7 洞窟にて
小高い岩山の麓にぽっかりと空いた洞穴は入り口は狭いが中は広々として六畳二間くらいの広さだ。”二間”っていうのは中が瓢箪みたいな形になっているからだ。
「砂が引き詰めてあってなかなかと快適そうだな」
石の壁には張り出した岩がいくつも有って棚やテーブル代わりになりそうだ。
「そうだろう? 雨が降ったりするとここで遊んだりするんだ。たまにしか使わないから 兄ちゃんが使っても良いぜ。ただ、中で火は使うなって父ちゃん達が言ってる」
父ちゃん達が此処で子供が遊んでること知ってるんだ。まあ、子供の秘密基地なんてそんなもんだよな。
「なんで中で火を使っちゃいけないんだ?」
「何年か前によそから流れてきた異世界の人が 動物が入らない様に入り口を塞いで火を焚いたまま寝ちゃったらしくて そのまま死んでたんだって。狭いとこで火を焚くと時々そんな事があるらしい… 」
えー、待った待った、気になるワード多すぎ。異世界の人? 死んだ? この洞窟で?
「異世界の人って⁈」
「ああそれは本当にあんまりない事なんだけど なんかここじゃない世界? 国が違うとかじゃなくて俺らが想像も出来ないような世界? から突然ここに現れる人がいるらしい。
魔法が使えないとか、生活の仕方や常識を知らないとか…… 兄ちゃんはこの辺の常識知らないけどアイテムボックス持ってんだろ?
異世界人はアイテムボックスも持ってないらしいぜ」
そうなんだ・・・
異世界人は魔法使えないんだ。チャリは魔法使えるのに…
俺、チャリと一緒で良かったぁ。魔法も知識も無くてたった一人なんて心細すぎる。今はそれより気になる事が有る!
「死んでたって、この洞窟の中で⁈」
「うん。ここで死んでたらしい」
「えー、怖すぎない? お化けとか幽霊とかで無いの?」
「お化け?幽霊?── なにそれ?」
「死んだ人の魂が成仏出来ずに彷徨って化けて出るんだよ。悪い事したら父ちゃんや母ちゃんが ”お化けが出るぞ” って脅さないか?」
「そんなの聞いた事無いし、父ちゃんや母ちゃんが子供の時は脅し文句付きで叱られたって言うけど 今は虐待になるからってそんな野蛮な事はしないぜ」
わー 異世界の教育方針、進んでるわ。おまけに異世界に幽霊という概念は存在しないらしい。
脅し文句で育った自分が恥ずかしくなってきた。
「でもここで人が死んでた、なんて遊んでて気にならないのか?」
「なんで? 一人っきりで住んでたから村の皆も気にしてて 毎日様子見に来てたから死んでからすぐ見つけた、って言ってたし 爺ちゃんや婆ちゃんになったら自分家で死ぬのが普通だろ?
ここはその異世界の人の家みたいな所だったんだから 死んでても何も気にならないよ」
やっぱこいつ神童だわ… 俺より考え方がしっかりしてるわ・・・
「そ、そうだな。じゃあ暫くここ使わせて貰って良いか?」
「いいよ。こいつ等と飯ご馳走になったし兄ちゃんは悪い事しない、って信用出来る。それにたまに旅人とかも使ってるみたいだし誰の物でも無いから気にしなくて良いよ。寒くないから大丈夫だと思うけど くれぐれも火を使う時は外で使ってくれよな」
「大丈夫だよ。俺だってまだ死にたくは無いからそれは肝に銘じておくよ」
じゃあまた明日、と言って子供たちが帰っていった後、洞窟の中を改めて見回す。火を使うな、って言われても 夜の間真っ暗なのは何かと不便で困るから灯りになる物が欲しい。
そこで今までで気付いたチャリの不思議な籠の機能について検証してみる事にした。
チャリに近付いてお願いしてみる…
「いつも俺が夜釣りに持ってくランタン出して」
するとランタンが籠の中に現れた。
「LEDトーチライト出して」
何も現れない。
「俺の布団出して」
何も現れない。
「静香のお昼寝セット出して」
二年前まで保育園児だった妹の昼寝用布団が現れた。おっ母が長期休園の前後にチャリで運んでいた幼児用布団セットだ。
「おっ母の作った弁当お願い!」
俺が忘れた時届けてくれた弁当の一つが現れた。
「仙台の牛タン弁当!」
出ない・・・
「俺のベンチコートだして」
冬に来ているベンチコートが現れた。
ここまでの検証では過去に自転車に積んだことがある品物は 俺がチャリに乗る時に身につけていた物も含めて ”新品の状態” で出てくる事が分かった。それも同じ品物を積んだ数に関係なく俺が望んだ数を出して貰える様だ。これならお金を稼げなくても最低限、衣食だけは確保出来そうだ。
ただ住む所だけは気候が変わる前に何とかしないと 凍死か一酸化炭素中毒死は免れないかもしれない・・・




