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殺し屋(エージェント)一家の晩餐

 白を基調とした空間をいくつかの照明が柔らかく照らし出していた。

 優しい雰囲気のする心が穏やかになれる場所。

 広めのリビングにはパキラが1つ置かれ、その中央にはシンプルなデザインの食卓が置かれていた。

 まだこの家も建てて間もないのか、壁やフローリングもキレイなままで空間デザインも良く、センスの良い人が住んでるいるのだろうと思わせる。

 リビングと一体化しているオープンキッチンはしっかりと掃除が行き届いていて、展示場にある物のように曇り1つなかった。


 ただ整然と、無駄なものが省かれていた。

 非常に機能的なのである。

 日常生活をする上においても過ごしやすいのだが何より移動しやすいのだ。

 他の部屋に移動するのも外に飛び出すのも自由自在。

 瞬間的な判断で動く際に、余計な手間がかからないので最短で移動できる。 

 そして必要な物を取り出すときに、やはり無理無駄なく最短で取り出すことができるのだ。


 ただそれはある種の異様さも感じさせた。

 一般家庭にしてあまりにも手が行き届きすぎていて人の住んでいる気配がしなかった。

 そこには生活する以外の意図が感じ取れた。

 一種の迷彩。

 一見ただの部屋に見せかけてはいるが、実は戦下の城。

 地の利を活かすための場所。

 急に襲い掛かる有事の際は、状況を知り尽くした自分達が住んでいる家と周辺の地を縦横無尽に動き回り敵を翻弄するのだ。


 そうは言っても今までこの家で何かあったということはない。

 恐らく今後もないだろうとゆかなとゆかなの家族は考えていた。 

 だが代々続いた殺し(エージェント)としての血が、細部にわたって目標(ターゲット)を殺すだけではなく自分の身を守るということも考えさせてしまうのだろう。

 

 職業病というか、常に死と向き合っているゆかなとゆかなの家族には、生きるということは殺されないということであり、できうる限り安全な状態、そして常に有利な状態で戦えることこそが重要なのだ。


 食卓にはありふれた家族の風景があった。

 優しそうなお父さんとお母さん、理知的な兄、かわいらしい妹であるゆかな。

 談笑しながら夕食を楽しむゆかなとゆかなの家族。

 それは他の普通の家族と比べてもどこかのんびりとした様子であった。

 

「孫子の兵法を侮ってはいけない。始めは処女の如く、敵人戸を開く。後は脱兎の如く、敵拒(ふせ)ぐに及ばず。はじめは処女のようにお淑やかに近づけば敵も気をゆるめ固く閉ざした扉を開く。そしてチャンスが来たら、兎が駆け抜けるように一気に襲いかかれば敵に(ふせ)がれることはない」


 少女の家族の父がみんなに言い聞かせるようにゆっくりとそう言った。

 スラっとした細身の体は殺し(エージェント)とは思えないほどに優々しいものであった。

 色白の女性のような顔立ち、細く繊細な指先の動きが、何事も丁寧に取り組むような印象を与える。

 みんな何度も同じことを聞かされているからだろうか、それに対して大きく反応することはなく、当たり前のように聞いていた。

 

「この我が篠宮家に代々伝わる家訓を忘れなければ、(しごと)しはうまくいくはずだ。緩急、虚実を混じえ、人間の心を揺らし、思考が停止させることこそが奥義。まともにやりあってはいけない」


 少女の父は優しそうに微笑むと、食後のお茶を少し飲んだ。

 大変リラックスした様子で家族でのひと時を味わっているようであった。

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