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MI-STY ~あなたの人生に美しい幸せを~  作者: 真月正陽
第二章 女子校短期留学試験
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第10話 留学初日と運命の出会い

 美幸が通うことになった女子校は私立ということもあってか、設備の行き届いた

とても綺麗な印象の学校だった。


 データとしてはある程度は知っていたものの、実際に学生生活というものを体験

したことの無い美幸は、期待と不安を胸に、美咲と共にその校門をくぐった。


 美幸はこれからこの学校で6、7月の2ヶ月間、学生生活を送ることになる。


 途中、美咲が学校関係者に、美幸という存在の重要性とその価値を()()()()説明

して担任の教師が顔を青くするといった場面もあったが……。

…まぁ、それ以外は特に何事も無く、無事に美幸の留学の手続きは完了した。


 その後、職員室前で美咲と別れた美幸は、担任に続く形で自分が所属するクラス

に初めて足を踏み入れた。


 そうして美幸が教室内に入った瞬間から、生徒達はざわざわとし始める。


…そして、担任からの簡単な経緯の説明の後に、美幸は生徒達に改めて自己紹介を

することになった。


「おはようございます。

はじめまして、私の名前は原田美幸と申します。

私にとって、学校に通うのは今回が初めての経験になります。

皆様にはご迷惑をお掛けすることも、多々あるかと思いますが……。

これから2か月の間、どうぞ宜しくお願い致します」


 そう言って、礼儀正しく頭を下げる美幸。

すると、それを切欠きっかけに教室のざわつきが更に大きくなる。


 たった今、担任に美幸の説明として『人と同等の心を持つ初のアンドロイド』と

いう事は確かに聞かされた生徒達。


 しかし、この学校の生徒達は学内という身近な所で他のアンドロイドを見かける

機会があった事もあり、それと比べての態度や言葉遣いといった、あらゆる面での

明確な違いに驚きを隠せなかったようだ。


 要は、“どう見ても人間で、とてもアンドロイドには見えなかった”らしい。


 それに加えて、美幸のその容姿もまた、生徒達の驚きの要因の一つだった。


 アンドロイド作成において重要な素体の元となる人工細胞には、通常の人間から

採取したものを使用している。


 その細胞は様々な改良を施すとはいえ、基本はクローン技術を応用しているもの

なので、出来上がる容姿はその元になった人物そっくりになるのだ。


 そういった点から、新しい素体を作る際に、人気のある芸能人の容姿で作られる

といった試みも過去にはされた実例もあるため、その辺りの情報は一般人にも広く

知られている。


 勿論、宣伝効果が高くなるようにと、なるべく綺麗な容姿を持つ男女が候補に

選ばれて作られるのだが……。


 美幸のその容姿は、そんな知識を持つ生徒達の予想ですらも、軽く超えるレベル

だった。


 しかも、通常のアンドロイドは労働力として機能する必要があるため、基本的に

成人した大人のモデルしか作られることは無い。


 そのため、そもそも彼女達からすれば、同年代の外見のアンドロイドという存在

自体、見るのは今日が初めてだった。


「えっ!? あれが本当にアンドロイド? ありえないでしょ!?」

「っていうか、そもそも元になったの誰だろ? あんな芸能人居たっけ?」

「私達と同じくらいの歳のアンドロイドって居たんだ……」


 口々に飛び交う言葉は、そういった内容がほとんどだった。


 人間とアンドロイドの違いがあるとはいえ、同じ女性同士。

その容姿を見て嫉妬心が芽生えることもありえただろう。


…しかし、あまりにも自分達とは質の違う美しさに、興味の方が勝ってしまって

いる状態だった。



 朝のホームルームの時間が終わると、すぐに美幸の周りにはちょっとした人垣が

出来た。


 そしてすぐに、転校生の通過儀礼……クラスメイトからの質問タイムが始まる。


 しかし、いわゆる『人が溢れてもみくちゃになった』という状況ではなく、美幸

を中心にドーナツ状……まるでマスコミの囲み取材のような様相になっていた。


…至近距離ではなく、そこに微妙に距離があるのは、先の担任の『何処か壊したり

したら、本当にシャレにならない』という厳重な警告があったからだろう。


「ええっと、はじめまして。

早速だけど、あなたって……本当にアンドロイドなの? 

