願おうよ、泉。
あるところに、ジャックという名の何でも欲しがる若者とケインという名の、あまり多くを望まない若者がいました。
奇妙なことに、その二人は大の仲良しです。毎日、森の中の泉のそばに立つ大樹の枝に上って、夜遅くまで、一緒にいろいろな事を語り合います。恋愛について、スポーツについて、学問について、政治について、自分たちの将来について。彼らの語り合いは、知識で大人に劣っていたかもしれません。ですが、若さからあふれる情熱が在りました。
だから、でしょうか。ある日、いつもの様に二人で語り合っていると、不思議なことが起こりまた。なんと、泉の中から、(お世辞にも綺麗とは言いがたい)女の人が浮かび上がってきたのです。彼女は言いました、
「私は、この泉の精霊です。あなた達の会話は毎日聞こえていましたよ。おもしろかったわ〜」
ジャックは思います。勝手に自分たちの話を聞くなんて、いけ好かないヤツだ、と。
ケインも思います。あー、面倒くさいなあ、早くこの女の人どっかに行ってくれないかなあ。ジャックと話の続きがしたいな〜、と
泉の精霊は話続けます。
「あなた達の会話は、いい暇つぶしになりました。そこで、お礼にあなた達の望むものを一つ叶えて差し上げましょう」
ジャックは思います。ラッキ〜、なんて願おうかな〜、と。
ケインも思います。毎日聞いてたのかよ。あんた、どんだけ暇人なんだよ、と。
「では、ジャック。あなたは何を望みますか?」
ジャックは思います。願い事を増やせ、という願い事は多分ダメなんだろうなあ、と。
ジャックは心に嘘をついて、言いました。
「俺がもって無いものをよこせ」
ジャックの願いどおり、彼は、何でも欲しがるのを自重する謙虚さを、手に入れました。
「さあ、ケイン。次はあなたの番ですよ」
ケインも思いました。願いなんて格段持ち合わせていないなあ、と。
ケインは正直に、言いました。
「なんにもいらないよ」
ケインの願いどおり、世界は消えてなくなりました。