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世界シリーズ番外編

見えない世界の心

作者: 448 23

「どうして、どうして何も起こらないの!」

 断崖絶壁、前には波打つ海のみ。そこで女は嘆いていた。

 女はオード一族だった。彼女はオード一族の使命を捨てたも同然だった。旅をともにする男を愛で、自分が世界のために死ぬことを拒んだ。方法は、生贄だった。神聖なる教会で育った子供たちを、20人。オードである自分が消えるのではなく、彼女自身が用意した生贄で世界を救う。それが、できない。

「どういうことなのよッ! ワタシには出来るはずだわ! ワタシこそ神聖なる存在、オード一族なんだから!」




「早急に決めよ、主よ」

「……第73世界『シータル』のオード一族『エレシナ』を、消滅させよ」




 海水が、浮かんだ。嘆きまわっている女は、自分に襲いかかろうとしている海水に気がつかない。そのまま彼女は飲み込まれた。喰われるように。侵されるように。

 女は悲鳴をあげることなく、海水に溶けていった。



「……へぇ」

 銀世界――読んで字の如く、銀世界だった――を管理する少女が呟いた。そんな彼女の前には、液体。

「随分と好き勝手やったみたいだね、オード?」

 よいしょ、と立ち上がって右手を液体の後ろに翳す。すると現れたのは白と黒。

 使命を終えたオードが選ぶ、二つの世界。

 少女が白へと歩んでいくと、その後ろを液体がついていく。

「君みたいな大馬鹿者には、不幸(しあわせ)をあげるよ。不幸(しあわせ)っていうのはね、とても辛いものなんだ」

 彼女が言葉を紡いでいると、液体は白の中へ埋もれていった。それでも、少女は言葉を紡ぐ。

「そばにありすぎて、当たり前になっていくの。そうして、幸せ(ふこう)を望むんだ。不幸(しあわせ)を、幸せ(ふこう)と感じてしまうから。潰されるといいよ。最高の不幸(しあわせ)にね」

 少女が消えた。そこにあるのは、意思のない銀だけだった。




 これは、思いの物語。そばにあるからこそ、何よりも辛い。


 黒い世界にて。

 不幸(しあわせ)に埋もれた少年がいた。

 でも、彼にとってはそれは関係ない。

 仲間がいる世界こそ、彼にとっての『幸福』だから。

 『幸福』の味は、いつも心の中に。

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