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3投目 入学試験準備

 俺は師匠と別れた後、一人大荷物を人力車に乗せて数日掛けて王都フォーレスンドまで出てきた。後ろにある台車にはこれまで作った武器や防具などを一杯詰めた袋が積んである。この中には魔の樹海にて使っていた道具も含まれているため、どうしても捨てられなかったのだ。

 だが、受験する時にこんな荷物は持っていられないので、宿を取って、そこに置くことにした。


「いらっしゃい、お一人かい?」

「ああ。師匠に言われてフォーレスンド王立学園へ受験に来たんだ」

「そうかいそうかい、フォーレスンド王立学園には王国全土から受験者がやってくるからね~。頑張って合格してくれよ~、合格者が宿泊してくれると来年が儲かるんだよ!」

「へぇー。取り敢えず、荷物置きたいから二部屋ほど取れるかな?」

「二部屋かい?無いことは無いけど……お一人だろう?」

「あー、荷物が多過ぎて一部屋だと寝る場所も無くなりそうなので……」


 そう言いながら俺は外に有る台車を指差した。宿屋の女将もその量を見て、驚いては居たがお金もある事を見せ付けると女将は納得して部屋を見繕ってくれた。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 この荷物の中身は武器だらけだった。剣、刀、大剣、細剣レイピア、短剣、十徳ナイフ、槍、矛、薙刀、棍、三叉槍トライデント短槍ジャベリン斧槍ハルバート、斧、金槌、鎌、弩、長弓、クロスボウ、杖、メイス、篭手、ブラスナックルなどなど。適当に名前を上げるだけでもこんなにあるのにこれに加えて武器破壊を目的としたソードキラーや扱いの難しい極細糸スレッドなど、その種類は一つの部屋に収まりきらないほど多くの種類の武器があった。

 これは全部俺の武器で『自作』だ。だが、どれがいいか、どれが悪いかは決められないのでその武器を全部持ってきたに過ぎないのだ。でも、入学試験の時の実技試験にはこれ全部を持っていく訳にもいかない。


「まぁ、今日は入学試験の申し込みだから、護身用にナイフ系統を持てばいいかな」


 そう言って俺は十徳ナイフと短剣を懐に入れて部屋を出た。


「それじゃ女将さん、ちょっと入学試験の申し込みに行ってきます。夜までには戻ると思うので、食事の準備はお願いします」

「あいよ、行ってらっしゃい」


 俺はダイズを投げ上げながら宿を後にした。

 ダイズは29を示していた。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 フォーレスンド王立学園――この国、フォーレ王国に置ける最高の教育機関であり、毎年多くの生徒がこの国の重鎮として雇われる言わばエリートが通う学校として知られている。

 その入学審査についても非常に厳しく、毎年王国全土から受験者が集まるが合格率は10%にも満たないと言われている。


「なんだ、行列は!?」


 その王立学園の前には大量の人の列が出来ていた。これは全員受験者のようで、若いのは俺と同じぐらい、年行った人だともう30歳は超えているような人も受験するようだ。

 その列の一番後ろに着いたが、申し込みをするのはいつになるのか想像も付かない。

 そんな行列を待つ事になったので、取り敢えず俺は手に持っていたダイズを振ってみる事にした。


「今日は……81か。明日一桁になる事を祈っておくかな」

「それって運試し?」


 突然非常に可愛らしい笑顔をキープする顔が俺の後ろから飛び出していた。見るからに身軽そうで、元気が取り柄と言わんばかりな少女だ。赤い色の髪の毛は肩までで切っており、その手には手帳を持っていた。

 その手帳には何か、人名のようなモノでギッシリ埋まっていた。少なくとも数百人ぐらいの名前があったように見えた。

 そんな少女が俺の真後ろに並んだようだ。


「どちらかと言うと、明日に向けてげん担ぎって所かな。このダイズを投げると安心するんだ」

「へぇ~、おかしな人だね」


 俺の後ろに居る少女は率直に感想を述べた。おかしいとは失礼かも知れないが、彼女の言った通り験担ぎをするにしても内容は重要視する人は多い。だが、俺はこの行為を物心付く以前からやり続けていたため、心を落ち着かせるためにもまずはダイズを振ったのだった。


