表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

5投目 実戦試験 前編

 昼の食事休憩を挟んで、俺たちは外へと出された。他でもない、実戦試験をするためだ。


 試験会場には筆記試験では顔を見せなかったようなゴツイ、如何にもこの実戦試験だけを受けに来ましたと言わんばかりの冒険者も多数居て、各々が雇ってくれた貴族様の元へと向かっていた。


「いやー凄いですね、フィルさん。Aクラスの冒険者が沢山いますよ!『快傑』シェパードに『激震』ゴンズ、『獄炎』ヘルムート……。そしてその隣に居るのはやはり侯爵以上の子女ね……」

「ミーナの言っていた通り、貴族が雇ったって訳か」

「どう頑張って上質な冒険者は皆、侯爵以上の家の子供が金で取っちゃうからね……。25歳以下の制限もあって、良い冒険者自体が少ないのよね。有能な人の大半は王国騎士になって雇えないし」


 とミーナが俺に説明しながらも手元の手帳に次々と書いていく。冒険者と受験生の相関関係を記録しているようだ。数千人居るこの広間にいる人の名前が次々と書かれていく。


「ミーナ、そのメモ帳に記載している名前。年頃の男女のペアが大きく書かれているように見えるけど、気のせいか?」

「ふふふ、どうでしょー」


 などと言って笑顔を崩さないミーナ。しかもその左には小さな〇印が書かれた人も居る。多分、もしもこの人たちも入学試験に合格したら絶対煽りのネタにするような記録の仕方だった。

 そんな事気にしていられるかと思って、気分転換程度に俺はダイズを投げ上げた。


「74。さっきよりは大分マシになったな」


 筆記試験の間は物凄く酷かった。振ったら90台が十連続で出る、そんなぐらいに運の悪い所がかたまっていた。このダイズで出てくる数字は基本的に0~99までまばらになるのだが、稀に固まる事がある。

 俺は過去に0が三連続ってのも見たことがあるため、何が起こっても驚きはしない。


「それよりもフィル君、今持っている武器は斧槍ハルバート?重くないの?」

「うん、実を言うと物凄く重い。他にも投槍ジャベリンなど持っているから動きにあまり期待しないでくれ」

「わかってるって。護衛がスピードタイプだったらアタシが怖いよ、守ってもらえそうに無くて」


 そうギジェルミーナは答えた。確かに護衛と言って、ローブを身に纏っただけの人よりは分厚い鎧を着ている人の方が安心するだろう。

 俺も両方生き残りと言う事を考えて、広範囲を薙げる上に一撃必殺を基本とするこの斧槍ハルバートを選んだのだ。


「者共、沈まれいぃっ!!」

「「「「…………」」」」


 話しながら時間を待っていると物凄い怒号が広間を通り抜けて一瞬で静かになった。注目を集めたのは使い込まれた感じのある立派な鎧を着た初老の男であった。


「これより、フォーレスンド王立学園実戦試験を開始する!ただちに二人組を組んで、受付で番号札を受け取れ!受け取った者から闘技場の中に入れ、いいな!?」


 そう言って会場全体に響きわたる声で宣言した。こんな声を聞かされて『聞こえなかった』とは到底言えまい。受験者たちはすぐに行列を作り上げて居た。だが、三日前の申し込みの時よりは圧倒的に速い速度で行列は進んでいく。ただ、番号を伝えて新しい番号札を貰うだけだからだ。


「さてと、アタシたちも行きましょうか、フィル君?」

「そうだな」


 俺は高々とダイズを投げ上げた。ダイズは先ほどと同じ74が出ていた。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



「さぁさぁ、頑張ってください、フィル君!このアタシの合格のためにー!」

「いっそのこと、この女を薙ぎ払うべきなんじゃ無いだろうか、俺」


 俺はそう言いながら手に持った斧槍ハルバートを振るう。一度薙げば、ブオンと言う大きな音と共に物凄い風が流れる。そしてその風に押されて、俺たちに迫ってきた人を凪ぎ飛ばした。刃で斬っていたら致命傷に成りうるかも知れないが、刃に纏った空気で叩き付けているため、食らった相手が重傷を負う事は無いよう配慮もしてある。


「風属性『風刃』。空気の塊を纏う事で攻撃範囲を広める魔法よね?」

「ああ。攻撃範囲と相手が死なないよう安全性を配慮したモノだ。一応、殺してしまっても大丈夫らしいが」

「そうね。毎年数人の死者が出るし、学園側でも責任は取らないと入学試験願書に書かれてあるわ」

「と言っても自分から殺しに行く気にはなれないしな」


 そう言って吹き飛ばして気絶させた相手の冒険者と相方の貴族を近くにある人塚へと運んだ。既にそこには四十人を超す人が積み重なっている。下に居る人が潰されるかも知れないが、まだ何とかなるだろう。人は骨と言う非情に丈夫なモノを持っているし。


 この実戦試験。内容がどうなっているかと言えば1回約500ペアでの『生き残り戦バトルロワイアル』である。500ペアが8回分行なわれるので、合計で約4000ペア、8000人が参加するのだ。最もその半数が雇われの冒険者である。

