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◆07:隘路に猟犬押逼る

 それから、二人の奇妙な共同生活が始まった。


 午前から昼にかけては朱の店の配達と皿洗いを手伝い、夜は妖艶な少女サラに化けての美人局の真似事。そしてそれらを乾史がボディーガードする。


 実際のところ、乾史の仕事というものはほとんどなかった。そしてそれは、二人としてもありがたいことだった。すなわちそれは、『狂犬』乾史の名が、他のチンピラ達に恐れられているなによりの証だからだ。


 『狂犬』がサブロウに肩入れした。


 その情報は裏通りにさざ波のように広まり、サブロウは今までのように仕事中に他のチンピラから因縁をつけられると言うことが極端に少なくなった。乾史が側にいるだけで、厄介事の方が避けていってくれるのだ。


 まれにヤクザや、タチの悪い客に絡まれることもあったが、その時には乾史が存分に力を発揮した。たいていの相手は、直接殴るまでもなく、手近の石の一つも叩き割ってやれば素直に話が通った。


 ねぐらに戻れば、サブロウは熱心に自分のやりたい事を語った。


 ゆくゆくは何か自分で商売をしてみたい。そのためにももう少し色々なアルバイトを経験したい。金が貯まったら、もう少しいいところに引っ越したい。


 それに対して乾史が、じゃあお前料理が得意だから、食い物に関係した仕事をしろよ、そういやこないだ押しかけ用心棒をやったカラオケ屋の店長がバイトを探してた、などと答える―――そんな他愛のない会話。


 ゆるやかな時間が過ぎていった。台湾系の人々が根を下ろすこの街にも、四日、五日と経つうちに馴染んでいく乾史だった。


「じゃああっしはこのビルの中を配ってきちまいますんで」


「おうよ」


 今日もサブロウは弁当の詰まったバットを抱えて、雑居ビルの中を昇っていく。


 この小さな雑居ビルの階段は狭く、バットを抱えたサブロウが通れるギリギリの幅だった。乾史は並んで歩けないので、表でまたいつものように百円玉を取り出してもてあそんでいる。


 もうこの光景も、いつしか珍しいものではなくなっていた。


 一昨日にはこの雑居ビルの中に入っている街金とも一悶着あったのだが、たまたま相手が乾史の顔を見知っていたこともあり穏便にすんだ。だからこのビルの中に関しては、乾史もサブロウも警戒を緩めていたのだが。


「へい、じゃあいつものように、食べ終わったら食器は出しておいて下せえ。また伺います。……はい。それじゃ」


 バットを降ろし、ビル内の各店子へ弁当を配り終えたサブロウが共用廊下に出たとき。唐突にその腕をつかまれた。


「なに…」


 完全に不意をつかれた。抵抗する間もなく、上方向に引っ張り上げられる。小さな共用廊下はそのまま階段に直結しており、上り階段に身を潜めていた誰かが待ち伏せていたのだった。


