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◆13:大人気ゲーム、その制作者達

「さて、どうしようかねえ」


 金庫の大扉の前で腕組みをして佇むおれの側に、スケアクロウを倒した真凛が駆け寄ってくる。


「何してるの?」

「いや。どうやってこいつを開けようか、とね」


 真凛の顔が青ざめる。


「ひょっとして、使っちゃった?」

「うむ」

「ど、どーするの!?アンタの能力がないとこんな金庫開けられるわけないでしょ!?」

「ンなこと言ったって仕方がないだろう!!さっき門宮さんとの戦いで全部使っちまったんだから!!」

「出会い頭に決着つけておけばよかったのに。女の人相手だとすぐ様子見に走るんだから」

「し、失敬ダナ君は。相手の能力もわからんのに迂闊に攻撃をしかけるわけにも行くまい。戦術だよ戦術」

「どうだかねー」


 ま、何はともあれ二人して銃弾やら剃刀の嵐やらをかいくぐったのでボロボロのありさまだ。金庫の側にはカードキーを差し込むとおぼしきスロットがあるのだが、ろくに解除コードもわからないのに迂闊に手を触れたりしたら、今度こそセキュリティが起動するだろう。


「……しかたない。ちょいとヤバイが、三発目トライしてみようか」


 ハッキング用のダミーカードを取り出すと、おれは一つ、深呼吸をする。と、真凛の表情が締まる。


「どうした」

「上の階に人の気配。降りてくるよ!」

「それってやばくね?」


 おれは身を隠す場所を探そうとして、周囲のあまりの惨状に改めて気がついた。ナパームで焼け焦げた床、散らばるぬいぐるみと倒れている女性、いまだ止まらぬスプリンクラー。無数の弾痕に、両腕をもがれた大男が倒れちゃったりもしてる。火事と台風がまとめて通り抜けたがごときその有様はまさしく『人災派遣』の名に相応しいものだった。


「この現状見られたら、おれ達殺人犯もいいところだよなあ」

「なに呑気に第三者っぽく論評してるんだよ!」

「いやー、おれ腕千切ったりはさすがにしてないからなあー」

「女の人をスタンバトンで殴った鬼畜が何をっ……」

「まあ、身分証明書の類も持ってないし、いざとなれば逃げれば何とか」

「ボクは制服着てるってわかってて言ってるでしょソレ!?」


 おれ達があーだのこーだの言い合いをしているうちに、上り階段に靴音が響き、男がひょっこり顔を出した。


「よう。お前さんたちが『人災派遣』のメンバーかい」


 Tシャツにジーンズというラフな格好をした、中年の男だった。


 

「そう構えんでくれ。俺は山野ってえんだ。ザラスのソフト部門の専務だよ」


 その男は、そう言っておれに一束のカギを投げて寄越した。キーホルダーにはカードキーと思しきものも括りつけられている。


「こいつを使ってくれ。金型が入ってる引出しまでなら開けられるはずだ」


 おれは空を泳いでいる猿を見たかのようなまぬけっぷりで口を開けていたんだと思う。おれと似たり寄ったりの表情でぽかんとしていた真凛が一瞬先に我に返り、おれをどついた。


「と。失礼。こりゃまた一体どういう風の吹き回しですかね?」

「ああ。その節はうちの営業連中が馬鹿やってすまなかったな」


 山野さんは懐からタバコを取り出すと、百円ライターで火をつける。


「このケッタクソ悪いビルの中でヤニ食えるってのはいいもんだね」

「いやまあ、たしかにいまさら煙草の煙ぐらいどうってこたないと思いますが」


 ひとつ、美味そうに吸い込んで煙を吐き出す。


「俺さ、韮山とは昔チーム組んでたのさ」


 あ、と真凛が声を上げる。


「山野さんって。そういえば韮山さんが言ってた。昔ゾディアックを一緒に作った人」

「韮山さんのお師匠さん、ですね」

「そーゆーコト。ま、韮山のウチに砂かけるようなやり方も俺はどうかとは思うがね。それよりもまあ、今回のウチの連中のやるこたあその万倍気に入らねぇのよ。役員がぽろっとこぼしたから問い詰めてみりゃあ、何よ金型強奪したって。思わずしばき倒してカギを借りてきちまったぜ」


