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過保護な父、率然者(ライトニング) やわらかな母、景都(けいと)

「そもそもゆかなは今まで誰にも抜くことができなかった妖刀兎丸を3歳にして抜いた天才。僕は我が妹ながら末恐ろしいですよ。ゆかなに危険を感じさせる程の男は、そんなにいないのではないかと思いますが」


 笑顔を絶やさず整然と隙のない理を述べる徐如林(サイレント)であったが、兎丸の話しが出た時にゆかなの父の表情が一瞬険しくなり、しかしまたすぐにいつも通りの表情に戻った。


 ゆかなの父、率然者(ライトニング)

 孫子の兵法九地篇「故に善く兵を用ふる者は、(たと)えば率然(そつぜん)の如し」から名付けられた。 

 卒然者(ライトニング)は代々伝わる言い伝え通りゆかなに兎丸を持たせてはいるが、兎丸に関してあまり良くは思っていなかった。


 元々妖刀兎丸は誰にも抜刀できなかったのだ。

 率然者(ライトニング)の祖父のそのまた祖父のずっと前から、何度も兎丸を試しに抜刀しようというものが現れたのだが、中が錆び付いているのか兎丸は鞘の中から全く動こうとはしなかった。

 兎丸は代々この殺し(エージェント)一家の守刀として伝わっており、実践的な武器ではなく魔除けとして神棚の上に祀られていた。

 しかし最初からただの守刀ではなく、どうやら実践で使われていたようだと言われてきた。

 そして、人間の邪気を吸う度に切れ味が増し、あまりにも邪気を吸い尽くし膨れ上がった兎丸は鞘から抜けなくなったとされている。


 一体、いつの時代にどのようにして兎丸がこの一族の手にわたってきたのかが分からないのだが、「兎丸は主の手で蘇る」とされており、もし兎丸を抜くことができる者が現れればその者に兎丸を授けよと口伝で厳格に伝えられてきた。

 そうは言われていても、今となっては誰もが錆びついた古刀兎丸を無理やり鞘から抜いたら壊れてしまうだろうと考えていたし、既に戦いでの刀の時代はだいぶ昔に終わっていた。

 先祖を敬う意味で、伝説は伝説のまま語り継ぎ、一種のアイデンティティとして代々受け継がれていく大事な家宝としてしか認識していなかった。

 

 ところがだ。ゆかなが3歳の時である。

 ゆかなも自分の足で良く走り回るようになり、自我も少しずつ芽生えてきたころ。

 ゆかなの母、景都(けいと)は、ゆかなが毎日何度も神棚の前に来ては、じっと神棚を見つめていることに気がついた。

 

 最初は特に気にしていなかった景都(けいと)も次第に不審に思い、ある時神棚を眺めているゆかなに「どうしたの?」と聞いてみた。

 すると、ゆかなは神棚を指さし「取って、取って」とせがむのであった。

 景都(けいと)はゆかなが神棚の上の何に対して興味があるのか全く分からなかったが、子供というのは自分の手の届かないものなどに対して興味を示すものなので大事だとは思わず、景都(けいと)はゆかなを優しくなだめて神棚の前から隣の部屋へ連れて行った。


 それから数日後、景都(けいと)は兎丸が神棚から落ちているのを良く目にするようになった。

 落ちているのを見つける度に景都は神棚に兎丸を戻すのだが、今までそんなことはなかったので率然者(ライトニング)に相談したのだけれどあまりに相手にしてもらえなかった。

 そして家族4人神棚のあるリビングでくつろいでいた時のこと、「カタカタカタ…」という何かが振動する音が聞こえた。

 景都(けいと)は殺し(エージェント)一家にいるものの偶然この家に嫁いできただけで殺し(エージェント)ではなかったが、素人の景都でもその音ははっきりと聞こえてきた。

 スマホのバイブレーションでも虫や動物が移動する音でもない。

 率然者(ライトニング)と若干6歳の徐如林(サイレント)は室内で普段耳にしない異音に聞き耳を立て周囲を警戒し始めた。

 そのほんの一瞬。全員の注意がゆかなからそれた僅かな間。

 ゆかなは何の気なしに神棚の方へ歩き出した。

 景都(けいと)はそれを目で追ったもののあまりにも良いタイミングだったので、危険な空気が流れ始めたのを感じつつもゆかなを取り押さえることができなかった。


 それを徐如林(サイレント)も見ていた。

 3歳にしてそこまで広くないこの部屋の中を3人の注意がそれた瞬間、自由に動き始めたゆかなを見て徐如林(サイレント)はゆかなを天才だと確信した。

 徐如林(サイレント)はゆかなが自分の意志で動き始めたのだと考えていた。 

 何故かと言えば、ゆかなはずっとどこかに行きたそうにしていたのだが、父と母に囲まれ身動きできなくなっていたのである。

 ゆかなが父と母の手から抜け出すタイミングを狙っているのを、徐如林(サイレント)は気がついていたのだ。

 特に父はゆかなにべったりでゆかながどこかに行くことなんてできるわけがなかったのだが、あの隙のない父のほんの少しの間を読み取りゆかなは即座に動き始めたのだ。

 これを天才と言わずしてなんというのか。

 3歳にして既に家族3人が同時にゆかなから意識が離れる瞬間を、ゆかなは本能で感じ取ることができたのだ。


 率然者(ライトニング)も一瞬唖然とした。

 何重にも作戦を練り、1つの策が失敗してもそれをフォローするための策をいくつも用意する鉄壁の作戦。

 しかも暗闇を光が走るように次々と臨機応変に策を繰り広げていくのが率然者(ライトニング)のやり方。

 だがまず室内の安全を確認しようとしたのと同時にゆかなが動き始めた。

 ゆかなが動き始めたのは分かっていたのだけれど、家族を守るという目的のためにはまず何が起きているのか?この部屋は安全なのか?異音がした以外にも異状はないのか?を確認しなくてはならない。

 ゆかなの動きを察知しつつも、やはりゆかなを取り押さえることはできなかった。

 色々策を重ねたとしても、まずはベースとなる策から実行しないと急いてはことを仕損じる。

 これは偶然なのか?それともゆかなが狙ってやったことなのか?

 ゆかなに後れを取った率然者(ライトニング)は一手先を行くゆかなの動向を見ながらも自分がやるべきことを実行していった。

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