序 章
1/16 時間帯を夜から昼に変更
「はっ……はあ……」
光が微かに差し込む林の中を、一人の少女が脇目もふらずに駆けていた。
時折、枝が視界を塞ぐが、素手で追い払ったり身を屈めたりしてそのまま駆け抜ける。そのせいで彼女の腕や頬には血が薄く滲んでいた。
「あ!」
少女は小さな悲鳴を上げて腐葉土に倒れ込んだ。足元に視線をやると、くねった木の根が地面から隆起している。
彼女は脚に付いた土も払い落とさずに、よろよろと立ち上がった。
そして、焦りの表情を浮かべながら背後を振り返る。
今走ってきた方角に目を凝らしてみるが、そこに広がるのは暗闇ばかり。凝視し続ければ吸いこまれてしまいそうだ。
「――ッ!」
強い眩暈を覚えた彼女は、手近な木の幹に背を預けて座り込んだ。
「……そういえば」
呼吸も落ち着いてきた頃、少女は顔を上げた。視線の先、木々の隙間からは木漏れ日が落ちてきている。
(シェントと初めて会ったのも、こういう所だった)
草木の揺れる音が、しかし感傷に浸ろうとする彼女を現実へと引き戻した。
少女の表情が途端に強ばる。
(魔獣か魔物か……それとも)
逃げなければ――
少女は幹に手をつき、先程痛めた足を庇うようにゆっくりと立ち上がった。
いつもの彼女であれば躊躇いなく刀を抜いていたであろう。だが今はそんな余裕などなかった。
アレグロは戦いたくなかったのだ。
ついさっきまで仲間であったはずの彼らと。
(あのときに戻れるのなら――)
カデンツァを出てすぐ、四人でパーティーを組んだとき。あのとき、仲間にならずに一人になっていれば。
こんな想いはしなくてすんだのに。
(カデンツァのあとは、ルフランに行ったんだっけ……)
アレグロはのろのろと歩きながら、彼らとの今までを思い返していた――




