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「つまらない人間」

 高校に入学してはや1ヶ月が経とうとしていた。 

 だいぶ高校生活に慣れてきたが、何かが違うなぁと六道(りくどう) 幸作(こうさく)は下校しながら思っていた。

 さすがに漫画や小説のような事がリアルで起こるとは思っていないけど、もっとなんかこう……うまく言えないけど高校生ぽい自由さがあると思っていた。

 しかし、実際に入ってみると中学校の時と殆ど変わらない生活をただただ送っている。


「ウェーイ! 元気か幸作!」


 なんてことを考えているうちにいきなり高いテンションで頭を叩かれた。

 ズキズキと痛む頭を抑えながら叩いてきたてきたそいつに目を向ける。

 そこには同じクラスの橋本(はしもと) 明広(あきひろ)が気持ち悪い笑顔で立っていた。


「いきなりなんだよ……」


「お? ちょっと強かったか? 痛かったならごめんな!」


「いや、大丈夫だけどさ……謝るくらいならするなよな」


「分かった。今度から謝らねぇ!」


「そういう事を言いたいんじゃなくて……あぁ、もうどうでもいいや」


 なんだか言うのが面倒になり、言うのを止めた。

 いつも自分はテンションの高いこいつに振り回されてばかりだ。

 身長はそこそこ高く(自分からしたら皆高いが)、性格は明るく、裏表もなく、男女問わず誰からにも好かれている。

 ただ残念なのは勉強が少しできないことと、デリカシーのデの字もないくらいデリカシーがないことかな。

 自分は本人の希望でこいつのことをアキと呼んでる。


「ていうか、なんで待ってくれてないんだよ! 少し待てって言っただろ!」


「あぁー……言ったっけ?」


「了解、って返事してただろうが!」


 アキはいつも通りテンションが高かった。そして少し怒り気味だ。

 多分自分はなんとなく返事をしてしまったんだろう。10数分前のことなのだろうが全然覚えがない。


 「はぁ〜。また適当に返事したのかよ……。まぁ、幸作とは今年で4年の付き合いになるからもう慣れたけど」


 少し怒り気味のくせにに何を言っているのか。

 そんなことを言うとまた少し面倒になことになるから言わないけど。


「アキは今まで何をしてたんだ?」


「ん? 俺はちょっと部活動の見学にな」


「あぁ、部活動見学か……」

 

 部活動……。

 中学では自分らは帰宅部に属していた。

 自分は高校では特になにかやりたいこともなかった為、今回も帰宅部にしようと思っていた。


「幸作、お前はどうするんだ?」


「多分帰宅部かなぁ。アキは?」


「俺もこのまま行くと帰宅部かなぁ」


「そうか……なにか勿体無いな。アキはスポーツならなんでもできるんだから運動部に入ればいいのに」


「俺はガチではやりたくないんだよなあ。遊び的な感じでやりたいんだ。こんな奴が真面目に部活動に取り組んでる奴の中に入ってったら迷惑だろ。お前もそういうことだろ?」


「あぁ、全くの同意見だ」


 自分は運動が嫌いなわけではないし、運動音痴なわけでもないが、運動部はいいかなっと思ってる。どんなスポーツでも大体は人並みにできるが、どれもそこ止まりだった。

 まず、何よりも自分の体がダメだった。高1にもなって身長が145センチしかない。はたから見たら良くって中学生、悪くて小学生のように見られるほど僕は小さい。

 どうしても体格の差というハンデが生まれてしまう。そして文化系は女子しかいないから嫌だ。


「そういやぁ、俺が叩く前になにか考えごとをしていなかったか?」


「あぁ、していたよ。高校生活も1ヶ月が経とうとしているが、親が言った通りで中学の延長みたいなものでつまらないなぁ……とな」


「そうか? 俺は楽しいぞ」


 アキはぽかんとした表情で言った。


「なっ……」


 自分はアキが同調してくれるのを前提で話を振ったため、かなり驚いてしまった。


「な、なんで?」


「確かに授業は面白くはないけど、前よりも少しだけやけど自由になったし、いろんな友達が増えて楽しいだろ。なにより、俺はやりたいことは決まっているからそれに向けて勉強しないといけないしな。結構充実しているよ」


