言わねーよ」


 アキがこちらの会話を察して言ってくる。


「見張りの話なんだが幸作が西側を見張って、俺が南側を見張る。体育館裏から西側の方がちかいし、それなら告白しているのを見ることだってできるだろ?」


「なっ……⁈ デリカシーのデの字もないような人間が……」


「こいつは時々驚くほどまともなことを言うんだよ」


「いきなり頭上にでも台風が発生するんじゃないか?」


 多賀と2人で顔を上げてみる。

 屋内なので勿論天井しか見えないけど。


「お前らほんと失礼なやつらだな……」


 アキはムッと頰を膨らましている。男がそんな顔してもキモいだけだ。


「まぁ、冗談はほどほどにして。アキの案で自分はいいと思う。あとは、いつ告白するかだな」


 自分とアキは多賀をみる。


「今週の金曜日の放課後にしようと思ってる」


「あと2日後か。分かった。じゃあ、それまでに金曜日の放課後に井川さんに体育館裏に来るように伝えたらいいんだな?」


 多賀は無言で頷く。


「よし、決まりだな。じゃあ、やることも終わったしそろそろ帰るか」


「そうだな……あー、お前らありがとうな」


 多賀は自分らに頭を下げる。


「友達の頼みは喜んで聞くぜ。なぁ?」


「そうそう。あと、俺こういうの好きだし」


 突然お礼を言われて自分達は少し照れくさくなった。


「お前ら……本当にありがとうな……」


 多賀はもう一度礼を言ったあと、笑った。

 自分とアキもそれにつられて笑った。









 学校を出て多賀と別れた後、自分はアキと一緒に下校していた。


「アキは人の恋愛なんか応援しないと思ってたんだけどな」


 今日の昼休みの会話を思い出しながら言う。


「俺は友達の恋は応援するよ。それに、一生懸命何かにぶつかっているやつの邪魔をしたくはない」


 アキは何事にも一生懸命頑張るやつだ。

 だから一生懸命にぶつかってるやつの気持ちがわかるのかもしれない。

 アキらしい言葉と言えば、らしいのかもしれない。


「どうした? 急に黙って」


「いや、別に。あ……そういえば井川さんを呼び出すのはアキがしてくれないか?」


「これまた急な話だな……。俺、全然井川さんと話したことないし幸作がやればいいんじゃねぇか?」


 自分はそんな返答をするアキの前に立ち、手を合わせながら必死に頭を下げる。


「ごめん。ちょっと色々あって。頼む」


「まぁ、そこまで言うならやるけどさ。どうなっても知らないからな」


「何をするつもりだよ」


「故意に何かをするって訳じゃなくってさ……まぁ、とりあえずやってみるか」


 アキは立ち止まり、じゃあこれで、と言いながら手を上げる。

 気が付けばアキの家に着いていた。

 自分も返事を返し、アキと別れる。


 自分には井川さんと話せない理由がある。

 いや、井川さんだけではない。

 ほとんどの女性と話せない理由が……。








 次の日の放課後、自分とアキはE組の教室に来ていた。

 井川さんと話しをするのはアキだが、とりあえず近くにいて欲しいということで自分も一緒に来ていた。


「あー。井川さん。話したいことがあるんだけど……いいかな?」


 アキが井川さんに話しをかけた。


「ん? 橋本君と六道君? 珍しいね。どうしたの?」


 井川さんは自分とアッキーを見て少し困惑してるような表情をしている。


「なんか、明日の放課後に多賀が体育館裏に来て欲しいみたいなんだけど……」


「学が? 何をするつもりなんだろ……決闘とか? 」


「いやぁ、それはないだろ。こっ…う、なんかこうさぁ! なんかするんやろ! うん!」


 あれ? 嘘? 今こいつ告白って言いかけた?