正直言って信じられないんだけど……。

目の色も、よく見かけるようなピンクじゃなくて、紫色みたいだし」


 まず、正面の生徒が口火を切ってそう質問してきた。


 アンドロイドは一目で人間との見分けがつくように、男性型はオレンジ、女性型

はピンクの瞳をしているのが一般的だ。


 だから、美幸の“紫色の瞳”は通常の人間にもあまり無い色合いではあるものの、

アンドロイドとしても珍しい色ではあった。


「はい。

他のアンドロイドとは少々違うところもあるかもしれませんが……。

間違いなく、私はアンドロイドです。

それから、私の瞳の色が紫なのは、私の開発者の方が言うには『心の色』を表して

いるから、らしいです」


「…ん? え~っと? 心の色って?」


「皆さんは人体模型をご存知ですか?」


「人体模型……って、あの理科室の筋肉とか剥き出しの気持ち悪いヤツ?」


「はい、そうです。

その人体模型では、人間の動脈と静脈が赤と青で表現されています。

それと同じく、血流の要である心臓も、赤と青で作られているんですけれど……

『心は心臓にある』と、昔から思われていますでしょう?

だから、私の瞳を赤と青の中間色である『紫色の瞳』にしたのだそうです」


…実は他にも、紫色は昔は高貴な人物の服装にしか使えなかったという理由から、

『“私達のお姫様”という意味もある』と美咲は言っていたが……流石に初対面の

クラスメイトにそれを言うのは恥ずかしかっため、美幸はそのもう一つの理由は

黙っておく事にした。


 美幸が答えた解答に納得したのか『へぇ……』と周囲がつぶやく中、矢継ぎ早に

次の質問が投げかけられた。


「…っていうか、そもそも原田さんの元になった人って、実際に居る人なの?

専用に整形して綺麗に作った……とかじゃなくて?」


「はい、実際にいらっしゃいますよ。

私のベースになった方は高槻美月さんといって、私よりなんかよりずっとお綺麗な

方なんです。

背も高くて、髪も長くてとても綺麗で……私にとっては理想の、優しいお姉さんの

ような方です」


「原田さんより綺麗って……それって、もう人類を超えた“何か”よね……」


 質問者の生徒が返答に驚きながら放った一言に、今度は『うんうん…』と周囲が

同意する。


…これも纏まりがあると言うのだろうか……先ほどから見事に声が揃っている。


『部外秘の機密事項でなければ、私達のことはある程度話しても良いよ』と美咲に

言われていた事もあり、正直に答えたのだが……美月の存在はクラスメイト達には

言葉だけでは信じられない様子だった。


 更に詳しく、『美月が現役の大学生で、自分の研究にも協力した才媛だ』と説明

すると、尚更驚かれる事になり、『そんな完璧超人が居るなら見てみたい!』と、

誰かが言ってきた為、高槻夫妻の写真を見せると――


「うわぁ……本当だ。こんな人、本当にこの世に実在するんだ……」

「ってか、旦那さんもイケメンじゃん!」

「やっぱりこんだけ美人だと、売れるのも早いのかなぁ?」

「大和撫子って感じするー、うわ~……私にはコレ無理だわ」


…と、各々が好き勝手に感想を口にしていった。

そして、それに併せて更に周囲が騒がしくなってくる。


 特に一番騒がしかったのは、『人妻だ! 美人妻だーっ!』とはしゃぐ集団で、

何故か彼女達は“人妻”という単語が特にお気に入りのようで、それを連呼しては

盛り上がっていた……。


…美幸にはその理由がわからなかったが……とても楽しそうなのは確かだった。


 その後も質問の雨は続いたが、そんなクラスの歓迎ムードに、とりあえず美幸は

安心することが出来た。


…アンドロイドの自分を受け入れてくれるかどうかという不安や緊張が、全く無い

というわけではなかったからだ。



 しかし……美幸が内心でホッと胸を撫で下ろした――そんな時だった。



“ガタンッ”