 階段を上に。ここは五階。これより上の階はない。薄暗い視界に光がさしたかと思うと、サブロウはコンクリートが剥き出しの屋上に転がり出ていた。


「痛ぅ……誰だよいきなり、」


 そこまで口に出して、硬直する。気がつけば、サブロウは男達にずらりと取り囲まれていた。


 いずれもチンピラ特有のだらしない服装、卑屈な目線と、各々の手に握られた、角材、鉄パイプ、バイクのチェーン、メリケンサック、そして大振りのナイフ。


 人数は、サブロウを階段から無理矢理引っ張り上げたチンピラも含め、ちょうど十人。そのうちの二人ばかりに、不幸にもサブロウは見覚えがあった。


「ようサブロウ。一週間ぶりじゃねえか、アア!?」


 顎に湿布を貼り付けた宇都木と蟹江。サバイバルナイフと鉄パイプを構えた二人が、脂ぎった復讐の光を目に浮かべ、こちらを見下ろしていたのだった。


 下り階段へと繋がる扉が、荒々しい音を立てて閉められる。立て付けが悪いのか、手荒な扱いに扉が甲高い抗議の声を上げた。


 その悲鳴を無視してチンピラ達が蹴りを叩き込む。耳障りな音を立てて、ようやく扉が閉まった。


「この扉は錆びててな。よっぽど力を入れねえと閉めらんねえし開けらんねえ」


 宇都木の声に呼応して、蟹江が鉄パイプで扉をがんがんと叩く。


「わかるか、ンン?てめえはもうどうやっても逃げられねえって事だよ。下にいる犬神のヤロウが気づいても、もう、てめぇを助けには来れねえ」


 復讐心渦巻くチンピラが仲間を連れて報復にやってきたとなれば、状況としては最悪の部類だ。


 だが、サブロウは宇都木の口上を危機ながら、引っ張られたのが弁当の入ったバットを降ろしていた時で本当に良かった、などとぼんやり考えていた。


 万一弁当をひっくり返しでもしたら、朱姐さんの雷が落ちることは間違いない。恐怖を感じるとすればむしろそちらの方だった。


「おいサブロウ、聞いてんのか、エエ!?」


「あの。あっしをボコにする分にはうまくいくでしょうが」


「あン!?」


「その後、下で待っている乾史のアニキはどうするつもりなんで?」


「―――あ」


 考えていなかったらしい。何とも気まずい沈黙が場を支配してしまった。


「う、うっせぇ!!てめぇはまず自分の心配でもしやがれってんだボケェ!そうだ、来れたとしても、この人数と武器を相手に勝てるわけがねえ!!」


「いいや。勝てるぜ?」


 横合いからかけられる声。それは、ここにいるはずのない、いてはいけないはずの少年の声だった。宇津木が安物のブリキ人形めいた動作で首を曲げる。


「ようサブ。オセエんでむかえに来たぜ」


 屋上の塗装が禿げて錆びついた手すりに、犬神乾史がもたれかかっていた。


「早くしねーと、おばはんがまたキレるぜ」


「いやむしろ、その呼び方のほうがマジギレされますよアニキ」


「バーカ、本人の前で言うかよ」


 にやりと笑う乾史。それを唖然と見つめる宇都木の表情は、まさしく蜂に刺された猿といった態。


「どど、ど、どうやってここに来やがった!?五階だぞ?入り口はないんだぞ?オイ?」


「ああ。このくらいならジャンプすれば届くぜ」


 冗談、を言っている表情ではなかった。宇都木が眼を剥く。あり得るはずがない。


 五階の屋上となれば、単純な高さで二十メートル近くになる。そんなもの棒高跳びの金メダリストにだって無理な話だ。きっとそうだ、何かトリックをしかけたに違いない。


 かたや乾史はといえば、宇都木と会話をするのも面倒くさいと言った調子で、自分を取り囲んだ凶器と凶漢の群れを見渡して言った。


「……で。話をもどすけどよ。そんなんでマジでオレに勝てるつもりかよ?」


 今さらに思い出す。ドスを持ったヤクザ十人をのした伝説。そして、コイツはいまどうやってここに昇ってきた?様々な考えが脳裏でうずまく。


 が、結局宇都木は、考えることを止め、己の常識にささやかな期待を上乗せして判断を下した。


「……ハッタリだ!やっちまえ!!」


 武器を持った十人が、一斉に殺到する。


 


 百円玉を握る。


 血がたぎる。たちまち研ぎ澄まされていく感覚。


 チンピラどもの動きがスローモーションに感じられた。


 後は単純だ。


 まずは手前、角材を振りかぶっている男の顔面に右で一発、そのまま突進の勢いを殺さず、鉄パイプを持っている男にすれ違いざまに顔を引っかけるように左でフックをお見舞い、そのまま突進を止めることなく、終点の位置にいたナイフを構えた男に、飛び蹴りをたたき込みつつブレーキとする。


