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第82話 遥の面接試験

「…以上が、これまでに起こった事の詳細になります」


「………わかり…ました。……ありがとうございます」


 美幸の話が一段落したところで、佳祥は何とかそう答え返した。


「…何だか、思った以上にショックを受けているみたいね?」


「仕方ありませんよ。佳祥君には新たな情報も結構な割合であるんですから…」


 目に見えて戸惑った様子を見せている佳祥に遥がそう言うと、美幸は()かさず

そのフォローに回った。


…そして、そんな美幸の言葉に遥は半ば呆れ気味に呟く。


「…知ってはいたけれど、あなた…やっぱり佳祥君には甘いのね…」


「まぁ…それは仕方が無いですよ。私は…“お姉さん”ですからね」


 苦笑しながらもどこか嬉しそうにそう答える美幸は、“佳祥の姉である”という

事実を喜んでいるようだった。



「ふぅ…。…さて、もうそろそろ話を進めても良いかしら?」


「…はい。よろしくお願いします」


 遥の声に神妙な様子で返事をする佳祥。

佳祥がある程度落ち着いているのを確認した遥は、美幸と交際するにあたって問題

になるであろうことを、1つずつ聞いていくことにした。


「…まずは、そうね…美幸が人と同じようになるということは、当然なのだけれど

これからは歳を取るということなるわ。それは構わないのかしら?」


「はい。それは特に問題ありません。

…というよりも、むしろ僕としては、その方がありがたいくらいです」


「…ありがたい? 恋人がずっと若いままなのは良いことでしょう?」


 予想以上にすぐに返って来た、佳祥の回答。

遥はその言葉に誤魔化しや嘘が無いか見極めようと、質問を重ねながらも視線を

鋭くさせる。


 しかし、佳祥はごく自然な表情で、この質問にもすぐに答えてきた。


「はい。普通に考えれば喜ぶべきことなのかもしれません。

…ただ、当たり前の話ですが、人間である僕は歳を取っていきます。

何時までも若くて綺麗なのは、女性にとっては悪いことではないのでしょう…。

けれどやはり、時が経つにつれて、僕の方が美幸さんの隣に立っているのが申し訳

なくなってくるでしょうから」


「…そうね、そういう考え方もあるわ。

…本当、ずっと若いままだなんて(ずる)いわよね。この歳になると実感するわ」


「え、ええっと…。あ、あははは……」


 そう言いながらジトッとした目の遥に見つめられた美幸は、笑って受け流す。

…こればかりは、美幸にはどうしようもない話だった。



 気を取り直して、本題である先ほどの佳祥のその返答について考える遥。

数秒後、とりあえず理屈も通っているし、嘘も無さそうだったので、次の質問に

移ることにした。


「それじゃあ、その件は良いとしても…新しい容姿に関してはどうかしら?

美幸の新しい素体のモデルは、美月さんの20歳の当時のもの。

けれど、その美月さん自身が今も当時とさほど変わらない容姿を保っていることも

あって、『そっくりの妹』と言っても差し支えないような、ほとんど変わらない姿

になることになるわ。

まぁ、普通に考えれば、美月さんは“絶世の美人”と言っても過言じゃない人だし、

不満なんてまず無いのでしょうけれど…。

あなたからすれば、美月さんは母親なわけでしょう?

…その点は構わないのかしら?」


 遥が容姿のことについて尋ねると、ここで初めて佳祥の表情が曇った。

落ち込んでいる…というわけではないようだが、何とも微妙な顔で返答してきた。


「…当然ですが、母さんを恋愛的な意味で好きかどうかと問われれば、流石にそれ

はありえません。

ですから、見た目がそっくりになると聞いて…今は正直、微妙な心境です。

ただ、容姿が似たものになるといっても、中身…と言って良いのか分かりませんが

性格等は美幸さんのままなわけですし、最終的には問題は無くなると思います。

…今の美幸さんをずっと見てきたので、慣れ・・は必要だとは思いますが…」


「まぁ…それはそうよね。

実際、私も“美月さんの容姿の美幸”なんて、今はまだ想像も出来ないもの…」


 そう言って、今回の件に関しても、一応の納得をした遥。

…しかし、そんな遥に、今度は当の本人である美幸が声を掛けてきた。


「あの…遥? 今さら自分で言うのも、何なんですが…。

今のこの容姿だって、美月さんのものには違いないんですよ?」


「そんなの分かってるわよ。

でも、私は今の美幸の容姿の頃の美月さんを知らないもの。

私からすれば、今の美幸の容姿はそのまま美幸(・・・・・・)なのよ。

それと違って、次の身体の歳の頃の美月さんには、実際に会っているんだから…

それに違和感を感じるのは、当然でしょう?」


「ああ…なるほど! そういう意味ですか!」


『そういうことか!』と、いった様子で、胸の前で手を合わせる美幸。

…そして、それを隣から指差した遥は、佳祥に微妙な表情で尋ねる。


「…本当に良いの?

