2 ミニドラゴン討伐
タイトのチーム分けによって発足した情報収集部隊。
私となっるー☆、ノア、さやか、たかちゅんの五名。必然的に女子が多いが、たかちゅんは男子だけど生産系の錬金術師と言う事でこちらのチームに入っている。
「えーっと……まず、うちらがしなくちゃいけないのは情報収集ね」
女子は精神ダメージが結構キているらしく、私がリーダー格になってしまった。
まあ仕方が無いだろう。さっきまで皆泣いていたのに、我慢して私の話を聞けるだけ回復していると考えるしかない。ポジティブシンキングは大事。
「危ないから範囲は村の中だけ。とにかく最初に知っておきたいのは、これから何日もログアウト出来なくて、この世界で過ごさなきゃいけない時の事。この状況だと、むしろそうなる可能性の方が高いからね。セオリーだから」
まず寝床、食事、それにかかる費用。
食事は必要なのかどうかから確かめないといけないが、大所帯で泊まれるところも確保しなければいけない。無論、タダで宿屋が利用できるなんて虫の良い話はないだろう。
何日も連泊する代金、そしてお金を稼ぐにはどうすればいいか。そこまで考えなければ。
「ねえ、お金ってゲームの時はどうやって稼いでた?」
「依頼を受けて、それを達成したら依頼主から報酬を貰うって風だったよ。ギルドが有名になればなるほど、依頼がいっぱい来るの」
「……そーいう感じか」
お金に困窮したら、依頼主を探す所から始めなければならないのか。
何があるか分からないから、私の持ってる3000円も無駄遣いは厳禁だな。皆にも節約を心がける様注意しよう。
「じゃ、二手に分かれて情報収集。集合は中央広場ね」
*
戦闘フィールド、といっても無数にある。
もしもしとたいせいが出て行ったのは、一番村に近い草原だろう。必要な角も、草原にいるモンスターを殺せば割と高い確率で手に入る。
そんなにモンスターを深追いしていなければ、すぐに二人も見つかる筈だ。
だが、油断は禁物。だからこそ、男子四名女子一名のパーティーで繰り出してきた。
「モンスターは出来るだけ避けて行くぞ。っとにヤバい時だけだ、戦うのは」
「ラジャー」
草原は見晴らしがよく、モンスターも強くは無い。辺りに気をつけてモンスターを大きく迂回して避けていれば、まず危険な状態にはならない。
とはいえ、移動方法は徒歩。馬に乗れる自信はないし、わかは魔導師だが魔法で移動にチャレンジする勇気もない。装備はずっしりと重いが、仕方がない。
「あ、あそこ!」
トモヤがある一点を指差した。
一頭のミニドラゴンが暴れている。赤く硬質な鱗で覆われた体、太い牙の見え隠れする顎。口から火の球を吐き、その翼の羽ばたきで風の余波がこっちまで届いている。
びりびりとチームに緊張が走る。ゲームでは味わえない実戦の緊迫感、竜の迫力。
ミニドラゴンを相手に剣をふるっているのは、あの二人だ。
『もしもし:男 槍使い レベル30』『たいせい:男 剣士 レベル30』
「もしもし! たいせい!」
「あれ、タイト?」
二人は純粋にゲームを楽しんでいると言った風に、剣と槍を手にしていた。
ゲームだと思い込んでいれば、恐怖など感じないだろう。ゲームだと思い込んでいれば。
「おい、行くぞ!」
「何、何でタイトそんな大勢で来てんの?」
「いいから!」
二人はきょとんとしていて、タイトの指示を不思議そうに聞いている。
鋭い敵意の光る眼。獲物が増えた事を喜んでいるかのように、ミニドラゴンは二人を差し置き、こっちの隊列に突っ込んでくる。どしどしと重量感溢れる足音で。
標的は、こっちに移った。
「くっそ! おい、剣を抜け! 殺るぞ!」
「おう!」
タイトが真っ先に大剣を抜きはらい、ミニドラゴンの懐に飛び込んで行った。鱗の薄い腹部、喉元が目の前にある。渾身の力で剣を振り上げ、白い鱗に振り下ろした。
それに続き、もしもしやたいせいも再びミニドラゴンに刃を突き立てる。
『キァアアアアア!』
ドラゴンの叫び声は、鼓膜を痛いほど振動させる。空気の振動で飛ばされそうだ。
だが、それにひるまぬ様に足を踏みしめ、更にもう一撃、首元を薙ぐ。
鱗がぱっと視界に飛び散り、ドラゴンの身体が閃光に包まれた。シュン、と風が吹き抜ける様な音を残し、ドラゴンは消え去った。
そして地面には、ドラゴンの額から伸びていた角が落ちている。
ゲーム通りの演出。プレイヤーの勝利だ。
「はぁ……ここはゲームのまんまっつー事か」
タイトは剣を地面に突き立て、支えにして立つ。
戦士が扱う大剣は諸刃で人の身長ほどある。その重量がいかほどか、人間が扱える訳が無い。
これを振り抜いて扱えたと言う事が信じられないが、戦士という職業や装備した鎧、あくまでゲームの世界観のまま、と言う事だろうか。
これも一つの収穫だ。
「おっし、ミニドラゴンの角だ! 武器強化の素材が手に入ったぜ」
「んな事言ってる場合じゃねえんだよ! とにかく、他のモンスターが出てくる前に村に戻るぞ」
「お、おう」
二人はタイトに怒鳴られて、やはりきょとんとした顔をしている。
だが、捜索部隊のメンバーは皆、精神的に疲弊しきった疲れた表情で、二人を見ていた。