1投目 不思議なダイズ
連続投稿します。
主人公の投げるダイズは目が大きいほど良くなく、小さいほど良いと言う設定になっています。
フォーレス王国南部、帝国との国境近くにある、名も無き小さな村。
そこの村人たちは毎日畑を耕して、牛を飼い、ただただ過ごすだけな生活を送っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「君っていつもそのダイズを持っているよね?」
「うん」
僕はそう言われたので、彼にダイズを見せた。単純に網を丸くして牛の皮を張って、0から9の数字を書いただけで均一性の無い十個の頂点があるだけのダイズ。
彼が振っても、出る目はいつも5の目だけ。どんな人がそのダイズを振っても5が出るのだ。いわゆる不良品ダイズなのだが、僕にとっては不思議なダイズだ。これは僕が覚えている限り、ずっと僕の手元にある品だ。
「絶対そのダイズ、捨てた方がいいって。ダイズの役目なしてないから!」
「ご忠告ありがとう。でも、僕が振ると色々な目が出るんだ」
そう言って僕がそのダイズを振ると9の目が出た。他の人がそのダイズを振っても5しか出ないのに、僕が振る時だけはコロコロ数字が変わった。
「今日は9かー、運が良くないみたいだ。石取りゲームはやめておくかー」
そう言いながら、僕は畑から村に戻っていった。
石取りゲームと言うのは今、村の子供で流行っている20個の石を先攻後攻を決めて1~3つ取りあい、最後の石を取った方が勝ちと言うゲームだ。当然必勝法はあるが、6歳の子供にその必勝法が分かる訳がなかった。
だから子供たちはこの石取りゲームでおやつを賭けるのがブームだった。
畑から村へ戻る最中の道で見た事も無い人が居た。見た事も無い黒いローブを着た見上げるような人物。その手には大きな杖があって、見るからに魔法士であると言わんばかりの風貌だった。
「うわっ、あれが魔法士?初めて見たよー、あんな人っているんだね~」
「魔法士って言うと、このフォーレス王国でも最強の一角を担う人だよね?すごい人なんだよね?」
「そうだね」
「どうしてこんな所に居るんだろう?」
「さぁ?明日も居たら聞いてみようぜ」
僕はその人が気になりつつも家へと帰った。もうすぐお昼の時間で、母親が食事を用意してくれているからだ。何故その人がここに居るのか、分かるはずもなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「て、帝国だ!帝国軍が来たぞ!」
その日、その声を最後に村は住民の悲鳴と兵士の罵声に包まれた。
「うわぁぁぁっ!」
「こ、こっちに来るな!王国の兵士は何処に行ったんだ!?」
「知らねぇよ!逃げろ~っ!!」
「おい、お前等!マルグレットを何処にやった!?」
「マルグレットって誰だ!?」
「知らぬとは言わせんぞ!!」
そう言って、ブリス帝国の兵士たちは答えられる筈もない村人たちを殺し始めた。
住民たちは無理難題を言われて、次々と帝国の兵士によって殺されていった。老若男女、誰彼構わず皆殺しされていく様子はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
「9の中でも最悪の出来事が起こったらしい……僕はどうすればっ!」
まだ六歳の僕に何かが出来るかと言われても不可能だ。表に出ても兵士に殺されるだけ。ならばと思い、僕は家の近くにあった小さな落とし穴のような場所に逃げ隠れた。ただ怖かった。生きるために僕は一人逃げた。
帝国の兵士が去るまでずっと僕は隠れていた。息を殺して、何度も何度もバレそうになったが、人の声がドンドン遠くなるのが分かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして人の声が聞こえなくなった時、僕は外に出た。
何時間経過したか分からないが、外はすっかり星が出るほど暗くなっており、村は文字通り壊滅していた。僕は両親を探してみたが見つからず、友人を探してみても見つからない。
そこにはただ、赤い色の液体とバラバラになった人の残骸が残っていた。
「……皆~、どこ行ったの~?」
僕は声を出してみるが誰も反応しない、反応する訳もない。そう分かっていても僕は声を出し続けた。
「ん、生存者が居たのか!」
そんな声が聞こえて、黒ローブが僕の前に姿を現した。他でもない、昼間に道で見かけた黒ローブを着た魔法士だ。フードを取って僕を見るその人の顔には水の筋が出来ていた。
「貴方は……魔法士さん?」
「そうね。君は?」
「僕?僕はフィルマン。あの村に住んでるの」
「御免なさい、貴方の村を守れなくて……!本当に御免なさい、私が責任を持って見るから」
この時、僕は彼女がこの村の近くを通ったがために帝国軍が襲ってきた事を知るわけも無かった。
そしてこれが僕と師匠マルグレットとの出会いだった。
主人公:フィルマン(Firmin)
師匠:マルグレット・ヴィクセル(Margret Wicksell)
名前は人名メーカーで作成。主人公はフランス語、師匠はスウェーデン語で作成しました。