後編
結局だいぶ遅くなってしまった…。
「ずっと一緒にいて下さい」
その言葉を聞いて、俺は…。
「ああいいぞ。」
何の面白味もなく、何の感動もない言葉で返答をする。
「えっ、それってもしかして…。」
「いつまでも幼馴染として一緒にいようってことだろう?
って痛い痛い痛い」
なぜか彼女は今まで見たこともないような恐ろしい形相をして抱きついた状態のまま強い力をかけてくる。
「なんでここまで言ってもわかんないかなぁ。
一世一代の告白をしているようなものなのに。
鈍感すぎる人間は嫌われるよ。
まあ私はそこも好きなんだけど…。」
彼女の声は俺の中にも聞こえている。
けれど、彼女の締め付けが強すぎるせいで返事ができない。
彼女の胸なども当たっているのであろうが感触を感じ取れない、とかなんとか思っているとまだまだ締め付けが強くなっていく。
そろそろ喋れないどころか呼吸すら困難になってきた。
ギブアップの意味を込めて叩いていた腕も動かない。
最後に妙なことを考えちゃったからかなあと思いつつ俺は視界を暗転させた。
ふっと目を覚ます。
どうもここはリビングのソファーの上のようだ。
「ふわぁー」と伸びをしながら上半身を起こす。
すると、彼女が俺の足を枕代わりにソファーに寄りかかるようにして寝ている。
彼女の寝顔を堪能している最中、ふと彼女の先ほどの告白を思いだす。
少なくとも彼女の絞め技の痛さを感じ取ったことからあれが夢だということはないだろう。
さすがにあれほど言われると鈍感な俺でも自分の発言の至らなさにダメだなと思う。
そして彼女が俺に対して思ってくれた思いを強く感じ取る。
「近すぎて色々と見えていなかったんだな、俺。」
俺は、一つ大きく深呼吸をした。
「少しずるいような気もするけど…」
俺は眠っている彼女の頭を優しく撫でながらさっきの告白に対する返事を行う。
「俺もお前とずっといたい。
お前のことが好きだ。」
むろん、寝ている彼女からは返事がない。
そのことにほっとし、赤くなっているだろう自分の顔に手を当てる。
熱い。
俺は彼女を起こさないようにそっとソファーから降りてキッチンへ向かおうとする。
そこに後ろからトテトテと足音がして、後ろからギュッと抱きしめられる感触があった。
さっきのような絞め技ではなく、優しく抱きしめるような。
彼女はどうもタヌキ寝入りをしていたらしい。
「もしかしてさっきの…」
「起きてた。全部聞いてた。」
「うぐっ」
聞こえないと思って、言った告白を聞かれてしまっていた。
こんなに恥ずかしいことは俺の人生のうちでもうないだろう。
「さっきの本当?」
下手にごまかしても彼女には無駄なので真剣に、誠実に答える。
「事実だよ。」
「さっきみたいな意味じゃなく?」
「ああ。
俺の…恋人として…いつまでも一緒にいてほしい。」
「……。」
彼女の腕を優しく離し、俺は彼女の顔が見えるように正面を向く。
そして、今度は自分から彼女の体を強く、けれども優しく抱きしめる。
「お前が好きだ。
付き合ってほしい。」
「………はい。」
そうして、俺と彼女は…………
「すまんな、そんな豪華なものができなくて」
「そんなことないよ、私なんか料理もできないし。」
「それは自慢する事じゃない。」
結局、あの告白騒ぎの後は時間も遅くなったので彼女もうちで夕食を食べることになった。
食卓の上には二つのジャック・オ・ランタン。
彼女の食べっぷりはいつも以上に豪快で大食であった。
洗いものも終わり、お茶でも入れて一服するかと思って席を立つ。
「お茶でも入れようと思うけど飲むか?」
「いいよ、私が行く。」
「あんがと、でもお前はお茶ちゃんと入れれんのか?」
「バカにしないでよ。
私はお茶入れるの上手いんだから。」
ない胸を張る彼女。
「ほほう、どのくらい上手いんだ?」
「うちの兄ちゃんが私のお茶飲んで目と鼻と口から涙流して喜ぶくらい。」
「いや、それ喜んでないから…。」
やっぱり俺が入れに行こう。
やかんでお湯を沸かしている間に結局彼女も台所に来た。
「やっぱり何か手伝うよ。
何しようか?」
「(俺の健康のためにも)お茶は入れなくていい。
じゃあ、お茶うけでも探してくれ。」
「わかった。」
彼女はそう返事した後、なぜか冷蔵庫を探し出す。
いや、緑茶入れようとしてるんだから普通戸棚とかから探さないか?
これから付き合っていくのに大変だなと思いつつ、彼女に話しかけようとすると、
「これ食べちゃだめかなぁ。」
「なんだ?」
彼女の上から冷蔵庫をのぞくと、ちょうど二切れのパイがラップがかかって置いてある。
「パンプキンパイみたいだな。」
「うん。もらっちゃって大丈夫?」
「まあ、いいだろ。」
緑茶の予定を紅茶に変更。
ティーポットと二組のカップを出し、パイを一つずつお皿にのせる。
戸棚の奥のほうにあった紅茶の茶葉をポットに入れると、
丁度お湯が沸いたので火を切り、お湯をポットに注ぐ。
そして、すべての用意が整い、彼女と二人再び食卓に座っている。
「なんか、今日も色々あったね。」
「お前はまた唐突…、
いや、そうだな。」
「でも、いい日だったよね。」
「俺にとってもお前にとってもな。」
彼女はにっこりと笑う。
「でも、よかったよ。
やっと私の気持ちに気が付いてくれて。
本当に君って鈍感なんだもん。」
それに関しては言い返せない。
その話題から逃げるように俺はいう。
「紅茶には何を入れる?」
「砂糖をお願いできる?」
「量はどのくらいだ?」
「たっぷりかな。」
「わかった。」
たっぷりと砂糖の入った紅茶を飲んで彼女は言った。
「このくらい、甘い、あまぁーいカップルになろうね。」
あふれるばかりの満面の笑みを浮かべている彼女。
その言葉に俺は一言だけ返事をする。
「ああ。」
俺も彼女と同じぐらい笑っているだろうと思いながら。
やっと、完結しました。
遅くなってすみません。
もともとハロウィン用に考えていた話なのですが、結局11月までかかってしまいました。
これにて、俺と彼女のハロウィンは終了ですが、いつかこの続きも書けるといいなと妄想中です。
では、また会えることを願ってごきげんよう。