とある世界にて
この小説は、縦書き[PDF]で読むと、今少し読み易くなるかもしれません。
かつて、たった一日で世界を三度焼き尽くす大災禍があった。
後の世で断罪の天焔と謳われる大災禍は地表の大部分を灰燼にし、興隆を誇っていた人類の文明社会を崩壊させた。
だが、これだけで惨劇は終わらなかった。
文明を焼き尽くし、地形をも変えた圧倒的な破壊は自然にも急激な変化をもたらしたのだ。
全世界で起きる天変地異。
空を覆い尽くす塵芥、大地を揺るがす地震、巨壁のような津波、全てを薙ぎ払う嵐、怒りを噴くように燃える火山、降り注ぐ雷の群。
辛くも生き残った人々は世界の黄昏を体感せざるを得なかった。
そして、全てが落ち着きを取り戻した後、残されたのは瓦礫に溢れ、砂塵が吹き荒ぶ大地。
数え切れぬ同胞と経験をなくし、蓄積してきた叡智と技を失い、星全てに広がっていた社会の礎を潰された人類は、世界の変容に抗うことができず、生存圏を縮小させていった。
未曽有の苦難に陥る人類に、更なる苦難が襲い掛かる。
突如として、これまで見たことがない異形が現れて、その獰猛な牙を剥いたのだ。
甲殻蟲。
後にそう呼称される異形は人類を容易に上回る個体能力……頑強な外骨格に身を包み、過酷な環境にも耐える強靭な生命力と人類を殺戮して捕食する貪欲な食性、種を存続させる為の旺盛な繁殖力によって、数多くのモノを失った人類を圧倒し、世界に覇を唱えることとなる。
甲殻蟲に劣勢を強いられた人類は、この人類の天敵とも呼べる恐るべき脅威に対抗する為、元よりあった地下避難都市だけでなく、人の生存を許す場所に植民都市を建設。
これらを拠点とすることで、甲殻蟲による襲撃のリスクを分散し、種の存続と保存を図った。
それと同時に、甲殻蟲が世を謳歌する現況を覆し、再び人類が世界の頂点に立つべく、大災禍による消失を免れた知識と技術、更には、古くより伝わる神秘や秘儀をも結集して、新たな技術を創りあげる。
魔導。
それは隠されてきた神秘と培われてきた技術との融合体。
魔力或いは根源力とも呼ばれる力……『有機無機を問わずに万物が存在する為に有する根源的な力』を使用する魔法。その術である魔術と既存科学の機械技術とを融合させ、生み出された新たな文明の礎である。
この魔導が人類社会に普及し始めたことで、人類は徐々に甲殻蟲に対抗できるだけの勢力圏を形成していき、魔導機なる新たな武具の登場をもって、人類は生存圏の拡大と甲殻蟲の根絶を目指して反撃を開始する。
以降、甲殻蟲と人類は己が生存圏の確保又は拡張の為、一進一退の攻防を繰り広げることとなり、変容後世界の日常となった。
それから、幾ばくかの時が流れ……。
人類と甲殻蟲との生存競争は決着がつかぬまま、相変わらず続いている。
だが、人類はやはり人であることの業からは逃れることはできず、己の欲望……自身の幸福と自らが属するコミュニティの繁栄を求める為、人同士でも相争うことになる。
これより綴るのは、そんな世界での物語。
12/01/15 改題
12/03/24 前書きの追加及び本文内表記を一部修正
12/04/21 レイアウト調整
15/07/14 改訂