表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきたちの協奏曲  作者: ヤマノ鹿子
Ⅱ 魔なる少女の遁走曲~フーガ~
44/60

第二章 魔族との邂逅(五)

 翌日。

 アレグロとラルゴは何軒かの酒場を訪れた。貼り紙をさせてもらっていたのだが、それの詳細を聞きに来た人はいなかった、と酒場の店主は答えた。

 この数日、同様の紙を人が多く集まる場所で配ってラルゴの情報を求めた。それでも保護者が見つかる気配は一向にない。

 手は尽くした。あとは警吏に任せるしかない。明日にでも――ラルゴと別れる。


 時刻は昼過ぎ。

 アレグロはラルゴを連れ、露店が立ち並ぶ道を歩いていた。相変わらず人の行き来が激しい。二人は離れてしまわないように手をつないだ。

 ふと、ラルゴがその足を止めた。

 まさか知り合いでも見つけたか、とアレグロは期待したが、彼の目は菓子屋をとらえていた。台車に菓子を乗せている店である。


「欲しいのか?」


 ラルゴは答えない。ただ、ふらふらと菓子屋へ向かう。

 彼はキャンディーの前で立ち止まった。


「食べる?」とアレグロが尋ねるも、ラルゴは黙ったままキャンディーの山を眺めている。赤くキラキラとした紙にくるまれた、一口大のキャンディーだ。


 結局アレグロはキャンディーを買ってあげることにした。

 ただし一つだけだ。彼女もいつもそうだったから。

 アレグロもあまり物をねだらない子どもだった。その姿が反対にいじらしかったのか、グラン――〈アコルト〉の父親的存在――は、「一つだけだぞ」と言って菓子を買ってくれたのだった。


「これを一つ」

「はいよ」


 にこにこ顔を貼りつけたような店主がキャンディーをラルゴに手渡す。

 ラルゴは掌の上のそれをじっと見つめていたが、包みを剥がしてぽいと口に入れた。

 そして包み紙を丁寧に折りたたみ、大切そうにポケットへ入れた。


「……もしかして、そっちの紙のほうが欲しかったのか?」


 ラルゴはうなずいた。すっ、と人差し指をアレグロに向ける。


「同じ」

「え?」

「目、同じ」


 ラルゴは包み紙を再び取り出し、アレグロに見せた。アレグロの瞳の色と同じ、と言いたいらしい。


「きれい」

「……ありがとう」


 アレグロは微笑ほほえんだ。

 次の瞬間、その表情が凄惨なものになる。


「――!?」


 彼女は弾かれるように後ろを振り返った。


(今、あのときの声が――!)


 カントリアが魔物コルスで埋め尽くされたときに聞こえた、謎の声。それが脳裏に響いたのだ。

 まさか、ここも魔物に襲われるというのか。


(そうはさせない――っ)


 あのときと同じく、声の聞こえてくる方角は自然とわかった。ただ、ラルゴを連れては行けない。

 アレグロはラルゴに視線を合わせるべくしゃがみ込んだ。


「ラルゴ、今すぐ宿に帰ろう」

「う、うん……?」


 突然のことに困惑するラルゴの手を引いて、アレグロは急いで宿へと向かった。




   ♪ ♪ ♪




「ただいまー、って俺一人かな」


 夕方近く。シェントは早々に狩りを引き上げ、宿へ戻ってきた。

 今日はようやくカルカンドを一匹狩れた。上機嫌で部屋の扉を開けると、


「あれ、ラルゴ?」


 窓際の椅子にはラルゴが一人座っていた。他に誰の姿も見えない。彼と一緒に行動していたであろうアレグロも。


「一人か? アレグロは?」


 ラルゴはそれを無視して、反対にシェントに問うてきた。


「シェントお兄ちゃんは、アレグロお姉ちゃんのこと……信じてる?」

「え……」


 昨夜と似たような質問だが、ラルゴの目は真剣そのものである。


「アレグロお姉ちゃんが、嘘をついていても……?」

「な――っ!?」


 予感めいたものに襲われ、シェントはラルゴの肩をつかんだ。


「アレグロに何かあったのか!?」

「答えて」


 ラルゴの目は何かを見定めようとしている。

 シェントは――ラルゴに言っても仕方ないのだが、想いの丈をぶつけた。


「俺はアレグロが好きだ! 彼女がどんな存在であったとしても!」


 ラルゴの目がわずかに見開かれる。


「信じるとか信じないとかじゃない、俺は……アレグロが好きなんだ……。守りたい、失いたくないんだよ……っ!」


 シェントは唇を噛んだ。

 こんなことなら、もっと早くに想いを伝えておけばよかった。

 彼女が記憶喪失であることを言い訳にして、自分は彼女に隠し事ばかりしていた。

 本当のことを話してしまえば、もう共にいられないことはわかっていたから。

 それでも、自分は彼女を守りたかったのだ。彼女が何者であったとしても、自分だけは――彼女の味方でいたい。


「頼む、教えてくれ。アレグロは今どこだ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