 ここまででワンアクション。


 これをチンピラ達の時間軸に立って言うなら、”暴風が通り過ぎた瞬間三人が宙に舞った”とでも形容するよりない光景だった。


「あと、七人」


 拳を突き出し乾史が宣告する。宇都木と蟹江はともかくとして、他の五人は初めて異様なまでの乾史の強さを見せつけられ、明らかにたじろいだ。


 この時点で勝敗は決したも同然だった。車のギアと同じだ。喧嘩の勢いは、一度止まってしまったらそこから再度加速させるのは容易ではない。


 乾史が腰の退けたチンピラ達の中央に、炸裂弾のように飛び込む。右手と左手で、それぞれチンピラの襟元をむんずと掴むと、胸元に思いっきり引き寄せた。


 チンピラ同士の頭が高速で衝突し、硬質の音が一つ。二人が完全に昏倒する。


 そのまま持ち上げ、二人を左右それぞれへ突き飛ばす。人間離れした力で突き飛ばされたチンピラは、仲間を抱き込み、屋上の手すりまで吹っ飛んだ。下敷きになったチンピラが頭を打って昏倒。


「わあああああ!!」


 やぶれかぶれにチェーンを振り回すチンピラ。その懐にあっさりと踏み込んで右フック一閃、沈黙。


 これで五人。


「あと、二人」


 宇都木と蟹江の顔が恐怖に引きつる。反射的に逃げ出そうとし辺りを見回し……ここに逃げ場が無かったことを思い出した。


「おめーらがここを選んだんだからな。ジゴージトクってヤツだぜ」


「こんのクソガキいい!!」


 吠える蟹江、突進。


 ひらりと身をかわす乾史。勢い余ってたたらを踏む蟹江。


 振り返ってみたものは―――視界の下端すれすれに、潜り込んだ乾史の顔。


「…………!!」


 たわめられた仕掛けバネが跳ね上がるような、激烈な下からのボディーブロー。一瞬、八十キロを越える蟹江が宙に浮いた。


 引き抜かれる拳。腹を抱えて、気絶も出来ず悶絶する蟹江。


「犬神ィィィイ!」


 サバイバルナイフを両手で構え、宇都木が雄叫びを上げる。


 しかし哀れにも、その下半身は持ち主を裏切り腰くだけ。ぶるぶると震える、なんとも無様な姿だった。


「てめーにひとつ言っておく」


 コインを握った右拳を左掌に打ち鳴らし、のしのしと乾史が近づく。


「今後、如月佐武朗にちょっかいかけるヤツは―――」


 来るな、来るなとめったやたらにナイフを振り回す宇都木。距離が近づくにつれ、ナイフの速度が上がり軌道が乱雑になる。


 そして、堤防が切れるように、パニックが宇都木を支配した。


「―――ヤクザチンピラかかわらず、まずこの犬神乾史に話を通しな」


 撃ち込まれる右ストレート。


 綺麗に顔の下半分を直撃した拳に前歯と鼻骨を粉砕され、宇都木は完全に沈黙した。





 打ちっ放しのコンクリートに、錆びた手すり。そこにバラエティに富んだ格好で均等にばらまかれたチンピラ達の姿は、上空からなら前衛的なアートと解釈出来なくもなかった。


「これでようやく用心棒らしいハタラキが出来たってもんだぜ」


 ああくそ、でも帰りは飛び降りるってわけにはいかねえな、などとと呟く。


「ありがとうございましたアニキ」


「いいさ、これがケイヤクだかんな」


 そういいつつポケットに手を突っ込んで、一つ舌打ち。


「ああ、百円がもう少なくなってきちまった……なあ、持ってねえか?」


「え、急にそんなこと言われても」


 慌てて紐付きがま口を取り出し確認する。だがそこには運悪く百円玉は入ってなかった。


「あの、これしかないんスけど……」


 サブロウが手を出す。そこに乗っていたのは、五百円玉だった。


 しかもすでに普及した金色ではなく、二十世紀の遺物、古くさい銀色のそれだった。


「ああ、そっちの方かよ……」


 