「他人をおかしな人呼ばわりするのは感心しないな……」

「あ、御免御免。それより君は誰なんだい?見る限り冒険者っぽいけど、アタシと同年代ぐらいでここを受ける冒険者は非常に珍しいなって思って」

「俺はフィルマン・ヴィクセル、十五歳。職業はまだない。ここを受験するのは師匠に言われたからだ」

「師匠、ヴィクセル……ふぅん」


 少女はその名前には聞き覚えがあったと言う様子で俺の名前を聞いた。そしてすぐに俺の耳へ手を伸ばして確認してきた。俺がエルフ族であるかどうかを見分けるためだろう。

 どうやら彼女は俺の師匠であるエルフのマルグレット・ヴィクセルを聞いた事があるようだ。


「でも、人間よね……?」

「人の耳を無断で掴んでまでして、他の何に見えると?」

「あ、御免御免」

「その謝罪はもう二度目だ」


 テヘペロと言わんばかりにペンを持った片手を額に当てて、俺に言葉だけで謝った。彼女は悪いとは思っている様子は無く、視線は手帳に向いて、新しい白ページを書き始めた。

 ちょっと覗き見ると俺の事を書いていた。


『フィルマン・ヴィクセル 15歳、身長180cm銀髪碧眼の少年。『完熟者』マルグレットの縁者?師匠が学園を受験するように指示。ダイズ好き?』


「うん、俺の事書いてどうするつもりなんだ?」

「あやや!?書いている事が見られてた!?」

「悪いが見えた。と言うか本人の前で堂々と書くとかどんな勇者だ、お前」

「アタシはお前なんか言う名前じゃありません!」

「……つーか、俺名前知らない」


 ここでようやく俺は彼女の名前を知らない事に気が付いて聞いた。その名前には今後近寄らないようにしようと参考にするためだ。


「アタシはギジェルミーナ・ラレナって言うの。貴方と同じ15歳よ。長いから『ミーナ』って呼んでもらえるかしら?」

「ミーナ」

「うんうん!それでそっちはフィルマン君とでも呼べばいいかな?」

「……フィルでいい」

「分かったよ、フィル君!」


 完全にペースを握る元気一杯の笑顔で俺の名前を呼ぶこの少女にドキっとさせられたので、俺は咄嗟に視線を外して運命のダイズを投げ上げた。

 左手の甲の上に着地した瞬間、右手で上から押さえつけた。


「……24か」

「あれ?これは魔法具か何かですか?ダイズなのに上面しか数字がありませんね、しかも24?先ほどは81とか言っていませんでしたか?」

「うぐっ!」


 気紛らわせに振ったダイズの目をギジェルミーナに見られてしまい、その目に疑問を持たれてしまった。

 24に81。六面しか持たないダイズなのに、3の倍数ぐらいしか関係性の無い数字が記入されているのはおかしいと思ったのだろう。


「こ、これは魔法のダイズで0~99までが出るんだ。本来は振る必要も無く、魔力を込めれば数字は出るんだけど、さっきも言ったように振る行為を験担ぎにしているから」

「ふむ、なるほど……」


 といつの間にかギジェルミーナは俺の手の甲の上にあった運命のダイズを盗って自分の手の内において見ていた。


「ちょっ!?お前、いつの間に掠め取ったんだ、ミーナ!」

「キャー暴力反対ですよー……って叫びますよ?」


 棒読みで叫ぶことを宣言してきたギジェルミーナ。こう見えても多分彼女はそれなりの貴族の家柄なのだろう。叫んで訴えれば裁判で勝つ自信がある、半ば脅し文句のように俺を見透かしてきた。