 にやり、とワイルドな笑みを浮かべて口の端から白煙をどろどろと吐き出す。


「……そういうことなら。遠慮なく開けさせてもらいますよ」

「おっと。それはいいんだが。礼代わりと言っちゃ何だが、一つ頼まれてくれないか?」


 カギを弄んでいた指が止まる。


「何でしょう?」


 その時の山野さんの、なんとも楽しそうな笑顔は、それからしばらく忘れがたいものだった。


「韮山に伝えてやってくれ。お前等のルーンの続編なんて、俺たちが今作ってる『ゾディアック2』ですぐにランキングから叩き落してやるからよ、ってな」


 おれもにやりと笑みを浮かべる。まったくもって、異能力者、なんてものが天下を取れないのは当たり前の事だろう。世の中を少しずつ周していくんのはおれ達じゃない。こういう人たちなんだろうな。ま、そのぶんドンパチはおれ達が担当するわけなんだが、それはそれできっと世の中上手く出来ているんだろう。


「たしかに伝えますとも。その言葉」


 

 金庫は無事に開き、おれ達はお目当ての金型を確かにゲットすることが出来た。


「窃盗団も気が利いてるな。きちんと梱包してあるぜ」


 精密な造詣を得るためには金型のキズ、欠けは致命傷なのだそうだ。正直、ザラスはなぜ強奪した直後に金型を壊してしまわないのだろうか、とも思っていたのだが、この梱包を見て若干ザラスへの認識を改めることにした。山野さんのコメントを聞いて何となくわかった気がする。彼らとて素晴らしいゲームに成りうるものを、無為に壊すことは出来なかったのかも知れない。


「動かしても大丈夫だろうな。これとこれとこれ、と。やっぱり追加キャラが多い分、結構量があるな。ほい真凛」

「ちょっと待てぇ!!本気で言ってるの!?」

「何のためにキミが派遣されたと思ってるのカネ?」


 まあ何だ。金型は金っていうくらいだから金属で出来てるわけですよ。で、プラスチックを流し込むわけだから、型はそれを覆うだけの巨大な鉄のブロックになるわけで。結論から言うととっても重いと、そういうわけだったりする。


「ってアンタねえ!いくらなんでも状況的に思うところはないわけ!?」


 おれはバッグからロープや縄梯子に変形する便利キット『ハン荷バル君』を取り出して手際よく背負子(しょいこ)に組み上げ、真凛に背負わせる。


「何を言ってるのか。おれじゃ一個も運べないってばよ」

「だからってボクだってこれは……」

「鍛錬だ鍛錬。もっと強くなりたいんだろう」


 適当に真凛を丸め込んでおいて、山野さんに貰ったカギを返した。営業の連中を殴り倒したという彼の今後が気になるところだが、多分、本人はあまり気にしないんだろう。


「じゃあな。坊主。おれはこれからまた一仕事せにゃならん」


 山野さんはタバコを床に押し付けると腰を上げた。


「ひと仕事って。もう零時回ってますよ?」


 言うな真凛。ソフト会社の人間に時刻は関係ないんだよ。


「っておい!リミットまでもう三時間ないじゃないか!!」


 おれと真凛はすっかり忘れていた事実に愕然とする。ここまでやっておいて時間切れ等となったら、殺される程度ではすまない。あのあくまの様な所長に比べれば、おれらの能力などなんの意味もありゃしない。


「やっべえ!!急ぐぞ。これから川口まで全力で飛ばすぜ!!」

「えっ、もしかしてまた?」

「ああ。ちょいとばっかし荒っぽくなるけど気にすんな」


 山野さんをその場に置き去りにして、おれは一目散に入ってきた地下通路へと向かう。後方から金型を背負って追いすがる真凛の顔が再び青ざめていたような気がしたが、階段を駆け下りるおれはさして気にも止めなかった。

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