熱帯魚からのアラート
第2弾の競作にて、ボツにした案なのですが『もったいないは世界の合言葉』という精神の元、今回投稿することにしました。お楽しみいただければ幸いです。ではどうぞ!
成美には現在大きな悩みがあった。
悩みの原因は、最近友人の勧めで始めたツイッター。
ナルトというハンドルネームで活動しているそのツイッターの中で、成美はある一人のフォロワーに執拗につきまとわれていた。
成美がツイートしようがしまいが、返信しようがしまいが、成美の@つながりは日々、そのフォロワーに全て埋めつくされた。
そんな日々が続き、いい加減うんざりしてきたある日、成美は一枚の写真をツイートにアップした。
アップしたのは成美の好きな画家の描いた絵画だ。
気分転換にと、ツイートを進めてきた友人、愛美と一緒に今日買ってきたのである。
「でもホントにいるんだね~ネットストーカーなんて。こっちもわかんないけど、向こうだって成美が男か女かわかんないはずなのにね」
写真をツイッターにアップしている成美の横で愛美が麦茶を飲みながら呟く。
「そうだよね~。一体なんなんだろうホント……。よし、送信っと」
PCでのツイートの送信作業を終え、同じく麦茶をすする成美。
するといつものようにすぐ、問題のフォロワーから返信が来る。
『ナルトさんほどではありませんが素敵な絵ですね(*´Д`*) それに絵の下の熱帯魚達もとても可愛いです!』
「うわっキモ! ナルトさんほどではありませんが~とか、マジ引くんだけど……」
PCを覗き込んできた愛美が、返ってきた返信を読み、顔をしかめる。
「でしょ~。こんなのが毎日何十通も送られて来るんだよ~。もうホント最悪……」
そんなやりとりをしていると、再び@つながりに『新着メッセージ1件』という表示がでる。
成美はげんなりした顔をしながら新着メッセージを確認する。
『私は常にあなたのそばにいます。いつもあなたを見守ってます』
「うぇ~、見守ってるとかコワッ……何この意味深なメッセージ。もしかしてこの人どっか病んでるんじゃないの?」
「なんか一昨日くらいから、ちょくちょくこのメッセージ送ってくるんだよね~」
「成美~もしかして家の場所、こいつにばれてるんじゃないの~」
おちゃらけた感じで愛美が言う。
「え~やめてよ! ただでさえツイッターでつきまとわれてるのに、現実までな、んて……?」
成美の語尾が途切れ途切れになる。
「ん? どしたの成美?」
呆けたような顔で固まる成美。その様子を不思議に思った愛美が成美の顔の前で手をブンブンと振る。
すると石のように固まっていた成美が急に立ち上がる。
「ううん、なんでもない。それよりさ! 今日暑いし、なんかアイス食べたくない?」
「えっ、どしたの急に?」
今度は愛美が呆けた顔をする。
「いや~なんか急にバニラアイスが食べたくなってきちゃって。 ねね、今から食べに行かない?」
「えっ? まぁいいけど……」
「決まり! じゃあ早速いこっ!」
いまいち成美の様子に納得ができない愛美の手を引いて、成美が足早に玄関をくぐりドアの鍵をかける。
鍵を回しカチャンと音がして、施錠が確認できた瞬間……成美は握っていた愛美の手をグイッと引いて、もの凄い速さでマンションの廊下を走りぬける。
「えっ? えっ? ちょっと何!?」
いきなり走り出す成美に愛美はうろたえる。
「後で説明する! とにかく走って!!」
マンションの非常階段を走り降り、一般道をただひたすら走る。
そしてマンションから一キロほど離れたコンビ二の駐車場で、二人は足を止める。
「ハァハァ、もうっ! 一体……なんな、のよ!」
炎天下を走ったせいで、息が整わず汗でびっしょりの愛美が成美に非難の声を上げる。
「ハァハァ、……ってないの」
「えっ? なんて言ったの?」
愛美と同じく汗だくで息が完全に上がっているせいで、よく聞き取れない成美の言葉を愛美は聞き返す。
成美は手を膝についたまま、大きく一度深呼吸をして息を整える。
「さっきのあいつからの返信……『絵の下の熱帯魚達も』って書いてあった……」
「あいつ? あぁ、あのストーカー? で、それがどうしたのよ?」
いまいち成美の言うことに愛美は理解が届かない。
成美は躊躇うように少し間を空けると、ゆっくりと愛美を青ざめた顔で見る。
「私、絵を画面いっぱいに写して写真を撮ったの……。 だから! その下の水槽なんて写してないっ! あの写真には熱帯魚の水槽なんて写ってないの!!」
ヒステリックに叫ぶ成美の言葉を聞いて愛美は血の気が引いていく。
愛美がようやく成美が何を言わんとしているのか、そしてそれがどんなに恐ろしいことかに気付く。。
「わかるわけないんだよ! 部屋に入って実際に水槽を見ないと……そこに水槽があるなんて! その中身が熱帯魚だって!」
泣き叫ぶ成美。そして愛美は何故、逃げるように部屋を飛びだしたのかを理解した。
部屋を飛び出す直前に話していた『あの』意味深なメッセージ。
だが、あのメッセージは意味深でもなんでもなかった。正にそのままの意味だったのだ。
『私は常にあなたのそばにいます。いつもあなたを見守ってます』
その時、成美の携帯電話が震える。ツイッターに新たな返信が来たときの合図だ。
成美と愛美はその新着メッセージを見て、凍りついてしまう……。
成美の部屋の水槽の熱帯魚を写した写真付きの返信。
『またどこかにお出かけですか? いってらっしゃい! 彼らには代わりに僕が餌をあげておきますね♪』
ツイッターも色んな人がいますよね。元ネタはあるブログで読んだ記事を参考にさせてもらいました。ちなみにその記事、実体験談だそうですが……。怖いです(汗