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◆03:蒼いとばりより

 リゾートビーチでも、事故は起こりうる。


 例えば離岸流。岸から海へさかのぼる潮の流れ。これに捕まると、ビーチで泳いでいたつもりが、あっという間に沖へと流されてしまうのだ。


「助けて! お母さん、お父さん! ねえ! ねえみんな! 私、流されてる、戻れないの!」


 私の懸命の呼びかけに、ビーチの家族は笑って手を振り返す。

 なにかの悪夢のような光景だったが、長じた今となっては、それが無理もないことだとわかる。溺れてもがく人間は、遠くからは水面ではしゃいでいるように見えるものだ。


「違うの、ふざけてない! どんどん、本当に、気づいて! 脚が、誰か、誰か……!ごほっ」


 パニックが事態を悪化させる。

 叫んだ拍子に海水を吸い込み、むせることによって更に海水を飲む。肺に水が入ると、呼吸が乱れる。苦しみもがけば、さらに水が。悪循環に陥れば、溺れるまではあっというまだ。


 滑ったように体がかしぎ、天を仰ぐ。

 

 家族とともに計画を練り、カレンダーに印をつけて待ち望んだ南の島への旅。

 陽光の降り注ぐ美しい空。

 あれほど焦がれた美しい青が、視界いっぱいに拡がり――海水に閉ざされる。



 波音が消える。


 すべての音が遠のき、かわりに無数の泡のはじける音、しんしんと頭蓋のきしむ音、己の体内の音がかすかに響く。


 自分の口から大きな泡の塊が出ていく。それが自分の肺に残っていた残りの空気だということはなんとなくわかった。


 海中。


 私は、沈んでいっている。



 ……き、れい……。ダイビングの、写真みたい……



 海面を仰ぎ見る。



 ……太陽、遠くなって……



 もう、苦しくはなかった。



 ……そうだ、ユキにメール返さなきゃ



 やらなきゃいけないこと。



 ……夏休みの宿題しないと



 やりたかったこと。



 ……ラッキーも散歩に連れていかなきゃ



 他にも、もっと。




 ……あ……。死にたく、ないなあ……



 助けなど来るわけがない。



 ……ああ……



 誰にも気づかれず、気づいたところでもう手は届かない。



 …………笛の……音……?



 そこに助けがあると言うのなら。



 …………なにかが、下から…………!



 それは間違いなく――

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