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2投目 運命のダイズ

 カン、コロコロ……。

 俺は『運命のダイズ』を振った。そこには16の数字が出ていた。


「今日は結構ツキがある日かな」


 これは俺が魔力を込めると0~99の数字が出ると言う不思議なダイズだ。実は転がす必要など無いが、これは昔からの癖なのでこのダイズを使う時は何時も転がしている。昔使っていたダイズより遥かに細かい数字が出るこのダイズを渡されて以来、暇があれば振る癖がついた。


「どうだい、フィル。今日の調子は?」

「あ、師匠。鍛錬は順調ですよ」


 俺は師匠に呼ばれて、立ち上がった。フィルと言うのは俺の呼び名だ。フィルマン、略してフィルである。

 十五歳になった俺は身長も180cmを超える巨躯な体と薄い銀色の髪を有していた。この銀色は染めたモノだ。村の壊滅後、精神的なショックを受けた俺は薄い茶色の髪に色素が抜けた白髪が部分的に混じった状態になり、これを良しとしなかった師匠が俺の髪を銀色に染めてしまったのだ。

 銀色なのは師匠が目立った方が良いと言う事だけで決めた色だ。

 八年も銀髪にしていれば流石にこの色に慣れてくるので、俺ももう髪の色を気にしていなかった。


「それじゃ今日はあの木を倒しなさい」

「了解です」


 俺は師匠に太さ3メートルほどの大樹を倒せと言われて頷いた。俺たちが今居る、フォーレス王国西部に広がる魔の樹海においてはそこらへんにあるような木だ。

 切り倒すと言う訳ではないので、俺はありとあらゆる手段を使う事を許されている。


「土壌を緩くするには広範囲が必要だから論外、斧を強化して切り倒すには幹が太すぎて難しい、となると……燃やすか!」


 俺はそう考えてダイズを投げた。そこには先ほどと変わらない16の数字が出ていた。


「これならやれるな!……燃え失せろ!」


 俺が燃えろと木の幹の一部にイメージする。

 すると幹の一部から煙が上がり始め、幹の一部がメラメラと音を立てて燃え始めた。それどころか、根元の幹からは白い炎が上がっていた。この白い炎は火属性の魔法が完全に行使出来ている証拠でもある『浄化の炎』と呼ばれる技だ。

 俺のこの魔法の成功率は体感60%。魔法のダイズを振って60より低かった時にこの魔法を使うと必ず成功した。逆を言えば、60以上の数字が出ると必ず失敗したのだ。


「さっき出た目は16。『浄化の炎』なら問題無く使える確率だな」


 この『浄化の炎』は師匠に教えられた技であるが、発動成功率60%では一人前の魔法士とは言えない。他にも俺は複数の上級魔法なども教えられたが、いずれも発動成功率は30%や50%など軒並み低い値でしかない。

 一流なら百発百中であるべきなのに、そんな確率に左右される魔法士など『欠陥品』でしか無い。


 メキ、メキメキメキメキ……ズドドーン!


 大樹は幹の一部を失った影響で自重に耐えられなくなり、燃やした場所からボッキリと折れた。


「よし、今日も師匠の依頼をクリアっと」

「おー、おー、相変わらずしっかりと成功させてるわね、フィル」

「今日は16が出ましたが、課題はあくまで木を倒すと言う事でしたので、浄化の炎を使いました」


 音を聞いて俺の目の前に姿を現した師匠マルグレットを俺は迎えた。金髪と長耳が特徴の、所謂エルフ族と言う長寿種の人だ。外見は20代の女性と大差無いが既に150歳を超えているらしく、この世界では多種多様な魔法や体術を会得した、数少ない『完熟者パーフェクター』と呼ばれる天才魔法士でもある。

 そしてその外見の美しさから度々求婚された事もある事からか、彼女はこの魔の樹海に隠居していた。


 俺は師匠に数字について、いつもと同じように報告した。『今日は78だった』とか、『今日は41だった』とか。16は非常に成功確率の高い部類に入る数字だ。


「今日も無事成功かー。流石はフィルだね。フィル以外だと間違いなく魔法士として心折れてるよ」

「そうですね。俺もダイズ無しでは生きていけないと思いますし」


 そう言って俺は手元にあるダイズをもう一度振る。今度は93と言う数字が出た。とても高い数字で俺が9割以上の成功するような事で無いととても使える技ではない。

 俺は数字を確認した後、地面を思いっきり殴った。地面は何も動く事は無く、俺の拳にその衝撃が伝わった。


「いてぇ……」

「ああ、あまり良くない確率を引いたのね。その確率の消費方法、もう少しマシな方法には出来ないのかな、フィル?」

「あったらそれをやってますって。これが一番安定して無駄消費出来る方法ですから」


 そう言いながらもう一回運命のダイズを投げた。すると今度は48と言う数字が出た。成功率ほぼ5割と考えると少し不安な数字かも知れないが、さっきの93よりはマシだった。


