「他人の恋愛なんか自分には関係ない?」
昼休み。
自分はアキとニシと一緒に飯を食べていた。
「なぁ、E組の永田と善岡が付き合ってるらしい……」
唐突にアキが真剣な顔で話し始めた。
「いや、自分は誰か分からないし」
「儂は分かるが、それがどうしたんだ?」
「よく聞けお前ら。この2人はなぁ、中学違うんだぞ。それなのに1ヶ月もしないうちに付き合い始めた……。つまりお互いをよく知らんのに付き合い始めたということだ! マジでうらやま…………けしからんっ!」
本音が出掛けている。
つまりは、ただただ普通にアキは付き合っているのが羨ましいのだ。
「別に儂はモニターの中に嫁がいますし。まぁ、なんとも?」
「本当は〜?」
「儂もリアルでお付き合いして、皆の前でキャッキャウフフしたいっ!」
お前もかよっ!
「ニシは嫁がおるから3次元に興味ないんじゃ……」
そう言うとニシは驚きの表情を見せながら自分の襟首を力の限り掴んだ。
「おまっ、10年以上の付き合いなのに何を言っておられるのでしょうかぁ⁈ 儂がどれだけ彼女欲しい彼女欲しいと言いよるか!」
思い返すと確かに言ってたような気がする。
口調がへんになるほど欲しかったんだなぁ……凄く可哀想。
「2次元の話かと思ってた」
「違うよ! 2次元とかはさ、どれだけ金を注ぎ込んでもリアルには出てこないんだよ! ○○○とか○○○とか想像でしかできないんだ! あぁ〜、彼女作ってリアル○○○したいよぅ……」
「お、おう。頑張れ」
こういった下ネタなどの時は返事に困ってしまう。
「幸作……お前はどう思う……?」
アキは未だに何かをぶつぶつと呟いているニシを置いて、真剣な表情をしながら自分に尋ねる。
「恋愛ものってのは初めっから大体両想いだ。それを互いに分かってない状態で色々とすれ違い、また第三者第四者からの恋愛干渉もあるから面白い。全くの無関心からいきなり好きになんて絶対になく、ましてや始めっから両想いという大前提のないのが現実。よって現実はクソ」
「お前なんの話してんだ?」
ん? なんだ現実と2次元の違いについて思うことじゃないのか。
……あぁ、E組の2人が付き合っていることに対してか。
「自分とは全く関係ないし……別に特に何か思うところはないかな」
誰かの恋を妬んだり邪魔したりはしたくない。
それに正直に言うと赤の他人の恋愛など自分には全く関係のない話だと思っている。
「綺麗事はどうでもいい……。あと、俺が聞いているのはそっちでもない。彼女が欲しいかどうかだ」
「う〜ん……。好きな人いないし、今はいらないかなぁ」
「もっと正直になれよ!」
正直になれと言われてもなぁ……。
「いや、女性にそこまで興味ないし」
その自分の言葉を聞き、アキとニシの2人は何かを察したような表情をし、互いに目を合わせ頷きあった。
「分かったぜ……お前ゲイだな!」
「なるほど……だから女子と全く話さねぇのか! ナゾ解明!」
「違うよ⁈ 何故そうなる⁈」
「じゃあホモ?」
「ホモでもねぇ! あのな、自分が女子と話さないのは――」
自分の言葉が終わり切る前に昼休みが終わり掃除の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
「あー、中庭の掃除に行かねーと。じゃあなホモ」
「儂は教室掃除だ。あばよゲイ」
「だからゲイでもホモでもねえって!」
自分が叫ぶと2人は笑いながらはいはいっと言いながら移動していく。
自分も弁当を片付け、掃除場所へと移動した。
放課後。
帰る用意をしていた。
荷物を全部片付け終え、鞄を背負い帰ろうとしていると
「シラガミ。ちょっと相談したいことがあるんだけど……来てくれないか?」
と、ある男に呼び止められた。
「それ自分にしか相談できないことか?」
自分は話しかけてきた相手の方を向きながら言った。
同じ4組の男子、多賀 学は「うーん……多分?」とだいぶ曖昧な返事を返した。