 ―――ああ。まるで―――





  かすかによぎる記憶を、頭を振って追い出す。


「……ま、いいさ。お茶の一つも買えば百円にリョーガエできるしな。じゃあ行こうぜ、サブ」


 無造作にノブを掴んで回す。歪んだ扉は澄んだ金属音を立てて、いともたやすく開いた。


「さっさとカタづけねえと、本当におばはんがキレちまうぜ……って、なんだ?」


 振り返ると、サブロウがぽかんとした表情で突っ立っていた。


「……いえ。アニキに名前を呼ばれたのは初めてだったモンで」


「そうだったか?」


 確かに事実だった。それまではずっと”お前”や”おい”で通してきていた。


「あー。あのおばはんがサブサブ呼んでいたんでつい、な。サブロウでないとイヤだったか?」


 よくよく考えれば、当人の口調とも相まって、いかにも三下のような呼び方である。だがサブロウはぶんぶんと首を横に振った。


「サブでいいっス。なんていうかその。……よろしくお願いします、アニキ」


「ん、よろしくな、サブ」


 わざとぞんざいを装ってサブロウに答えると、五百円玉を懐にしまい、乾史は階下へと向かった。


 口に出す必要はない。今の乾史は、妙に気分が浮き立っていた。


 だがそれが己の仕事を果たした達成感だという事に、まだ気づいてはいなかった。


 ―――そう。ここでなら。


 オレも新しい何かを、つかめるのかも知れねえ。







「ひちくひしょう、ひくひょうあのガキ…!!」


 ぼたぼたと流れ出る鼻血を押さえながら、宇都木は薄暗い裏通りをよろよろと壁伝いに這い回った。その後ろでは、腹を拳で撃ち抜かれて、ろくに呼吸も出来ない蟹江が中腰のままよろよろとついてきている。


 かき集めた仲間は皆逃げ散ってしまったか、まだあのビルの屋上で気絶したままだった。


 何もかも終わりだった。チンピラ社会では、実力以上にハクがものを言う。ガキ一人に集団で武器まで使って負けたとなれば、宇都木達のハクは完全に消え失せる。


 そうなれば、今度は彼らがカモにされる側にまわるのだ。もうこの街にはいられなかった。


「ゆるはさへねぇ…、ゆるはへぇふぉぞ…!!」


 陳腐な、だがそれゆえに深刻な呪いの言葉を紡ぎながらのたうちまわる宇都木。その傍らに、足音もなく一人の男が立っていた。


「へめぇは……」


「ご苦労様。これが所定のアルバイト代だ」


 その男、異様に長い手足を持ち、執事のような服に鎖と髑髏を模したアクセサリーを身につけた若者は、ごく穏やかな表情で、茶封筒に入った紙幣を宇都木に差し出した。


 それを見上げた宇都木の目に憎悪が満ちる。鼻血をぬぐった。前歯の無い口から苦労して発音する。


「てめぇ……。よくもだましやがったな、こうなることがわかってやがったんだろう」


 執事姿の男は、さも心外だと言わんばかりに、長い腕を掲げてみせた。


「何も嘘は言っていないつもりだが。生意気な子供を十人がかりで痛めつけてくれたら、日当でまとめて十万円を払う。人間としての最低限のプライドにさえ目をつむれば、充分に過ぎるアルバイトだと思うがね?」


