4投目 最悪な筆記試験
三日後、王都は珍しく静まり返っていた。今、この王都に滞在している人たちの命運を分ける日なのだ。
俺は武器庫と化していた隣室から多機能性を重視して斧槍と携帯に便利な十徳ナイフ、短剣、短槍と言った携帯性に優れた武器を選び出して部屋を出た。
そして、宿の食堂に行くと、そこには一人の少女が俺を待っていた。
「やっほー、フィル君。おっはよー」
「……おはよう、ミーナ」
食堂では三日前に出会ったギジェルミーナが待っていた。あの後、彼女もこの宿に泊まって、三日間二人で入学試験に関する対策を練った。練った、と言ってもギジェルミーナが俺に試験内容を教えているだけのモノであった。
「実戦試験はアタシだけじゃどうしようもないから、本当に頼むわね?」
「……可能な限り、頑張るよ」
入学試験の筆記試験の対策法の教授、その代償に受けた事がギジェルミーナと実戦試験でペアを組む事だった。ギジェルミーナは聞く限り実戦は得意じゃないらしい。そんな彼女が実戦試験を乗り越えるのは難しいため、実力のある人を雇うつもりだったらしい。
これは元々、貴族の度胸を確かめるために始めた実戦試験であるため、貴族は大半が優秀な冒険者を金で雇って実戦試験を乗り越える。そのため、この時期は優秀な冒険者が多数王都に詰めよせる事態にもなる。
貴族様は金を落としてくれるのだから、最高の金稼ぎ時なのだ。
「でも、面白そうな人をタダで雇えて良かったわー」
「……こちらとしても有益な事には違いないが」
俺は金よりも今は情報が欲しいので、ミーナに雇われる事にしたのだ。彼女も言っていたが、俺はお上りさん。受かるためのコツとかがあれば是非とも知りたかったし、王都を歩くにも案内役が欲しかったのだ。
「期待してるよ、フィル君」
「可能な限り、何とかするよ」
俺は彼女の言葉に頷いた。俺も師匠と別れてしまった以上、自らの居場所を確保するためにもこの試験は絶対に落ちる事は許されない。何故かある彼女の信頼を裏切らないためにも俺は頑張る。
俺は手に持っていた運命のダイズを投げ上げた。
ダイズには98の数字が書かれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
フォーレスンド王立学園に着いて、俺に渡された受験番号札は3916番、フィルは3917番だった。三日前の行列で前後に並んでいたのもあって、二人は連番だった。4000人受験する今回の試験で使われるこの受験番号札は合弁札となっているので、この番号札がないと合格しても意味が無いので、この札は大切に保管する必要があるらしい。毎年、番号札の窃盗も起きると説明された。
そしてこの番号札を渡された時に持っていた武器は全部学園側に預けた。試験官の中にどう見ても騎士様のような方も居たので、乱暴に扱われることも無いだろう。
「気紛らわせ程度に振るか……」
俺は筆記具と貴重品以外で唯一残ったダイズを高々と投げ上げ、手で掴み取った。ダイズの目は98のままだ。この数字を見て、より不安になった。98となると大体クリア出来る事でも失敗する事があるのだ。
「今の数字はいくらが出たの?」
「……98のままか」
ゴスッ!
俺はそのダイズの数値を見て、地面を殴った。突然の行動で隣に居たミーナは驚いていたが、俺は気にせずにダイズを振る。
「……96。こんな日にダブルで引かなくても良いのに」
「え?えっと……フィル君?」
俺はボヤいた。この数字には時によって偏りがある事がある。70以上が十連続で引いた事もあれば一桁が4回続くなどもある。
「ど、どうしたの、フィル君?いきなり地面を殴ったりして……」
「あ、ちょっとね……」
ついいつもの癖でしゃがんで地面を殴ったモノだから、ギジェルミーナはその行動に疑問を持った。ついいつものように気に入らない数を使わないようにするために地面を殴る行為で消化させたのだが、怪しまれてしまったようだ。
≪そういやそうだ。今はミーナだけじゃないんだ。何とかこの数字を消費しないと……≫
だが、もう二度は出来ない。それでなくても怪しまれるのだから。俺は仕方なく96の数字のまま、筆記試験の教室へと向かったのだった。
今日はどうやら俺にとっての厄日なようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
Q:魔術の基本四属性を答えなさい
A:火・水・風・地
Q:フォーレス王国現王様の名前を答えよ
A:聖上陛下
Q:次の問題に答えよ――馬車に4人の客が乗っていました。二人降りて一人乗りました。その後二人降りて三人乗りました。さて、馬車に乗っているのは何人?
A:5人:馬車の運転手一人を含む
◇◇◇◇◇◇◇◇
時々、引っ掛けのような問題もあるが、これについてはミーナから聞いた事、そのままを書いていく。王様にも名前はあるだろうが、今その人物の事を言う、正式な言い方は『聖上』陛下である。〇〇 △世とか、歴史上でもよく有りそうな名前は諡であり、死後に付けられる名前なのだ。
しっかりと学んできた貴族の子女たちも良く引っ掛かる問題の代表例として知られる問題だ。
ポキ……。
また鉛筆の先が折れてしまった。先ほどから筆記具を落とすとかは当然。思ってもいない字を書いたり、見当違いな数字を書いたりと酷い有様だ。
解答用紙がここまで修正の黒線で埋めつくされた答案も珍しいだろう。
俺は結局、試験時間120分の内30分で回答を終わらせて、残る90分は全部見直しに使った。
文字の書き間違えが20個ぐらい見つかった時は発狂しそうになったが、何とか心を抑えて乗り切った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
この筆記試験に関しては問題無い自信がある。師匠に教えられた事で7割は、それに加えてギジェルミーナに対策を教えられたのもあって、問題無く解けたからだ。
「どうだった、フィル君?」
「問題は無かったかな、見直しも十分出来たし。……見直しで失敗していなければ行けるよ」
そう言いながら、筆記試験が終わった俺は高々とダイズを投げ上げた。
そう、今日の俺は一年に一度あるかどうかの厄日である。こんなミスはしないと思い込みたい、その気持ちを優先している所があったのに気が付いたのはもっと後のことであった。
そう、『名前の書き忘れ』をしていなければ……。
ダイズは99――出る数字で最大の数字――を示していた。
小ネタ程度に。知っている人も多く居られると思いますが。
Q:現在の天皇の名前は?
A:平成天皇……と答える人も多く居られると思いますが、実は違います。正式には『今上天皇』と言います。平成天皇は亡くなられた時に初めて付く可能性のある名前となります。存命中の天皇を元号で呼ぶことは不敬に値する行為とされていますが、昭和天皇以降はニュースなどにおいては黙認される方向にはあります。
某仮面さんも聖上と呼ばれているのも同じ理由だったはず……。
稀にある厄日。その日が丁度入学試験に重なってしまう人、それは居ると思います。
実は私も名前書き忘れをセンター試験でやった事が有ります、……フリガナの欄だったので『直す必要が無い』と言われてそのまま提出して地方の国立大学には受かりましたが。
99%失敗する事の無い、名前記入。それが丁度99の数字の所にぶち当たって失敗してしまったフィルマン。そんな彼は入学試験を無事突破出来るのか!?