多賀とは小学校からの仲だ。とても仲が良いわけではないが時々遊ぶ。身長は僕より少し高い。優しそうな顔が特徴だ。
「多分ってお前な……」
「どうせ暇だろ?」
「はぁ……分かったよ」
自分がそう言うと多賀はちょっと場所を移そうと廊下の方を指差す。
教室の中には自分と多賀以外にもまだ人が残っていた。
自分はそれを見てなんとなく今から相談される内容を察しし、頷いた。
自分達は多目的ルームに来ていた。
多目的ルームは昼休みや休み時間には人が集まっているが、放課後はほとんどの確率で人がいない。
今もここには自分と多賀の2人しかいない。
ここでならのんびりと話せるだろう。
「だいたい分かっているとは思うけど、相談したいことっていうのはだな……」
多賀はそこで言葉を止めて言いづらそうにしている。
「だいたい分かってる。恋愛関係だろ?」
多賀が言いづらそうにしているし、大体の事情は察していたので自分が先に言葉を発した。
これで外してたら凄く恥ずかしいが。
「あぁ、あってる」
多賀は照れ臭そうに笑いながら言った。
それを聞き良かったぁ、と心の中で安心する。
「それに対しての相談と、少し協力して欲しいことがあるんだ」
「協力か……」
自分は少し悩んだ。
今まで、何故だか色々な人に恋愛の相談をされてきた。
的確なアドバイスができるわけでもないし、ただ応援することしかできないのに。
そして、自分は彼女いない歴=年齢なのに。彼女いない歴=年齢なのに!
ま、まぁ、それはひとまず置いといて本当は何故皆んなが自分に相談するのかは多少分かっていた。
皆誰かに話したいのだ。自分が恋をしているってことを誰かに知って欲しいのだ。でも伝えるとなると親友か口が堅いやつでないと、すぐに広められてしまう。
自分は小学生の時にある友達から相談を受けた。
その友達の恋が終わるまで自分は誰にもそのことを言わなかった。
いや、忘れてたといったほうが正しい。
そんなことがあってか、僕は口が堅いと認められ、そいつが親友にそのことを話し、次はその親友が相談しにきてを繰り返し、いつの間にか自分の口の堅さ(なのか?)は広まっていった。
しかし、自分は悩みを聞いたり応援をしたりしたことやアドバイス(恋愛経験が無いくせに何がアドバイスだ)をしたことはあったが、協力はしたことはなかった。
「駄目か?」
多賀は悩んでいる自分を見ながら不安げに言う。
「協力と言われてもなぁ……。何をするかによってだな」
「好きな人に告白がしたい。でも、こういうの初めてで、どうしたら良いのか分からない……。だから、告白を手伝って欲しい」
「告白の手伝いか……」
告白の手伝いとか今までした事がない。
というか自分自身告白をしたことがない。
やってあげたいが自分にできるかどうか。
「迷惑なのは分かっている……。でも、こういうことを相談できるやつは自分が知る限りお前しかいない! 頼む!」
多賀は声を張り上げながら頭を下げてきた。
「頼む! 他人の恋なんてお前には関係のないことだと分かっている! 俺が告白しようが振られようが付き合おうがお前には関係ない! でも、俺はどうしたらいいのか分からない……いや、違う。俺は告白するのが怖い……」
多賀は辛そうな表情を見せながら言った。
「頼む……! 協力してください……!」
そしてもう一度深々と自分に向かって頭を下げた。
それを見て僕は決めた。
「……関係ないことない」
「え?」
「とりあえず頭を上げろ。お前が真剣なのは凄く伝わったから。自分に何ができるか分からないけど、やれることはやってみる」
人から頼りにされているのに、見捨てることはできない。もう話しを聞いてしまった以上、自分も関係者だ。
それに他人の恋愛なんか自分には関係ないと思っていたがそれは赤の他人に対してであり、友人の事になるなら話は別だ。
「ほ、本当か! あ、ありがとう」
多賀は頭を上げ、少し照れ臭そうにお礼を言った。