「なるほど……」


 話を聞いていて少しだけ羨ましと思った。

 本当に少しだけ……。


 自分も高校に入って新しい友達は何人かできたが、やりたいことは何もなかった。

 いや、あったけど色々あって諦めてしまい、とりあえずなんとなくで今通っている学校に入った。そして通いながら今後どうするかを決めようと思っていた。

 高1で何がしたいかが決まっていないのは当たり前だと思っていたが、それはかなりの少数派らしい。

 しかし、自分は未だにやりたいことがないのだ。焦りはあるが、それでもやりたいことはなかった。


「たった一度の高校生活だから、しっかり楽しまないとな。俺はつまらない人間にはなりたくない」


「つまらない人間?」


「おう。毎日をだらだら何も考えずに生きて、死ぬときになっても自分が生きてきた意味が見つけられない人生はなんか嫌だろ? 俺は自分の人生に意味を見つけたい」


「……お前って何も考えてないようで、結構考えてたんだな」


「お前結構失礼なこと言いっているぞ?」


 ふくれっ面のアキを置いて自分は考える。

 

 つまらない人間……か…………。


 自分はつまらない人間なんだろうなぁ、とは言わなかった。

 やりたいことも今は無く、だらだらと意味もなく毎日を生きている自分はアキの言うつまらない人間なんだろう。

 まぁ、別に今はそれでいいけど。


「ん、じゃあここら辺で。また明日」


 アキはそう言いながら手を上げる。

 気が付くとアキの家の近くまで来ていた。


「おう。また明日な」


 アキと別れ、再び1人になり考える。僕がやりたいことはなんなのか。

 やりたいことはあった。でも、それはもう叶わない。

 だから、新しくやりたいことを見つけないといけない。

 しかし、結局家に帰るまで考えたが、やりたいことは思い浮かばなかった。








 次の日の朝、自分は学校に登校していた。 

 結局、家に帰ってからも色々考えたが自分がやりたいことは何も思い浮かばなかった。

 だけど別にいいんだ。これからじっくり探していけばいいから。


「おいーすっ。こうおっはよー」


 後ろから自分に向けての挨拶が聞こえた。

 振り返ると同じクラスの西川(にしかわ) 直也(なおや)がいた。

 家が近く、小学校からよく遊んでいて、もう10年以上の付き合いである。1番の親友というやつだ。

 身長は僕より少し高く、メガネをかけている。そして1番の特徴はオタクであること。

 (まだ1ヶ月しか一緒に過ごしてないはずの)クラスの皆が認めるほどのオープンオタク。

 ちなみに僕もアニメや漫画などを見たりするがオタクではない。

 オタクが恥ずかしいとかじゃなく、実際、目の前にいるようなガチなオタクを見ていると自分をオタクだというのがとてもおこがましく思えるのだ。


「はよー。ニシは昨日も新聞か?」


「うん。何か面白いことがないか色々探してるんだ。また6月号に向けて記事を集めないといけないしな」


 ニシは自分とアキとは違って新聞部に入っていた。

 ニシが作った5月号の新聞は、入ったばかりの新入生の学校に対して感じた事を、冗談を交えながらも真面目なことも書いてあってとかなり評判が良かった。


「次も期待しとるぞ」


「任しとけ」

 

 ニシは親指を立てながら笑顔で答える。


 こいつも充実した高校生活を送っているんだな……。


 そんなことを思いながらも、自分はそれを深い深いところにしまい込む。


 その後、自分たちはいつも通りくだらない話しをしながら学校に登校した。






 学校に着き、自分のクラスである1ーDの教室に入る。この学校は一応は進学校で1学年に5クラスありA組がスーパー選抜と呼ばれる1番頭のいいクラス。B.C組が選抜と呼ばれるクラスでD.E組が普通とランク付けされている。自分はD組なので普通クラスだ。


「オースッ!シラガミー」


「シラガミおはよう」


「小さいおっさん、おはー」


 教室に入ると何人かが挨拶をしてくれた。 

 ちなみにシラガミや小さいおっさんというのは自分のことである。

 前にも言った通り自分は身長が145センチくらいしかなく背が小さい。

 しかし、自分の1番の特徴はその低身長ではなく髪の毛だろう。

 髪の全体のうちの半分の量は白髪で、それらがまばらに生えている。

 容姿は小中学生なのに頭だけ見たらおっさん。

 だから大体の男子に僕はシラガミやら小さいおっさんと呼ばれている。本当、いったいどこの非公認ゆるキャラだよ。


 自分が席に着くとしばらくして先生が入ってきた。

 また、今日もつまらない授業が始まる。

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