「う、うん。呼び出してるってことはなんかするんだろうね」


 おい、井川さんも戸惑ってるぞ。


「まぁ、そういうわけだから、明日の放課後に体育館裏にこれそうか?」


 井川さんは顎に手を当て、うーん、と唸りながら考える。


「分かった。部活があるけど始まるまでなら大丈夫だから、それまでは」


「ありがとう。多賀に伝えとく。時間取らせてごめん。じゃあこれで」


 しっかりと伝えるべきことを伝えた。

 アキはこれ以上ボロが出ないようにするためか話しを早々に切り上げる。

 自分達が手を軽く挙げると井川さんは「じゃあ、ばいば〜い」と言いながら手を軽く振ってくれた。


「ふぅ……危なかった」


 E組を出て少し歩いてからアッキーは口を開いた。


「軽くはないけど、滑りやすい口してんなぁ」


 自分は何もしていないはずなのに横にいて少しドキドキしていた。


「じゃけん幸作がやった方がいいと思ったのに」


「自分はちょっと……」


「……もしかしてお前……まだ女子が苦手なのか?」


「うっ…………」


 アキの言葉に自分は喉を詰まらす。

 そう。自分は女性が苦手だ。

 ラノベの自称モテない友達いない主人公とかが人付き合いが苦手、女性と上手く話せないなどコミュ症などと自分で言っているが、あんなのは全然コミュ症でも苦手などではない。

 自分は自慢ではないが、女性と目も合わせられないし、自分から話すことができない。いや、本当に自慢にもならないな。

 まぁ、無理をすれば敬語で話すことができるレベルだ。それぐらい女性が苦手だ。


「あー……用事も済んだし帰ろうか」


 アキの質問を完全に無視し、一緒に早く帰ることを促す。

 自分の顔は今多分引きつっているだろうが。


「そうだな。とりあえず帰ろうか」


 多分色々と察してくれたのだろう。

 アキはあっさり同意してくれた。









「じゃあな!」


「おう」


 互いに挨拶を交わし、自分とアキは別れる。

 アキと別れた後、自分が女性が苦手だと感じていることについて色々と考えながら下校していた。

 

 自分には母や妹がいるし、身の回りに女がいないわけではない。

 しかし、どちらともなぜか女々しさがなく、どちらかというと自分と弟や父よりも男らしい。

 だけど、それだけが女性が苦手だと感じる理由ではないことを自分は分かっている。

 小学生の頃は女性の下の名前でちゃん付けして呼べていた。

 しかし途中から変に意識をしてしまった。

 あの出来事が原因だろう。

 昔の出来事を思い返す。









「私、他に好きな人できてしまった……。ごめん。別れよ……」


 小学5年生の秋。自分はいきなり別れを告げられた。

 しかし、言い訳に聞こえるかもしれないが自分は彼女と付き合ってはなかった。

 確かに振られる4カ月前に告白されたが、その時は恋愛感情というものがよく分からず、曖昧な返事をしてしまっていた。

 そして、それから4カ月間何も話してもないのに彼女の中では付き合っていたことになっていたらしい。

 まぁ、これで自分の初めての恋愛は終わった。

 それまでは、男女関係なく誰とでも仲良く、話しができていた。

 しかし、告白されたことにより異性との違いをや恋愛感情について考えるようになってしまった。

 そして、気が付けば自分は女性が苦手だと感じるようになっていた。

 その後、歳を重ねるにつれて女性と話せなくなった。


 そしてもう一つの出来事。それは中2の時。

 余りに女性と話さないから自分は女子の間で男好きだと噂され、更には当時よく一緒にいた6人の男友達と付き合っていると思われていたらしい。

 ちなみにこの話はいきなり女子数人から呼び出され「六股してるの?」と言われて発覚した。

 初めはなんのことか分からずただ戸惑っていると、目をランランと輝かして「あ、男とね」と言ってきた彼女たちを見て更に自分は女性に恐怖を覚えたことだ。








 昔の事を思い返していたらいつの間にか家に着いていた。

 まぁ、自分のことなんてどうでもいいか。

 明日は友達が告白する。

 ただ、自分は告白に邪魔が入らないように一生懸命自分が任されたことを頑張るだけだ。

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