…と、いう至近距離からの突然の大きな音と共に、周囲に一瞬で沈黙が訪れる。


「ぁ……と、富吉(とみよし)さん。

ごめんなさい…………あの……うるさかった? ご、ゴメンね?」


…と、クラスメイトの一人が、音のした美幸の前方の席に声をかけた。


 手前にクラスメイト達が居たため、美幸からはよく見えなかったが……。


 どうやら、その富吉という一つ前の席の生徒が勢い良く立ち上がった際に、椅子

が大きな音を立てたようだ。


「あ、あの……」


 美幸も、そのクラスメイトに続いて謝罪しようとする……が――


「…………ふぅ……」


“ガラガラ………………ピシャン”


 タイミングが悪い事に、美幸が声をかけるのとほぼ同時に、その生徒は教室から

立ち去ってしまったらしい……。


 足早に教室を出て行く後ろ姿だけが、人垣の隙間から一瞬だけ確認できた。


「ぁっ……」


 謝罪の言葉が間に合わなかっただろう事に気付いた美幸が、俯きながら『迷惑を

掛けてしまったな』と申し訳無さそうな表情を浮かべると、


「ああ、大丈夫だよ? 原田さん。

あの子は、大体いつもあんな感じなんだから。

なんとかっていうピアノのコンクールで良い賞をもらったって話だけど……

音楽室に缶詰め状態で教室にはいつも居ないし、居てもほとんど喋んないんだ。

別にこっちにキレてきたってわけじゃないし、気にしなくても良いと思うよ?」


と、クラスメイト達が口々に気遣って声をかけてくれる。


 タイミングよく始業のチャイムが鳴って、質問タイムが一旦終わることになり、

生徒達は自分の席へと帰っていく。


「……………」


 美幸にとって留学が決まった当初、学校で受ける授業というものも楽しみな事柄

の一つだった。


…しかし、生まれて初めて受ける授業は美幸の耳にはほとんど入ってこなかった。

先程の“富吉さん”が、どうしても気になっていたのだ。


 美咲が太鼓判を押して美幸を送り出した学校というだけあって、クラスメイト達

は皆、揃ってとても良い人達のようだ。


 少なくとも、アンドロイドという異色の転校生である美幸に対して、それを理由

に悪印象を持つような生徒は居ないように思う。


 そしてそれは、先程の富吉さんに対してもそうだったらしく、クラスメイト達の

雰囲気としては、彼女を嫌いだから遠ざけている、というより、どちらかというと

“そういう人なのだ”として扱っているように感じられた。


 つまり、皆の嫌われ者というよりは“周囲がどう扱うかに悩む人物”というのが、

クラスメイトから見た富吉さんに対する正しい認識のようだった。



 先ほど立ち去る時にちらりと見えた、富吉さんの――その横顔。

美幸には何故か、そこから何も感情が読み取れなかった。


 あのタイミングで立ち去ったのだ。

“怒り”や“苛立ち”の表情が浮かんでいてもおかしくはないはずだ。


…にもかかわらず、富吉さんには全くそんな様子は無かったように思う。


 美幸には、それがまるで待機状態のアンドロイドの如く無感情に見えた。

…そして、アンドロイドの美幸には、その様子が妙に気になって仕方がない。


 その後、放課後に迎えが来るまでの間、教室に残っていた美幸はギリギリまで

彼女が戻ってくるのを待ってはみたのだが……。


 結局、その日のうちに富吉さんが教室に戻ってくることは、無かった。

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