「………………」

揶揄からかって悪かったわ。ダイズはこの通り返すよ」

「………………」


 俺はギジェルミーナから無言でダイズを受け取った。そんな俺がどう見ても彼女の事を警戒しているのは誰から見ても明らかだった。


「御免、色々と挑発的な事をして」

「………………」

「謝罪……と言っては何だけど、アタシから情報提供を受けてみない?『おのぼりさん』なんでしょ、フィル君は」

「……まぁな」



 これが後の相棒となるギジェルミーナとの何とも言えない出会いだった。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇

~~~ギジェルミーナサイド~~~

  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 アタシの名前はギジェルミーナ・ラレナ。名前は長いから皆、アタシの事を『ミーナ』と呼ぶ。

 アタシは今日、フォーレスンド王立学園の前に居る。他でもないこの学園に入学するためにこの場へと来たのだ。


「冒険者ギルド所属の有力冒険者たちが本当に揃っているわね……。Aクラスは『快傑』シェパードに『激震』ゴンズ、『獄炎』ヘルムート……、いずれも王族と公爵によって雇われているのね。こうして見ると親の『資金力』で実戦試験を乗り越えているようにしか見えないのよね」


 アタシはただ独り言をボヤいた。他でもない、このフォーレスンド王立学園の入学試験の一つ『実戦試験』は二人組で行なう規則になっている。25歳以下の王国に仕える者で無ければ誰でも外から雇い入れた人を相棒にする事が可能である。

 これは元々、貴族の勇気を見るために作られた試験だったのだが、今となっては実績をそれなりに上げた若き冒険者の登竜門、そして貴族側としては冒険者と交渉する最初の場としてお互いの地位を確立する絶好の機会となっている。


「Bランク、『怪力』オスロも侯爵家に取られたのか……やっぱり面白い人は大体上位爵位に取られてるなぁ……」


 アタシは手帳に書いた有力冒険者リストに次々横の黒線を入れていく。そして横戦が大半を埋め尽くした所でアタシは手帳を見るのを止めた。


「もう、いい!こんなリストを作ってでも名のある冒険者と手を組もうと思ったアタシが馬鹿だった!」


 行列を見ながらアタシは自己嫌悪に陥った。Dランクぐらいの将来有望な成長株とペアを組むのも面白いかも知れないし、安上がりではあるが、些か無鉄砲さが目立つ分実戦試験のペアとしては心許無い。

 それぐらいなら、アタシの情報網に引っ掛からないような田舎からの猛者と組んだ方が我武者羅ガムシャラに戦ってくれて、捨て駒には持って来いかも知れない。


「ならば、アタシの知らない顔……出来れば同年代にでも声を掛けてみようかな?」


 半ばヤケクソな状態になった私は見たことも無い人物を探し始めた。この行列に並んでいる人たちはほぼ全員ペアが居るので除外。そして冒険者たちを除くと私の知らない人物はそれこそ、道端で遊んでいる子供ぐらいだった。


「……こういう時、自分の情報通さを恨むなぁ」


 アタシは昔から人の事を知るのが大好きだった。表面的に顔や名前を知る事も、接してその内面を知ることも大好きだった。例え知った結果が非常に醜くあろうと、アタシは知る事に後悔はしない。

 今、アタシの手帳には王都に住む5万人の内の3万人の情報とこのフォーレ王国に居る冒険者5千人の情報が詰まっている。これほどの情報があると知らない人物の方が圧倒的に少なかった。


「なんだ、この行列は」


 そんな時、一人の少年が声を上げた。彼は180cmを超す長身とこの人混みと行列の中で一人だけ銀色の髪をしていた。


「……誰だ、コイツ」


 行列に驚く素振りを見る限り、ここに来たのは初めてなのだろうが、余りに特徴的な銀髪は噂に聞かない方がおかしい。そんな彼は周囲に流される事無く、手に握っていたダイズを高々と投げ上げた。こんな人混みで彼のやる行動がいきなりお遊びだった事にアタシは興味を持った。


「今日は……81か。明日一桁になる事を祈っておくかな」

「それって運試し?」


 取り敢えず話し掛けてみた。投げ上げたのが6面ダイズな筈なのに、81なんて言う突拍子の無い数字を口にしていた。これは余程の大馬鹿者か逆に大当りかも知れない。アタシは興味半分、期待半分で彼と話をしてみる事にした。


