表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/178

◆11:ア・スモール・ミラクル

 水流に攫われた拍子に海水を吸い込み、むせることによって更に海水を飲む。肺に水が入ると、呼吸が乱れる。苦しみもがけば、さらに水が。悪循環に陥れば、溺れるまではあっというまだ。



 ガラスの向こうは静かな世界



 (……海は……。いつも美しいな……)

 水流に流される。

 アクリルの破片、水族館の設備。そういったものがたちまち遠ざかり……。

 今、海の中にいる。



 降り注ぐ、光の帯



 (……爆弾も……解除……)

 水族館の崩壊も、地上部の原子力発電所には影響はないはずだ。



 星のような珊瑚



(……エコテロリストも、店じまいか……)

 全身の皮膚から、水を飲んだ内側から、ひんやりとしたものが染み込んでゆく。

 無音の世界。水圧できしんだ頭蓋が、しんしんと音を立てる。



 虹色の熱帯魚



(……やっと、これで……)

 疲労の極地のように眠い。

 多幸感。

 きっとこのまま意識を手放せば。



 ゆらめくイソギンチャクの森



(………………はは、だめだ……)

 だというのに。



 どこまでも青い、水のとばり



(…………やっぱり……。死にたく、ない……)



 水中にかすかに響く甲高い笛のような音。



 助けなど来るわけがない



(……ああ……)

 起きていなければと思うのに眠い。眠いと自覚できないほど眠い。



 誰にも気づかれず、気づいたところでもう手は届かない



 水中に響く、甲高い笛のような音。

 (…………え…………?)



 そこに助けがあると言うなら


 (……かみ……さま?)



 それは間違いなく奇跡だろう



 水中に轟く、甲高い笛のような音。

 

 (…………なにかが、下から…………!)

 

 なにか巨大なものが下からせりあがり、彼女の体をとらえた。

 そのまま上昇。上昇。


 海面が明るさを増し、巨大な水柱を立てて、彼女ら――


 水城祥子と。

 巨大な、本物の白シャチが。


 海面に姿を表した。





 激しく何度も咳き込み、必死に水を吐き出す。

 呼吸を整え、ようやく意識がはっきりしてくる。


「……わたし……いき……てる……?」


 自分が、何か巨大な生き物の上に乗っていることに、ようやく気づいた。


 甲高い笛のような音。

 海中で、自分に向けられていた音。

 それは。


「白いシャチ……私を助けてくれたのは、貴方?」


 彼の。呼びかけだったのだ。


 甲高い笛のような音。肯定するかのように。



 それは海で起こった、小さな奇跡。



 だけど、私の人生を変えた奇跡。



 そう。


 その奇跡が忘れられないから、私は――

 


 

 彼に。また会いたいと思ったのだ。


気に入ったら↓よりブックマークお願いします!感想お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