 要らんか?という仕草でひらひらと封筒を振る。宇都木が反応しないと見ると、ため息をついて封筒を懐にしまい込む。


「まさか、腕っ節を持って鳴る諸兄が、子供一人に返り討ちに遭うなどという可能性は考慮してなどいないさ」


 男の表情はあくまで涼やかだ。慇懃無礼、という言葉を具現化したようなその佇まい。


 その表情は、もともと感情の沸点が低かった宇都木を逆上させるのに充分すぎた。


「コケに……しやがって……!!」


 目が据わった。もはや鼻血をぬぐおうともせず、再び巨大なサバイバルナイフを抜き払う。


「おや、まだ何か用かね?」


「うっせえ!こちとらてめえをボコにしねえと気がおさまらねえんだよ!蟹江!!」


 執事姿の男の背中に声を飛ばす。見れば、蟹江も鉄パイプを構えて男の後ろに回り込んでいた。どうも挟み撃ちがこの二人の常套パターンのようだ。


「どうせてめぇもワケありなんだろ?となりゃあこんな十万ぽっちじゃあ全然足りねぇな」


 ナイフを構えたことで、またも強気になったのか。宇都木が言う。


「この際だ、有り金ぜんぶ出してもらうぜ、アア?」


 男は、頭を軽く掻き、次に大きくため息。


 そして、はたと手を打った。


 ここにいたってようやく宇都木の言いたいことを理解した、と言わんばかりのジェスチャーである。


「なるほど!それで俺に一人で喧嘩を売ろうと言うわけだな」


「あぁ?馬鹿かてめぇ。こっちは二人がかりだろうが!?後ろにもいるんだよ!」


「どこに?」


 気のない男の返事。そこで初めて宇都木は気がついた。蟹江の様子がおかしいことに。


「あ……蟹江?」


 蟹江の顔が、へこんでいた。


 へこむ、という字形の通りに。


 顔が陥没していたのだ。


 男の声が引き金になったかのように、蟹江はそこでようやく、鉄パイプを取り落としアスファルトに倒れ伏した。うつぶせになった顔を中心に、流血の小さな池が生まれていく。


「ひ……ひぃっ!てめぇ、蟹江に何をしやがったんだ!」


 宇都木はナイフを構え、る事が出来なかった。


 つい先ほどまでこの手にしかと握っていたはずのサバイバルナイフ。それが瞬きする間に、その手からはね飛ばされてしまったのだ。


「ああ。やっぱり俺はお前らみたいなのを相手にしてる方が性に合ってるな」


 男の態度が変化していた。今までの慇懃無礼な執事のそれとは明らかに違う、獰猛極まりない表情。


「一言、人生の数年ばかりの先輩として説教垂れておくとだな、お前。もう少し相手を観察する眼と鼻を養った方がいい。弱いなら弱いなりに、牙を剥いていい相手かどうかを見分けられるようにならんと、チンピラもつとまらんぜ」


 見れば、男の左手には、今まで宇都木が構えていたはずのナイフが奪い取られている。


 ここでようやく宇都木は理解した。それまでは、野良犬が血統書付きの坊ちゃんに噛みついたつもりだった。だが、事実は。


 血統書付きは確かだが、相手は選りすぐられた軍用犬だったのだ。


「ま、お前の方からかかってきてくれて正直ありがたい。大切な親族に傷をつけたお前達にも制裁を加えてくれ、てのがうちのワガママな依頼主の意向でな。


 さりとて仮にも一般人への暴行は認められないし。どう折り合いをつけたものかと悩んでいたのだが―――これで正当防衛。遠慮もいらない」


 宇都木には男の言っていることの半分も理解できなかったが、今言うべき言葉は、本能的に理解していた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!許してくださ―――」


 目の前で何かが弾ける。そこで意識が途切れたのは、宇都木にとってささやかな幸福だっただろう。





「………もしもし。ふむ、麻生さんと話すのも久しぶりですな。氷の如く美しい声も変わりなく重畳。今度食事でもいかがですかね?…………は、はは、ははは。相変わらず手厳しさ極まりなしですか。


 ……ふむ。やはりヒットしましたか。では、情報をいつものようにメールで送ってくれると助かります。ああ、それではよろしく」


 携帯電話を懐にしまう。そこで男は己の拳についた返り血に気がついた。胸元のハンカチを取り出そうとして考え直し、ポケットティッシュで無造作に拭き取り捨てる。


「さて、情報は揃い、戦力も量れた」


 表通りに抜けた男は、ネオンの光を浴びながら、鋭い眼光を通りの向こうへと向けた。


「観察は終了。狩りを始めよう」

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