「今度は48か。まぁ、これで良しとするかな」

「まぁ、何十回も地面殴ってその数字を吟味するとフィルの体が持たないしね」


 残念ながらと言わんばかりに両手を横に広げる師匠を他所に俺は自分のダイズを握り締めた。




 ――ここでこの『運命のダイズ』の効果について説明しようと思う。


 これは元々、俺が持っていた0~9の不良品ダイズを魔法的に高精度にしたモノだ。師匠が昔、興味本位で買った魔法具だったのだが、使い道が分からずに放置していたのを俺にくれたのだ。

 効果は単純で俺がそのダイズを振ると0~99のどれかの数字が出てくる。この数字が何かと言うと俺が『次にやる行動』の成功条件を指しているモノだと今の俺はそう理解している。


 例えば、師匠に教えてもらった魔法の一つ『浄化の炎』の成功確率は先ほども言った通り60%ほど。

 そして俺はこの魔法を発動する時、直前にダイズを振った数字が『60』より低ければ全部発動に成功するのだ。逆に『60』以上だと必ず失敗すると分かるのだ。

 高ければ失敗しやすく、低ければほぼ必ずと言ってもいいほど成功する。それを教えてくれるダイズなのだ。


 師匠はこの数字の事を『乱数』と言った。世の中において物事の事象が成功するか否か、それを決める『確率』を施行するために用いられる世界の数字だと。そして、俺はこの運命のダイズを使う事でその『乱数』と言うモノを見る事が出来た。その乱数で俺の挑戦行為の成否は全て決まっていた。だから、俺はその乱数を吟味すれば何だって出来る。

 例え成功率1%の事をやれと言われてもその乱数が『0』だった時に行なえば成功してしまうのだ。


 ちなみに、俺が地面を殴った件についてだが、これはこの『乱数』を変動させる一種のおまじないだ。様々な手段を試した中で自力で最も簡単に変動してくれた手法だったため、気に入らない『乱数』だった時は地面を殴って変えると言うわけだ。多い時は一日に数十回殴っていた事もあり、俺の右拳の皮は既に固くなってしまっていた。



 その性質を即座に見抜いたのは俺の師匠マルグレットだった。彼女は俺をこの九年で『未熟者クォーター』として作り上げたのだった。『未熟者クォーター』――これはありとあらゆる分野に手を出して、どれも中途半端になってしまった愚か者を師匠のような『完熟者パーフェクター』と比較して半人前でも無い論外としてそう呼ぶようになった。


「仕方ないでしょ、九年なんて非常に短い期間スパンで貴方を育てたんだから。使い物になるだけ感謝しなさいよ。エルフ族だったら五十年掛かるのよ!」


 マルグレットはそう言っていた。本来、『完熟者パーフェクター』を育てるには超長期に渡って綿密に教えこんで初めて出来るようになると言われており、今現在、『完熟者パーフェクター』と呼ばれるのは彼女のようなエルフ族を筆頭とした長寿族だけで人口の多い人間族では教育期間が不足して存在しないと言われている。


「って、事でフィル!貴方の実力を人間の学校で試してきなさい!」

「……え?」

「ここからはその『運命のダイズ』を使って実社会にて生きてみなさい。私が即席で教えられる事は全て教えたから」

「ええっ!?」


 俺は驚くしか無かった。ただただ、師匠が教えてくれた事を鵜呑みにする毎日だったが、それは非常に充実したモノであったため、至極驚いた。


「こらこら、永遠の別れじゃないんだ。たった三年。その間で私を驚かせるような好青年に育ってくれよ、フィル!……このお金は今後生きるための駄賃だ」


 そう言われて俺は師匠から金貨が一杯詰まった袋を受け取った。


「さぁ、行くと良い、フィルマン・ヴィクセル!私の愛しい弟子よ!」

「はい、ありがとうございました、師匠!」


 そうして俺は森を後にしたのだった。この時に振った運命のダイズは48のままだった。

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