臨終~速水御舟「闘蟲」より
速水御舟「闘蟲」1926年
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いつか負ける時が来る
死神の鎌が降り下ろされ
次の瞬間には
生きてきた全てを失う
静かな空間で
自分だけが必死に足掻くことだろう
ジジ……ジジジジ……
それでも その日は
きっと ただの一日
世界は続いて行く
けれど 誇っていいのだ
土の中で耐えた長い日々を
ようやく這い出て
己の羽で飛び立った瞬間を
短いと知りながら
精一杯 歌った夏を
誇っていいのだ
小さな命を尽くしたのだから
厳しい世界を生き抜いた誇りを懸けて
その時がやって来る最後まで
闘う
ジジ……ジジジジ……
ああ 体の奥から音が聞こえてくる
ゼンマイ人形が
巻かれた命を使い果たすまで
先に進もうとしている音が
ジジ……ジジジジ……
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メメントモリ Memento Mori
「死ぬことを覚えておけ」
ラテン語です。
命は有限だ。死は必然だ。
それを認識しよう。そうすれば、今この時を大切に生きることができる。
この概念は、紀元前1世紀の古代ローマから現代に至るまで、哲学、宗教、芸術などに影響を与えてきました。
古代ローマでは、戦いに勝ってパレードをする将軍に、奴隷がこのセリフを囁くという風習があったそうです。
「あなたも死すべき存在である」
勝って、いい気になるなよ。お前も俺と同じなんだ。人生の儚さを思い出せ。
中世ヨーロッパは、戦争やペスト(黒死病)の流行に襲われた暗黒の時代。
特にペスト。身近な家族が高熱と下痢に苦しみ、あっという間に死んでいく。
有効な治療法もない。
人の命は、もろい。身分や勲章なんて関係ない。死の前には無力だ。
当時の人々は、その現実を心底思い知らされたのでしょう。
芸術作品には、死を象徴するモチーフが多く取り上げられるようになりました。
骸骨や砂時計、枯れた花などが挙げられます。
そして、16世紀ルネサンス期以降、「ヴァニタス」という静物画のジャンルとして発展していきました。
前述したモチーフを描くことで、見る者に思い起こさせるのです。
死の必然性、人生の儚さ、虚栄の無意味さを。
ピーテル・クラースゾーン「髑髏と羽根ペンのある静物」
(1628年) メトロポリタン美術館
メメントモリ。
実に多岐にわたって人間の歴史・文化に溶け込み、今も変容し続けています。
哲学なんて、流れを辿るだけで、膨大な内容になってしまいそう。
でも、実際に自分の問題として考えてみると、どうなるのかなあ。
ウェルビーイング、自己啓発とか?
スティーブ・ジョブズ氏も、スピーチでこの概念を取り上げていましたね。
絵本や児童文学が好きな私は、こちらの本を思い浮かべます。
「メメンとモリ」 ヨシタケシンスケ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322210000628/
難しい話を、こんなに易しく、分かりやすく表現できるなんて、すごい!
でも、この本は「これから人生を生きていく者」の方に、より強く語っている。そう感じました。
絵本の読者は、まず子どもなのだから、当然か。
(もちろん、大人にも刺さる素晴らしい内容です)
では、「これから人生の終幕を迎えようとしている者」は?
老いや病気などで、あらためて死を考える必要に迫られている。
その場合、「メメントモリ」の警句をどう活かせばいいのでしょう。
同じではありませんが、似たようなものとして。
仏教には「無常」という教えがあります。
すべてのものが変化し、永遠ではない
人生の有限性を認識し、現在を大切に生きなさいと諭す。
また、神道には「祖霊信仰」という考えがある。
亡くなった人々の魂は、家族や地域社会を見守る存在となる。
だから、死を恐れるのではなく、受け入れる姿勢が強調される。
外国から入って来た理念ではなく、日本に古来から根付いている宗教や思想。
そこに立ち戻れば、また一つの答えが存在するのかもしれませんね。
【AIイラスト】
ヴァニタスを日本画風にしてみました
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次回は同じく速水御舟、あの最高傑作の予定です! さてなんでしょう?




