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1 ログアウトは不可能

 聳え立つ巨大樹。

 クリスマスに出てくるモミの木もでかいが、この木はモミの比ではない。ビル一つ分に相当する高さ、太さでもって堂々と私の前に立ちはだかる。誰がこの木を切り倒そうと思うだろうか。

 木と言うのは最早相応しくない、大樹でも足りない。

 私はこの木の名前をよく知っている。全ての始まりの木、“世界樹(ユグドラシル)”だ。


「凄い……VRMMOってこんなレベルで再現できるんだ」


 初めてプレイしてみるが、最近のゲームって本当にハイレベル。私の小学生時代、誰もが持っていたあの二つ折りの携帯ゲーム機なんて、今どきの子は名前すら知らないのかも。

 といっても私も中学生だけど。なんでこんなに年寄り染みた喋りを……つい新しいゲーム機の参入に、時代の移り変わりを感じてしまった。

 私が今プレイしているのは、VRMMO「九つの世界」だ。フィールドが幾つもあり、戦闘も生産系も選択肢が沢山あるらしく、いわゆる自由度が高い事で有名らしい。

 そりゃ中学生はドハマりするよね。大人も勿論やってるし、立派な廃人も輩出しているらしいし。


「息も吸えるし、地面を踏む感じもあるし。すごい、感覚器官に刺激を送れる様になってるんだね、昨今のゲーム機は」


 息を深く吸えば肺も広がるし、緑が多いから空気が美味い。柔らかな草が生えた地面をサンダルで踏めば、くしゃっと緑色が揺れる。差し込む日光の温かみ。

 まるで本当に自然の中に遊びに来たようだ。


「さてさて、じゃあ皆を探さないと」


 クラスでこのゲームが大流行していて、正直私だけが流行に乗り遅れていたのだ。

 ログインしたら、クラスの皆が作ったギルドがあるから来て、と誘われている。名前は“無気力な闘士達(アパシーファイターズ)”。誰が命名したんだか分からないが、他とカブる事はまずないから良いか。

 皆と落ち合ったら、使い方を教えてもらわないと。ステータス画面とかログアウト、説明書通りにやっても上手くできない。

 ゲーム音痴には、もっとちゃんとチュートリアルが欲しいなあ。


       *


 最初の拠点は、世界樹の根元にある。武器屋や防具屋、宿屋に食事処が太い根の間に集中している。

 と言う事はちゃんと予習していたので、私でも辿りつけた。

 手作り感がある木の店が並んでいる。ふと見かけた防具屋には、重厚な鎧から可愛い装飾品も並んでいる。最初に所持している3000円でまず装備を揃えたいなあ。


「あ、いたいた」


 中央広場に人だかりがある。近付くと、目の前にパッと情報の画面が現れた。

 『ギルド:無気力な闘士達』『タイト:男 戦士 レベル32』『なっるー☆:女 巫女 レベル15』『つばさ:男 暗殺者 レベル26』『たかちゅん:男 錬金術師 レベル18』……

 知り合いの名前が続々と視界に入ってきた。以外と皆レベルがまちまちかな。まあ、私の場合『わらわら:女 弓使い レベル1』しか出ないんだろうけど。


「おーい、お待たせー」

「わらわらっ! 来ちゃったの!?」


 声をかけたら、皆がこっちを驚愕の顔で振り向いた。やだな、私がこのゲームにログインする約束だったの、皆知ってるじゃん。

 というか、皆見た目がゴツイ。男子勢はがっしり鎧を着こんでいるし、女性陣は華やかな装備と可愛い装飾品で身を固めている。ゲームだから髪の色が赤だったり金だったり水色だったり、目も色んな色。

 初期装備のシャツとズボンなの、私だけ。一応髪は淡い白にしてみたんだけど。

 皆に会う前にちゃんとした服装にしておけばよかったか……弓使いなのに手ぶらだし。


「わらわら、いつログインしたの!?」

「え、ついさっきだけど。五分前位?」


 抱き付く位に走ってきたのは、なっるー☆。

 白いワンピースは防具屋で買った奴だろう。背は現実と同じく私よりチョイ低めで、というか顔も色違いだけど現実そのもの。あれ、アバターって顔の造作は変わらないんだっけ?

 私が返事をすると、またざわざわと相談し始めた。

 皆、騒然としている。ゲームを楽しもうって顔じゃない。怯えていると言うか、私には分からない異常事態になってるみたいだ。

 深刻な顔で、なっるー☆が言った。


「どうしよ……今、誰もログアウト出来ないの」

「は? そんな訳ないじゃん」

「出来ないの! このゲームの世界から出れなくなっちゃったの!」


 泣きそうな悲痛な声でなっるー☆は叫ぶ。他の面子も、どうやら状況を理解しているらしい。

 ログインしたら最後、ログアウト出来ない? あ、そういう小説読んだことある。

 でもそんな事言える雰囲気でもなくて、一転しーんと静まり返ってしまった。うっ、重い沈黙って苦手なんだけど。


「ちょい、落ち着け。情報を整理するぞ」


 なっるー☆がさめざめと泣きだし、それにつられて女子が涙を零し始めた。

 こんな時にリーダーシップを取れるのは、普段の学校生活と同じくタイトの様だ。タイトが一言喋ると、皆一斉にタイトに注目した。


「今わらわらが来て、ここには十二人いる。まず全員で集まろう。クラスで無気力な闘士達(アパシーファイターズ)に入ってるのは十八人だから、後の六人は多分ログインしてないか、他のフィールドにいるかだ。ログインしてる筈なのに来てないって奴、いないか?」

「あ、さっき……」


 なっるー☆の隣で慰めていたノアが手をあげた。


「皆が集合する前、ログアウト出来ないって気付く前に、もしもしとたいせいが戦闘フィールドに出てったんだけど……」

「で、今も帰って来てないのか。何しに行ったんだ?」

「武器の素材を取りに行くって。角か何かが必要らしくて」

「は!? モンスター倒しに行ってんのかよ!」


 タイトが慌てた様に声を荒げる。

 ログアウト出来ないこの状況で、いきなりモンスターと戦闘しているなんて。多分二人は、ログアウト出来ない事に気付いていない。

 怪我を負ったらどうなるのかとか、もし死んでしまったらどうすればいいのか、何も分からないのに。


「二人は槍使いと剣士……普通だったら別に心配いらねぇけど、今は不味い」

「迎えに行った方が良いんじゃない?」

「そうだな。よし、何人かでチーム作って行こう。戦える奴、俺とつばさ、わか、トモヤ、つぶ、エビ。回復系、一応誰かついてきてくれ」

「じゃあ、私が行く」

「決定。残った方は、出来るったけ情報収集してくれ」

「了解」


 タイトのリーダーシップは強い。あっという間に集団をまとめ上げた。

 これで捜索部隊と情報収集部隊、ひとまず役職ごとにチームが出来た訳だ。

 何をすれば良いかも分からずオロオロしているままの状態は脱する事になる。一歩前進だ。


「おし、活動開始!」

「おう!」



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