さっき『中身が美幸なら…』みたいなことを言っていたけれど…。

この子、最近はしっかりしてはきたけれど、根底は見た通りの『ド天然』よ?」


「ちょ、ちょっと遥っ! 佳祥君に変なことを教えないで下さい!

それに、私は別に天然じゃありません!」


「あ、あはは…」


 突如始まった、2人の口喧嘩に、誤魔化すように笑うしかない佳祥。

すると、遥は更に言葉を付け足してくる。


「佳祥君、覚えておきなさい。

『天然だ』と指摘されて『そうなんです』っていう人はただの“ぶりっ子”。

本当の天然ボケの人はね、今みたいに『そんなわけないです』って答えるの。

自分で気付けないのが“天然”というものなのよ。

……だから、美幸は正真正銘…本物よ」


「遥っ!」


「クスクスッ…。そんなにムキにならなくても良いじゃない。

別に天然ボケは悪いことってわけじゃないんだし。…ねぇ?」


 美幸を振り返って軽く笑った後、再び佳祥に話を振ってくる遥。

それに対して、佳祥は少し笑って答え返す。


「はい。そういうところは、とても可愛いと思います」


「もう! 佳祥君まで…2人とも酷いです!」


 そう言って拗ねてしまった美幸に焦った佳祥は、『すみません』と言って機嫌を

直してもらおうと、あたふたする。


…そして、そんな美幸達の様子を、1人で楽しそうに眺める、遥だった。



 暫くして、そんな小さな騒動が治まった頃合いに、遥が佳祥へと尋ねた。


「さて…と。…どう? 少しは肩の力が抜けてきたかしら?」


「えっ? あ、はい…。…あの、もしかして…そのためにあんな話を?」


「ええ。半分はそうよ。

緊張感を持つのは別に悪いことではないけれど、この場は罪を裁く法廷というわけ

じゃないわ。

ガチガチの状態で考えて答えられる返答より、リラックスして自然に出てきた意見

の方が…少なくとも、私は信用できるのよ」


「なるほど…。…お気遣い、ありがとうございます」


 その遥の発言に少しだけ驚きながらも、佳祥は遥のそんな気遣いに尊敬の眼差し

を向けながら、そう言って感謝を伝えた。


 表情の動きに乏しく、ともすれば冷たい印象を受けそうな遥。

だが、やはり思慮深くて優しい人だな…と思った佳祥は、若干ながら感動する。


…しかし、そんな綺麗に終わりそうな場面の最中、美幸が遥の言葉尻を拾って、

口を挟んできた。


「佳祥君、そんな綺麗な理由に騙されてはいけませんよ?

遥? 『半分はそう』ということですが…。

残りの半分・・・・・は、どういう意図があったんですか?」


「そんなの、決まっているでしょう? ただ単純に、“美幸をからかうため”よ」


「少しは悪びれる様子を見せるかと思えば…。

臆面も無く、即答するんですね…。

はぁ……何だか、今だけ莉緒さんになったような気分です」


「へぇ…それは大変ね。今すぐにお医者さんに()てもらいなさい」


「遥! それは私にも莉緒さんにも失礼ですよ!」


「あら、そう? ふふふっ…」


 そう言って笑う遥に、更に不機嫌な様子を見せる美幸だったが…。

…気付けば、美幸も一緒になって笑ってしまっていた。



 普段はしっかりしたお姉さんをしている美幸も、遥や莉緒といる間は見た目通り

の学生の頃に戻ったように、“普通の少女”といった印象になってしまう。


 そんな美幸の無邪気に笑う姿を見つめながら、自分もいつか、ああやって対等に

接して笑い合いたい…と、そう心から思う。


…ただ、その反面、『自分では、あの2人には敵いそうも無いなぁ…』とも思う、

佳祥だった…。

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