「どちらかと言うと、明日に向けてげん担ぎって所かな。このダイズを投げると安心するんだ」

「へぇ~、おかしな人だね」

「他人をおかしな人呼ばわりするのは感心しないな……」

「あ、御免御免。それより君は誰なんだい?見る限り冒険者っぽいけど、アタシと同年代ぐらいでここを受ける冒険者は非常に珍しいなって思って」

「俺はフィルマン・ヴィクセル、十五歳。職業はまだない。ここを受験するのは師匠に言われたからだ」

「師匠、ヴィクセル……ふぅん」


 彼、フィルマンの名前を聞いた時、そんな名前など知らなかった。だが、ファミリーネームの方は聞き覚えが一つだけあった。『完熟者パーフェクター』マルグレット・ヴィクセル。この王国内最難関であるこのフォーレスンド王立学園に受験しろと言うぐらいの師匠でヴィクセルとなると彼女しか居ない。

 だが、彼はどう見ても人間。エルフやドワーフと言った長寿族では無い。


 アタシは念の為に彼の耳を直接確かめてみた。耳が大きく尖っているのがエルフの特徴だが、その特徴は無い。


「でも、人間よね……?」

「人の耳を無断で掴んでまでして、他の何に見えると?」

「あ、御免御免」

「その謝罪はもう二度目だ」


 アタシは当然、謝る気など無かった。貴族である以上、平民にどうでもいい事で頭を下げる気もアタシには無かったからだ。抗議する彼を無視してアタシはメモ帳に彼の事をメモし始めた。堂々と彼に見えるように書いて彼の様子を伺った。


「うん、俺の事書いてどうするつもりなんだ?」

「あやや!?書いている事が見られてた!?」

「悪いが見えた。と言うか本人の前で堂々と書くとかどんな勇者だ、お前」

「アタシはお前なんか言う名前じゃありません!」

「……つーか、俺名前知らない」


 彼の前で『マルグレット』の事の記述を書いても彼は眉一つ動かさなかった。逆にこの無反応さがアタシは気になった。だからアタシは自分の名前を答える事にした。


「アタシはギジェルミーナ・ラレナって言うの。貴方と同じ15歳よ。長いから『ミーナ』って呼んでもらえるかしら?」

「ミーナ」

「うんうん!それでそっちはフィルマン君とでも呼べばいいかな?」

「……フィルでいい」

「分かったよ、フィル君!」


 そう言ってアタシは社交パーティーで鍛え上げた最高の作り笑顔で彼を見た。すると今まで無反応だった彼が突然手に持っていたダイズを投げ上げた。先ほど、落ち着くためにダイズを投げていると言っていたからアタシの作り笑顔にはしっかり反応したらしい。コイツはウブだな、とアタシの心の中のメモ帳に書き加えた。


「……24か」

「あれ?これは魔法具か何かですか?ダイズなのに上面しか数字がありませんね、しかも24?先ほどは81とか言っていませんでしたか?」

「うぐっ!」


 一度見せた動揺は人を容易く崩壊させる。まるで別人のように隙だらけになったのを確認してアタシは彼からそのダイズを盗み取った。


「こ、これは魔法のダイズで0~99までが出るんだ。本来は振る必要も無く、魔力を込めれば数字は出るんだけど、さっきも言ったように振る行為を験担ぎにしているから」

「ふむ、なるほど……」

「ちょっ!?お前、いつの間に掠め取ったんだ、ミーナ!」

「キャー暴力反対ですよー……って叫びますよ?」


 アタシは彼を脅迫まがいに棒読みで言った。当然、こんな面白い人は逃す訳にも行かないので、訴えるつもりは甚だ無い。

 だが、彼は対抗手段を失ってしまったのか、黙りこんでしまった。


「………………」

揶揄からかって悪かったわ。ダイズはこの通り返すよ」

「………………」

「御免、色々と挑発的な事をして」

「………………」


 ダイズを返すとこのアタシを天敵を見るような目で見てきた。そろそろ彼にアメでも与えますかと思い、アタシは彼に提案した。


「謝罪……と言っては何だけど、アタシから情報提供を受けてみない?『おのぼりさん』なんでしょ、フィル君は」


 このウブな少年は様々な情報があれば化けそうだ。アタシのパートナーにも丁度良いし、上手くいけばあの『マルグレット』に近付けるかも知れない。

 こうしてアタシは冒険者ではなく、彼を『情報』と言う代金で相棒として雇う事にしたのだった。

7/22大幅加筆。ギジェルミーナサイド追加。+2000字ぐらいしました。

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