 稀にギジェルミーナとフィルマンのような受験者同士でペアを組む事はあってもそれは非常に稀な例である。

 フィルマンは既に四十人を倒したが、これでも今生き残っている猛者に比べると少ない。ちなみにギジェルミーナの手帳によるとこの形式に置ける最高記録は九百二十二人撃破の記録が残っているらしい。



「でも、意外ね~。フィル君を見た限り、背は高いと言ってもどちらかと言えば様々な技を使って戦うテクニシャンタイプだと思っていたけど、まさかパワータイプだとは思っても居なかったわ」

「いや、俺はどちらかと言うとテクニシャンタイプだよ?今は確実性を重視しているから、力と武器に頼った戦い方しているけど」

「……そうなの?」

「うん」


 『未熟者クォーター』である俺は、どんな戦い方をするにしても大抵の事は確率によって失敗する時が出てくるのだ。その時々によって成功率が変わるため、俺は『自分の得物』を決められなかった。だから、俺はこの街に来た時、宿屋に一部屋余分に借りるような真似をしたのだ。

 だが、試験は一発勝負。その都度に武器を変えることも出来ないため、求められるのは多機能性による敵の圧倒である。それに最適だったのがこの斧槍である。

 一撃必殺の威力が出せる上に魔法も仕える。加えて本当に基本的な動作に限って言えば、100%成功する事もある。例えば武器を振る事はそれ相応の力があれば誰でも出来る行動だ。

 そこから先に派生するには経験による技が必要になるので、魔法と同じように確率になってしまうが振るだけなら問題無い。


「さてと、そろそろ人数も少なくなってきたから、俺たちも要塞止めて動き出すかな?」

「そうね。決勝トーナメントに進めるのは1戦2ペア、合計16チームだけ。そこに進出出来れば高評価間違いなしだから、しっかりとその席を掴みましょ!」



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 ドンドンドンドン!

「残るは四チームだ、もう逃げられんぞ、競え競え!」


 大太鼓の音の後、鬼のような大声が通り抜けた。聞き覚えがあると思えば、先ほど注目を集めた大声だった。地声で闘技場全体に響きわたらせているので、相当な声の持ち主だなと思った。


「フィル君、警戒してね。真正面から来るとは限らない……」

「その心配は要らないよ、ミーナ君」


 ギジェルミーナが俺に警戒を即そうとしたら、あろうことか敵が真正面から出てきた。男二人組で片方はどう見ても頭脳労働派のモヤシ、もう一人は身長が2メートルはありそうな大男だ。その手にはそれよりも遥かに大きい斬馬刀があり、立派な赤い鎧と兜をしていた。


「これはこれはギルベルト侯爵嫡男テリウス様ではありませんか。そして後ろの方は冒険者ランクBのオスロ殿でしょうか?」

「久しぶりだね、愛しい我が姫君、ラレナ伯爵令嬢ギジェルミーナよ!」

「この嬢ちゃんが情報通の伯爵令嬢か」


 ギジェルミーナは相手を確認した途端に口調を変えて、露骨な作り笑顔を見せた。だが、俺には見えた。彼女の眉間に少し皺が寄っていたのを。どうやら彼女はこの侯爵とやらがお嫌いのご様子だ。そんなことは見れば分かるので、正直な話、俺にとってはどうでもいい。


「それよりも、ミーナ。お前伯爵の娘だったのか?」

「……そうよ」


 俺は今更になってギジェルミーナが伯爵令嬢知った。只者ではない事ぐらいは分かっていたが、まさか貴族令嬢、しかも中々な家柄のようだ。あのテリウスと言うモヤシ貴族よりは階級は低いがそれなりに高い地位には居るらしい。


「相手は真正面から来たのか。なら、今のうちに変えておくか」


 俺はそう言って、持っていた斧槍の槌部分を手に取った。回して引いて押して回して引いて。すると切れ目が開いて中から緑色の石が出てきた。魔法『風刃』を仕込んだ魔法具、その根源となるマジックアイテムであった。


「って、いきなり何武器解体しているのよ、フィル君!?」

「ああも真正面から来たんだ。こんぐらいしてもすぐには攻めかからないだろう」


 と言いながら俺はポケットの中から今度は赤い石を取り出して入れ込んだ。他でもない、火属性の魔法を組み込んだ魔法石だ。押して回して引いて押して回して。俺は二十秒もかけずに石の交換を終了させた。その間に向こうの貴族様も襲い掛かってくる事はなく、無事に交換出来た。


≪……フィル君、相手は今までのフィル君と同じパワータイプ。だけど、防御面も相当強化されてるから、フィル君も殺さずの手加減では勝てないと思うわ≫

≪そうだろうな。だから本気を出すために魔法石を変えた≫

≪100%勝てる自信は?≫

≪さぁな≫

≪ちょ、ちょっとぉ!?≫


 俺はそう言って、嫌がる雇い主へ背に向けてダイズを高々と投げ上げた。

 ダイズは25を示していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